5-10 ヒヒイロカネ
朝になり、日課の鍛練を再開する。先ずは型を、続いて乱取りをする。メキメキ上達するビビに、俺も嬉しさが増す。今回から、木刀を振る鍛練も追加した。にわか剣法だが、折角作った刀だ。死蔵させるのは勿体ない。使うかどうかは別にして、鍛練は欠かさずやる事にした。
毎日素振り五百はしないとな。
やり方はわからないが、それでも素振りをする。上段から下段への、素振りだ。よくみる基本だろうから、それを繰り返す。
ビビは、黒狼爪を使った型をしていた。黒狼爪は重いので、それだけで鍛練になる。
マリアも、水鉄砲の訓練を再開した。手首の怪我は癒えたからだ。今度はリストバンドを作る予定だ。
少しだけ遅めの朝食をとる。朝食は基本だ。しっかりと食べよう。
「今日はどうするの?」
「作りたい物があるから、材料を探したいな。」
「わたしはソーイチについていく。」
「私もです。」
「私も用事はないし、それで良いわ。」
「決まりだな。」
今日は買い物と製作になった。
買う物は決まっている。金属と、革だ。金属は、俺用の装備を作る為に。革はマリアのリストバンドだ。
まあ、革は翼龍の革があるから、買う必要はないが、他にもないか探すのも一興だ。
金属はなるべく良いものが良い。ミスリルというファンタジー金属があるのだから、他にもあるのではないかと探してみた。
チタンにタングステンとかないかな?類似品でも構わないんだけど、やっぱり堅さと軽さは必要だよな。余り重いのは必要ないし。
先ずは革を探す。これといって目ぼしい物はなかった。だが、種類は豊富だったのは意外だ。一応、牛の革を購入した。堅さがまずまずだったからだ。固定にはちょうど良い。
留め具のような物もあったので、それも購入。色々な物があって助かる。
マリアの分は終わった。次は俺の番だ。
金属はやはりガベラに聞くのが一番だな。そんな訳で、ガベラの作業場に来た。
「今度はどんな用事だ?」
「良い金属がないかと思いまして。ありませんか?」
「どんなのが良い?都合に合わせる。」
「軽くて硬い金属が良いですね。防具を作りたいと思いますから。」
「防具か。また面倒な物に手を着けるな。」
確かに、防具は武器より構造が複雑で、難易度も上がる。全身鎧を作る気はないから、そこまで時間も手間もかからない。
「目当ての金属は、あるにはあるが・・・。」
「どうしましたか?」
「今、手持ちがない。」
「それは何ですか?」
「ああ、ヒヒイロカネだ。あれなら軽くて硬い。魔力をとおせば尚更だ。」
おお、ヒヒイロカネ!ファンタジー金属!どんなものか見てみたい!でも手持ちがないって言ってたな。
「この山はたまにヒヒイロカネが取れる。採掘をするか、卸されるのを待つか。」
「採掘場所はわかりますか?」
「ああ、北の山だ。一度国を出て、山に向かうしかない。魔物も出る。過酷な採掘になるだろう。」
「だいたいの地図を作って頂けませんか?それだけで、十分ですので。」
「行くのか。」
「必要になる、と思いますから。」
「待ってろ。」
と言って、ガベラが席を離れる。待っている間に俺は頭の中で図面をひく。装飾はいらない。シンプルで機能的な物だ。
「こいつで良いか?」
持ってきた地図は大体の位置を示す簡単な物だった。まあ、これで全然構わない。
「ギルドに行けば、案内者や護衛も雇えるがどうする?」
「いりませんね。かえって邪魔になります。此方には山に慣れている者もいますから。」
と言って、ビビを見る。微笑むビビ。久々のお出掛けに嬉しいのだろう。尻尾尻尾。
「お前さんがそうするならば、それで構わんが、危険だからな。忘れるなよ。」
「はい、忠告ありがとうございます。では。」
「ヒヒイロカネを手にしたら持ってこい。インゴットにしてやるからな。」
「はい、ありがとうございます。」
俺はガベラの家を出た。さて、採掘になるならば、時間がかかるな。準備も必要だし。
「買い物に戻るか。食糧に雑貨、色々買うぞ。」
「はーい。」
「わかりました。」
「次は採掘か。色々やるわね、あんたも。」
そして、買い物を済ませ、小屋に戻った。クレに暫くは戻らない事を伝え、レンとイトの世話を任せる事にした。
「では、城でお預かりします。」
「ああ、助かるよ。」
それならば安心だ。
今日は早めの急速にして、明日は朝一に出発しよう。
食事に、風呂。今日も女性陣に求められたので、しっかりと相手をする。
心地よい疲労の中、俺は眠った。
★
朝一になり、軽めの体操をして、出発をする。小屋は無限保管に入れる。
国の門番に理由を伝え、出国。北へと向かった。
それは厳しく険しい山道だった。ので、テラスとマリアがすぐに音を上げた。ので、テラスとマリアを抱き抱えて、山を駆け上がる。ビビは複雑な表情をしていたのは見なかった事にした。
地図によれば一山先にある。簡単に二日はかかるだろうか。だが、俺達は休憩を挟みつつ、一日でその場所に到着した。
細かい場所を探すのだが、ここはテラスに任せた。テラスの指差す方向に向かう。そこには崖があった。地表を露にした崖だ。そこを指差すので、そこにつるはしやシャベルを入れる。作業は俺とビビが担当だ。俺製の特別な道具なので、サクサク掘れる。簡単だ。
マリアは待機。テラスは自由にさせた。
小屋を出すスペースがあったので、小屋を出して、そこで休ませる。
俺とビビはどんどんと掘り起こす。
ある程度掘ると、何やら金属がゴロゴロと出てきた。そこでマリアの出番だ。
鑑定してもらい、物を確定してもらう。鉄に鉛、銀に宝石と、色々出てきたが、目当てはまだだ。
俺とビビはどんどんと掘り起こす。明かりが必用になった位まで掘り起こす。ランタンを使い、つづけて作業をする。
掘っては取り出し、掘っては取り出し、を繰り返す。
一日が終了し、ゆっくりと休む。
テラスに方向を確認すると、合っているので、それを信じて明日も掘ることを決定した。
そして、掘ることを三日目。ようやく硬い岩盤にぶち当たる。
それを砕いて先に進むと、赤く光る鉱石を発見した。それも複数。それを掘り起こし、運び出す。
マリアの鑑定で、意味不明が出た。ようやくだが、目的の代物が出たようだ。
赤く光る鉱石。間違いなく金属のそれは、ヒヒイロカネだろう。マリアの鑑定で意味不明なのだ。今までに見たことがない代物だからだろう。マリアはヒヒイロカネは見たことがないと言っていたし。多分、間違いない。
出てきた鉱物と宝石は無限保管に突っ込み、休むことにした。
次の日、同じようにテラスとマリアを抱き抱え、ドワーフの国に戻った。
昼間に到着したので、そのままガベラの家に向かう。光る鉱石を見せると、ガベラは驚きを隠せなかった。
「こいつがヒヒイロカネだ!それもこんな上物をこんなに沢山!よく見つけたな!」
「ええ、運が良かったですよ。」
「よし、これからこいつをインゴットにしてやる。明日、また来い!」
「わかりました。そうします。」
西の地区、同じ場所に小屋を出す。続いて、マリアのリストバンド作りだ。
牛革は固く、翼龍の革はしなやか。これを組み合わせた。固定には牛革を稼働部には翼龍の革を使った。結構簡単な仕組みなので、夜には完成した。無限保管に入れ、性能向上も忘れない。これをマリアに渡す。
「良いわね。これなら手首を痛める事は無さそうだわ。」
「作った甲斐があった。」
「うん、ありがと。」
デレたマリアは可愛い。いや、いつも可愛いですよ。
夜の食事に風呂、え?今日もですか?仕方ないなあ。
夜の一家団欒を済ませ、眠る。
次の日、朝は変わらない日常。型に乱取り、素振りと身体を鍛える。朝御飯をしっかりと食べ、今日の用事に備える。
ヒヒイロカネか。楽しみだ。
気が逸っているのか、朝食を済ませて、すぐにガベラの元に向かった。
「はえぇな。」
「早すぎましたか?」
「いや、良いんだがよ。インゴット、完成しているぞ。」
「おお!流石仕事が早い!」
「俺を誰だと思ってやがる!」
「そうでした。それで、インゴットは?」
「作業場にある。ついてこい。」
ガベラの催促のまま、俺は作業場に向かう。
渡されたのは、掌大の大きさのヒヒイロカネのインゴット。全部渡して作られた純度100%に程なく近い代物だ。
「作業行程は聞くなよ。企業秘密だからな。それで、お前さんはこのヒヒイロカネを何処で加工するんだ?」
「はい、専用の小屋があるので、そこでやる予定ですが。」
「ヒヒイロカネは半端な火力じゃ、響かんぞ。その炉は、高火力に耐えられる炉なのか?」
「はい、多分大丈夫です。」
「いや、それにお前さんタイミングもわからないだろう。」
「確かに、それはそうですね。」
「うちでやっていけ!俺がタイミングを教えてやる。」
「それはありがたいです。少々お待ちを。」
俺は、テラス達に話しかける。
「そんな訳で、ここで作業になりそうだ。完成まで一気にやるけど、皆はどうする?
「ソーイチのそばにいるよ。」
「はい、完成まで待ってます。」
「いやいや、現実的に、小屋で待つのが妥当でしょ。何日かかるかわからないのだから、ここで待つより、小屋に戻りましょ。」
「ああ。その方が良いな。テラス、ビビ、小屋で待っててくれ。」
「・・・うん、わかった。」
「・・・わかりました。」
気落ちするテラスとビビ。マリアの言うとおり、これから何日かかるかわからない作業に入る。ずっとここで待つわけにはいかない。そんな訳で、テラス達は帰路に向かう。
さて、俺は俺のやるべき事をやる。
★
暴走してかのような、高温の炉の中に、ヒヒイロカネがはいっている。もう作業は開始され、ヒヒイロカネを熱による軟化するのを待っている。
ヒヒイロカネは熱に強い性質があるようで、かなりの高温でなければ、軟化することはない。
この熱量。小屋の炉では無理があったかもな。
しかも、取り出すタイミングを見極めるのが難しい代物だとも聞いていた。色的に、高温の赤い色に隠れてしまうからだ。
集中して、ヒヒイロカネが軟化するのを待つ。開けられた小窓から炎が飛び暴れる。
俺が動くと同時に、ガベラもまた俺に声をかけた。
「今だ!」
ヒヒイロカネを取り出し、金槌で叩く。ガベラも相槌を重ねる。カーン、カーン、と叩く音が作業場に響き渡る。
一つの塊から、一枚の板に変形させる。それを半分に割って、二枚に用意する。
イメージ通りの形にする為に、俺は金槌を振る。なかなかに硬いヒヒイロカネ。それこそ一心不乱だ。
俺が認識しているのは、熱と音だけだ。後は何も感じない。
カーン、カーン、カーン。
集中力が極限まで達したのだろう。ただ、ひたすらに、ヒヒイロカネに向き合う。
時間を忘れた。
俺が我に返った時には、二つの手甲が出来上がっていた。
力が抜ける。完成したそれを見て、俺は力尽きた。
★
気がつくと、俺は見慣れない部屋にいた。ベッドに寝かされており、ヒヒイロカネの手甲を抱えて眠っていた様だ。
「ソーイチ?ソーイチ!」
「ソーイチ様!」
「気がついた!大丈夫?ねえ大丈夫なの?」
抱きつくテラス。ビビとマリアも泣いていた。
「よかった!よかった!」
テラスが離れない。俺の目覚めが嬉しいのだろう。テラスの頭を撫でる。さらさらの髪の感触が、心地よい。
「おう、気がついたか。」
ガベラが部屋に入って来た。
「俺は、一体?」
「お前さんは不眠不休で五日、それを完成させる為に、ずっと金槌を振っていたんだよ。それで倒れてから、二日は寝ていたな。」
そうか、俺はまたやっちまったようだ。
「相槌の俺すら忘れる位に没頭していたからな。気合いの入れ方が尋常じゃなかったな。」
「そう、でしたか。ご迷惑におかけしました。」
「なに、いいってことよ。間違いなく極業物の逸品を作ったんだ。精魂尽きるのも無理はない。」
俺は抱えたヒヒイロカネの手甲を見る。まだ、研磨に調整と完成はしていないが、形になったその手甲を見て、充実感が涌き出てきた。
「飯は食えるか?」
「はい、大丈夫です。」
「持ってきてやる。しっかりと食えよ!」
ガベラが退室し、また部屋が静かになる。その静寂を破ったのはマリアだった。
「馬鹿!!本当に馬鹿!」
「悪い。」
「どれだけ心配したかわからないでしょ!あれほど根を詰めるのは止めてって言ったわよね!」
「すまない。」
「本当に馬鹿なんだから!」
マリアがまた泣き出した。それにつられ、テラスやビビも泣き出した。
また心配をかけてしまった。反省をするのだが、何回も繰り返す。これはやはりあれだな。チートの副作用だな。
「それで、できたの?」
テラスが手甲を見て、聞いてくる。
「ああ、大体は完成した。後は微調整と紐付け位だな。」
「それは小屋でも出来るのですか?」
ビビも聞いてくる。
「ああ。後は小屋でやるさ。」
「また、倒れる事は、ないわよね?」
マリアもだ。
「ああ。もうそんな手間はかからない。」
「そう、少しだけ安心したわ。」
そうこうしていると、クレが食事を運んで来た。テラス達の分もだ。
しっかり食べて、回復しよう。そう思った。
「いただきます。」
俺達は久しぶりに家族で食事をとった。




