5-6 王子の病、そして
「では、儂が説明する。」
現れたのは、国王本人だった。
俺は急な客に驚きを隠せなかった。礼を忘れて、国王を見る。
「国王様よ!ボケッとしない!」
マリアの一言に我を取り戻す。ソファーから立ち、頭を下げる。
「よい。頭を上げよ。座れ。」
「はい。」
説明が国王自らとは思ってもみなかった。マリアのお陰で正気に戻ったが、今でも心臓の動悸がヤバい。
「ふむ、緊張しているか。その状態で話しても意味はない。水を飲め。」
「は、はい。」
執事から渡された水を一気に飲み干す。緊張を流すかのように。
深く息を吸い込み、大きく吐き出す。自分が落ち着く様に暗示をかけながら。
「大分落ち着きました。ご配慮ありがとうございます。」
「構わん。では話す。よく聞け。」
俺は固唾を飲んだ。
「儂には息子、ギルガドグがおる。次期国王だ。今は病にふせっているのは知っておるな。息子の病気は難病でな、生命力が風に流される病気なのだ。医師はこの難病は治せん。治せるのは神の薬エリクサーだけときいておる。貴様達はその材料である、生命石を持ってきてくれた。その恩はある。だが、これ以上、息子の命に関わる行動は慎んでもらう。わかったな。」
「質問、よろしいですか?」
「許す。何でも話すがよい。」
「その病気はいつ発症されたのですか?」
「10日程前だ。急に倒れ、熱を出しおった。当時は流行り病と思っておったが、違かった。」
「何か他に特徴はありませんか?熱だけではなく、見た目の変化とか?」
「うむ、身体に黒い痣が出来ていたな。」
「黒い、痣、か。」
まさかね。いや、でも、なんかあり得そうだ。
「国王様は暗をご存知ですか?」
「暗?知らぬな。下界では、このような病気が流行っているのか?」
「いえ、違います。ですが、その黒い痣が暗でしたら、私が治せる可能性があります。」
「な、何だと!」
激昂するかの様に大声を上げる国王。俺はその声に少しだけ驚いてしまった。
「貴様!今の話は本当か?」
「いえ、その暗、でしたらの話です。必ずではありません。」
「いや、可能性はある。どんな薬も効かない。祈祷も駄目であった。錬金術師がエリクサーならばと聞いていた。今は何でも良い!貴様!やってみせよ!」
「はい、畏まりました。」
それにしても錬金術師か。この世界にはいるんだな。俺の世界ではインチキしかいなかったが。
王の案内の元、その件の王子の部屋に入る。
急な入室に医師や執事、メイドが驚き、慌てて頭を下げる。
「良い。頭を上げよ。容態はどうだ?」
「はい。日に日に悪化をしております。」
「わかった。では診るがよい。儂が許す。」
「はい、畏まりました。服を脱がせてもよろしいですか?」
「構わん。」
執事がゆっくりと、王子の服を脱がせる。上半身だけだが、それでもわかる。王子のへそを中心に、渦を描くように痣が出来ていた。そのサイズは大きく、胸まであった。
「広がっておるな。」
「はい。申し訳御座いませぬ。」
「それで、どうだ?」
俺はその痣を注視する。やはり痣の中心、へそが怪しいと睨んだ。
俺はそのへそを触ろうとする。
「いけません!激痛が走ります!」
やはり、というか、やっぱりというか。間違いなく、暗だな。それも小さな暗だ。
やるべき事は、一つだけだ。
「王子を押さえて下さい。」
「ま、まさか・・・。」
「元凶を抜きます。」
俺は国王を見る。頷き返す国王。王子も弱々しく「やってくれ。」と言っていた。
執事、メイドが王子を押さえつける。医師は慌てて見守るだけだ。
俺は少しずつ、へそに手を伸ばした。
★
その激痛は俺だけではなく、王子にも伝わっていただろう。精神を抉る激痛が全身に広がる。
ここで手を引っ込める訳にはいかない。一回で決める!
痣を掌握する。少しずつだが、痣が中心に集まってきた。集まれば集まる程に激痛が酷くなる。それは王子も同じだろう。歯を噛み締め、我慢する王子の口からは血が出ている。
へその中心に小さな楔が見えた。それを掴むと、より一層の痛みが、激痛が襲う。だがそれでも止めない。集中を使い、楔を掴み、引っこ抜く。ゆっくりと、そう、ゆっくりとだ。
楔が折れたら元も子もない。激痛は我慢するしかない。王子も頑張っている。
そして、楔を引き抜くその時に、俺の頭の中に白い光景が浮かぶ。それはさながら俺の世界の一部だ。手を伸ばす白テラス。
白テラスは、俺の手に自身の手を添えた。
その瞬間、楔は解き放たれた。
★
「抜けた。」
そう、暗の楔は抜けたのだ。俺は疲労困憊だが、王子を見る。
痣は完全に消えている。だが、生きているか?
「ドグ!生きておるか!ドグ!」
「・・・はい。」
王子から弱々しく声が聞こえた。生きている。よかった。
ごぶっ!!
俺は吐血した。あり得ないくらいの血を吐き出した。そして、そのまま暗闇に落ちる。
気がつくと、ベッドに寝かされていた。隣にはテラスがいる。ビビとマリアはベットの端で寝ていた。
生きている。良かった。
俺は安堵した。今回は流石にまずいと思った。楔を引き抜く行為は、魂を削り、台座を破損させる。ビビがリューア伯爵に受けたダメージと一緒だ。だけど、今回引き抜くしか方法がなかった。
俺は身体を起こそうとする。だが、裸のテラスが俺を離さない。
「ソーイチ?」
「おはよう。」
テラスは無言で俺を抱き締める。本当に心配をかけてしまった。ベットの揺れで、ビビとマリアも起きた。二人も俺に抱きついてきた。
ごめんよ。本当にごめん。
声がでないくらい泣き出すテラス達は、泣き終わるまで決して離さなかった。
★
「大丈夫なの?」
「ああ、もう大丈夫だ。皆から元気を分けてもらったしな。」
「ほんとうに?」
「心配です。あの痛みは、人が感じる痛みではありませんから。」
確かに、アレは魂に響く痛みだからな。
「それより、王子は大丈夫かい?」
「先ずは自分の心配でしょ!」
腕をつねるマリア。ちょっと痛い。
「王子様はご健在です。今は眠っていらっしゃいますが、医師の判断では峠は越えたとの事です。」
「そうか。それは良かった。」
「馬鹿!あんたも死ぬところだったのよ!自重しなさい!自重を!」
いやいや、こればかりは仕方ないだろ?暗の案件だったんだから。
「うむ!起きたようだな。」
「国王様!」
「礼はいらん。今は自分の身体を治すのが先決だ。息子の命の恩人に死なれては儂の沽券に関わる!」
「はい、ありがとうございます。」
「礼を言うのは此方だ。息子を救ってくれて感謝する。」
国王が頭を下げた。いやいや、不味いでしょ。
「これは、国王ではなく、ギルガドグの父としての礼である。当然の事だ。」
「あ、はい。」
俺は困惑の中に、充実感が沸き上がった。感謝されたいからではない。命を救ったからだ。
「貴様の働き大義であった!」
その言葉を放ち、国王は客室を出た。残るはムキムキの執事だけだが、空気を読んだのか、執事も退室した。
ふー・・・、今回も何とかなったな。
「とりあえず、身体の回復最優先よ!回復したらお説教だからね!」
「お手柔らかに。」
「ソーイチがいてうれしい!」
「はい!」
そのためにも、先ずは回復優先だな。
俺達はそのまま客室の厄介になった。
★
小屋にいるレンとイトを城の厩舎に預けてくれたクレに感謝を。
俺は暫くの間、城の客分になっていた。身体のダメージは見た目ほど重く、立って歩くに2日、軽く運動するのに5日、型を流すのに7日とかなりの期間かかってしまった。医師からは驚異的な回復と驚かれたが、それはチートのおかげだろう。
テラスは、俺の側からはなれなかった。いつも一緒で、俺を献身的に支えてくれた。
ビビも同様だが、表情を引き締めていた。聞くと、何か有事があった場合の為に意思を固めていたそうだ。やめて、大丈夫だから。
マリアも同じだが、彼女は彼女なりに色々していたようだ。執事やメイドに聞いて、話題を探してくれていた。マリア曰く、「暇になったら休まなくなるでしょ。だから話題を見つけ、ベットに固定させるのよ。」
確かに、ここにはテレビも携帯ない。暇潰しは何もないからな。
そのマリアが言うには、この国の惨状は、錬金術師の言葉を鵜呑みにしたからのようだ。
生命を蝕む奇病として謳い、入手困難な赤い石、生命石を要求。風を止めさせ、生命の霧散を防ぐ。という感じだ。
今、その錬金術師はもういない。逃亡を図ったようだ。贅沢三昧して、危険になったらトンズラか。抜け道もあるからな。詐偽に引っ掛かるのはやはり、冷静な判断が出来ない状態の時だよな。
だが、国王はその錬金術師を放置する事にしたようだ。追手を差し向けるよりも、今は国の回復が先と判断したようだ。ま、面子もあるしな。騒ぐよりも黙っていた方が良い時もあるさ。
恰幅のドワーフは俺に謝罪した。彼は俺達が錬金術師の仲間と疑っていたようだ。俺はその謝罪を受け入れた。風の道の兵士長は大臣の命令を受け、職務を全うしていただけだしね。
俺の身体が治りかけの頃、遂にこの日がきた。
天井が解放され、空気の循環が始まった。
初めてこの地で味わった風に、俺は心が踊る。
「きもちいいね。」
「はい、やっと解放された感じです。」
「良いわね、この感じ。」
そよ風がどんどんと上空に上がっていく。至る家の煙突から、煙が上がっていく。普段の生活も取り戻したこの風景に、俺は達成感を感じていた。
「今日は型で身体を慣らすか。」
「がんばって。」
「はい、お供します。」
「無理は禁物だからね。」
俺は城の中庭で、ビビと型を始めるのだった。
★
ある部屋。そこには男性達がいた。
「ちっ!あの錬金術師め!あの詐欺師めが!」
「我等の計画も頓挫した。ここは大人しく引き下がるが得策だろう。」
「だが、この状況はいかん。我等の存在がばれている可能性も視野にいれなければならぬ。」
「その先見を他で生かせれば、このような事にはならなかったものです。」
「誰だ!」
部屋に入るはムキムキの謎の男。そして、城の兵士達。
「捕らえよ。罪状は国家転覆罪である。かかれ!」
「くそがー!」
「我を誰だと、は、放せ!放さぬか!」
「い、命だけは。か、金か?や、止めろ止めてくれ!」
捕縛をする兵士達。如何せん多勢に無勢。男達は容赦なく捕縛された。
「拿捕完了致しました。処置はどうなさいますか?」
「地下の牢獄に監禁せよ。別名あるまでそのまま待機。」
「はっ!畏まりました。」
「なんにせよ、ネズミは捕まえました。」
ムキムキの謎の男は静かに部屋を去っていった。




