5-8 錬金術師と黒い石
俺達は、ドワーフの国を観光していた。異種族とあって、今まで見たことのない物から、普通の雑貨まで、あらゆる物を見て回った。
これはマリアの要望だ。ありとあらゆる物を見て、価値を見いだしているようだ。
特筆すべきはやはり武器防具、アクセサリーの細工物といった、金属加工のようだ。
「凄いわね。彩飾も細かいし、技術の高さが伺えるわ。」
「ドワーフだからかな?手先が器用とまでいわれているからな。」
「あんなデカい手で、どうしてこんな細かい作業が出きるのか、不思議だわ。」
ま、ドワーフだし。便利な言葉だと思う。
「さて、買い物もしたし、次はどうする?このまま観光?それとも何かする?」
「食事にするか。」
「さんせー」
「はい。肉が食べたいです。」
「ビビさんは相変わらずね。でも、ここのお肉は絶品よね。気持ちはわかるわ。」
さて、皆も食事で賛成したところだし、適当な所に入るとするか。
「いらっしゃいませ。」
「四人だ。席はあるか?」
「はい、此方へ。」
ちょうど肉料理の店だったので、注文し、沢山食べた。ドワーフは大食漢ともいうから、一人前がかなりの量だ。テラスとマリアは半分で終わったが、ビビはその分いっぱい食べた。
「なんでこんなに食べられるの?しかもそんなに食べてその体型は反則よね。」
わかる。ビビのプロポーションはかなりのものだ。
食事が終わり、一休みしていると、背後に気配を感じたので、振り替える。すると、ムキムキの執事がいた。
「お食事中すみません。国王様より言伝てがございます。王子が回復しましたので、お礼を兼ねて食事会を催します。ご都合は如何ですか?」
「それはよかった。はい、是非参加します。」
「では、本日の夕刻、お迎えに上がります。」
と言って、店を出るムキムキの執事。
「ばいばい。」
「完全に気配を消していました。やりますね、彼は。」
「全然気がつかなかったわ。」
うん、この気配遮断は草原小人のダンデを思い出した。
それにしても、王子の回復か。本当によかった。彼もまた、暗の餌食にされかけた一人だ。魂や器の損耗もあっただろうに。
「さて、行くか。」
俺達も店を出た。
★
小屋に戻り、身支度をする。今夜は晩餐会。いや、食事会か。国のトップとの食事会だから、身なりは整えないといけない。
とはいえ、ドワーフの食事会だ。これまでの経緯をみると、ウエストは緩めにした方がいいと判断した。
身支度を整え、小屋で待つ。すると、クレが迎えに来た。レンとイトも一緒だった。
今まで預かっていたのだ。感謝を。
「お迎えにあがりました。さあ、どうぞ。」
「行者、任せる。」
「はい。お任せ下さいませ。」
と言って、馬車に乗り込む。道が道だが、ゆっくりと進むので、揺れは余り感じない。快適な送迎だった。
城に到着し、そのまま食事会の部屋に招かれる。円卓、大きなテーブルを中心に椅子に腰掛け、主賓を待つ。今回、俺達は来賓だが、主役は王子だ。
俺達が少しだけ待つと、国王に王子が入室した。
「待たせた。」
「いえ。」
「では、これより、食事会を開催する。」
この一言に、食事会が始まった。
いや、もうね、凄かった。前菜にスープと普通と思っていたら、肉がドーンと運ばれた時には驚いたよ。牛丸々一頭分はあるかのような大量の肉。真ん中に鎮座する肉を取り分け、それを食べる。もうね、ビビの目が輝いていたね。
国王も王子もかなりの量を食べている。テラスとマリアはギブアップしていた。ビビはまだまだ食べるそうで、それは凄かった。
デザートも運ばれ、一息。皆が満腹の幸せに包まれていた。
「ソーイチ、本当にありがとう。お陰で命拾いした。」
「いえ、ご期待に添えて何よりです。王子様もご回復おめでとうございます。」
「ギルガドグ、ドグと呼べ。」
「では、ドグ様。」
「まあ、良い。さて、今後の話だが、君達はこれからどうするんだ?」
「まだ決めていませんが、龍の道を進み、東の大陸に向かおうかと思います。」
「それは何故だ?」
「いえ、単なる旅です。見聞を広めるのが目的ですから。」
「そうか。だが、今龍の道は落盤で通行出来ない。」
「はい、ですので、暫くはこの国に滞在しようと思います。」
目的は大体果たした。次は興味本意の旅だ。東の大陸、ウィズ大森林に興味があった。ビビの故郷だし。
「ならば暫くは滞在だな。ゆっくりとこの国を満喫すれば良い。」
「はい、ありがとうございます。」
「さて、ソーイチよ。後で話がある。」
「わかりました。」
ま、でしょうね。聞きたいことは沢山あるだろうな。
「今日は泊まっていくが良い。」
「はい、御言葉に甘えます。」
そして食事会も終わり、俺達は客間に通される。腹がキツキツのテラスとマリア。ソファーに項垂れる。
「そういえばさ、さっき龍の道を渡るって言っていたけど、東に行くの?」
マリアの質問だ。
「そのつもりだったけど、なんか不備があったか?」
「いえ、聞いていなかったから驚いただけよ。勝手に方針を決められたのは腹が立つけど。」
「それは悪い。」
「いいわ、もう慣れたから。それで、ビビさんはそれで良いの?」
「は、はい。」
「どうした、ビビ?」
「いえ、何でもありません。」
「馬鹿ね。ビビさんの心情も考えなさい。故郷に凝りがあるんだから。」
あ!そういえばそうだった。ビビが自発的に喋るのを待っていたが、ここまで色々あったからな。
「大丈夫か、ビビ?」
「はい、大丈夫です。心配ありません。」
「先ず、行く前に家族会議をしましょう。まだ時間はあるわ。慌てる事はないし、ゆっくりと決めましょう。」
マリアの判断に俺は賛成した。ビビの表情が若干雲っていたのが気になるが、俺は待つ事にした。
「失礼します。国王様がお呼びです。」
「わかった。じゃあ行ってくるよ。先に休んでいてくれ。」
「はーい。」
「わかりました。」
「そうするわ。」
そうして俺は国王の元に向かった。
★
国王の部屋だろう。部屋の中には、俺と二人きりだ。俺は国王の対座のソファーに座る。
「料理はどうであった?」
「はい、絶品でした。」
国王は軽く話しかける。いつもの威厳が少なく、柔らかい印象だ。
「さて、何から聞けば良いやら。」
「私の知る限りは話します。一つ一つ確認の意味も込めて、聞いて下さい。」
そして、俺は暗の話をする。転移やテラスの話はしないが、この大陸で携わった暗の事件は全て話た。
「ふむ、にわかに信じられんな。」
「ですが、これが事実です。」
「正体不明の謎の黒い楔か。息子から引き抜いたのはそれだったのだな。」
「はい、暗には欲望の体現もありますが、今回のような件は私も初めてです。」
「どう思う?」
「多分でよろしいですか?」
「構わん。」
「今回の王子の件は、原因はわかりませんが、王子自身の抵抗力があるのだと思います。身体、精神力共に丈夫だったのかと推察します。」
「つまりは、暗の出現はわからない、と。」
「こればかりは神出鬼没で。」
「そうか。なら対抗処置はないな。」
深いため息を吐く国王。確かにそうだ。謎過ぎて、対抗処置がないのは事実だ。
「病でないとすると、エリクサーでも効かない可能性はあるな。」
「試した事はありませんので、何とも言えません。」
沈黙。暗とは何なのか。俺は深く考えてしまう。
「あの、良いですか?」
「ん?なんだ。」
「ギルガドグ様の体調変化前に、何かしら贈り物はありませんでしたか?」
「それは、わからんな。本人に聞くのが一番だな。おい、ドグを呼べ。」
「はい、畏まりました。」
暫くして、ギルガドグ様が入室する。
「はい、なんでしょうか?」
「体調変化の前だが、何かもらったという物はあるか?何でも良い?思い出せ。」
「そう、ですね。大臣より黒い石を渡されました。宝石ではなく、単なる石ですね。ですが、賄賂に繋がる可能性も考慮し、受け取りはしませんでした。」
「黒い石を?」
確か、リューア伯爵の時は黒い石、装飾された物を身につけていたな。
「大臣に聞くか。」
「はい。畏まりました。ですが、大臣は拘留中です。如何しますか?」
「出向くか。」
と言って、地下牢獄に向かう。犯罪者を拘留する場所だけあって、その環境は劣悪だ。
「さて、大臣よ。包み隠さず話せ。よいな。」
「はい。何なりと。」
「黒い石をドグに渡したそうだが、あれはなんだ?」
「私めにもわかりません。」
「嘘をつくなよ。」
「嘘ではありません。」
「では、どうやって入手した?もう一度言う。嘘はつくなよ。」
「は、はい、錬金術師からいただきました。これは嘘ではありません。」
「ふむ、あの詐欺師と繋がったか。捜索隊、はもう無理かも知れんが、やるだけはやるか。」
「・・・。」
「まだあるぞ、その黒い石はどうした。」
「王子が受け取らなかったので、服のポケットに忍ばせました。」
「そうか。」
「あ、あの情状酌量は?」
「あるわけなかろう!貴様は息子の命を奪おうとした。その事実は変わらない!処刑の日まで、懺悔でもしていろ!」
力なく膝をつく大臣。聞くべき事は聞いた。
「さて、その錬金術師がますます怪しくなったな。」
「この国を抜ける道はありますから、そこから脱出したのでしょう。」
「その抜け道も調査が必要だな。やれやれ、まだまだやることは山積みだ。」
だがしかし、錬金術師という、新たな人物が浮かび上がった。これは一歩だが前進したのだろう。
「まあよい。ソーイチも夜分までご苦労だった。もう休んでよいぞ。」
「ご配慮感謝します。」
そう言って、客間に戻る。
黒い石、錬金術師、暗。これは繋がるのか?わからないが、心に留めておこう。
テラス達は先に寝ていた。だが、ビビは起きていた。いや、俺の帰りに気がついたのかもしれない。
「お帰りなさい、ソーイチ様。」
「ただいま、ビビ。」
俺はビビを抱きしめる。
「すまなかった。配慮が足りなかった。」
「いえ、ソーイチ様のせいではありません。私が弱いからです。」
「大丈夫だ。ずっと一緒にいるからな。」
「はい、ありがとうございます。」
俺はビビを隣に抱え、ベッドに寝る。今日は休もう。また明日がある。
そう思い、ビビを抱きしめながら寝る事にした。




