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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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2-6 牙狼族 ビビ


 ほんのり焦げた魚を、テラスと一緒に食べている。修行に熱中したせいで、魚を焼いていた事をすっかり忘れていた。

 食べた魚は美味しかった。テラスは頭や骨が気になるみたいで、食べなかったが、俺が美味しく頂いた。命の有り難みは大事。捨てるなんて勿体ない。強いて言うならば、塩が欲しかった。


 腹も膨れた俺達は、修行に戻る。


感覚的に理解した掌握の特訓だ。

先ずは、手に持った手の平大の黒石を数個を掌握する。感覚的に黒石の仕組みを理解する。形や色、感触等あらゆる存在を感知する。次に創造を使い手に持った黒石を密度の濃い新しい黒石を創り変える。一瞬光輝き、収束する。成功したようだ。証拠に、表面からして色の濃さが違う。かなり濃密の黒石になった。


そしてこの力には質量保存の法則はないようだ。手に持った黒石全てが濃密の黒石となったからだ。


俺のイメージがそうさせたのかもしれない。俺は濃密をイメージしただけだからだ。


 さて、その黒石だが、重量も増し、強度も上がっていた。その分、加工が難しくなるが、今の俺には関係ないだろう。創造と集中を併用する。そしてそれを掌握する。イメージを膨らませる。加工には手の平のみで良い。


 黒石を安定させる為に、下部を平面に、上部も平面にした。何度も何度も擦り、鏡のように黒石を光らせる。まだ光る。光らせる。


よし、完成。


我ながら、不思議な気分だ。道具も無しに道具を作ってしまったからだ。


「それは何ですか?」

そうテラスが聞いてくる。

「これは、砥石だよ。刃を研ぐ道具さ。」

「へぇ~!」


 磨かれたように光がある砥石を、テラスは興味津々と見ていた。


本来砥石はざらざらとした凹凸が研磨の材料となる。だが、俺は光らせる程、凹凸を取り除いた。それでは研磨が出来ない筈なのだが、不思議とそうはならないと実感していた。


 それにしても、黒石は便利だなぁ。


そう思いながら砥石を無限保管に入れる。


 そして、俺はある事を思い付く。


 川原にある黒石を集め、無限保管に入れるのはどうだろう。今後、何かの役に立つかも?と思った。


 思ったら吉日だ。


「川原の黒石を集めよう。手伝ってくれないか?」

「うん、いいよ。」


 笑顔で快諾するテラス。俺はテラスと一緒に、黒石集めを始める事にした。





 それは、黒石を集めている最中だった。


 村の方角から、誰かがやって来る。


 クコ村の子供だった。険しい表情でこちらに走って向かってくる。

「ゆーしゃさまー!!」


 魚か?なんて思ったが、それにしては慌てている。


「はぁはぁ、村の入り口、はぁはぁ、村長呼んではぁ、はぁ、はぁ。」

「わかったから、まず落ち着け。」

子供は慌てている。

「はやく、入り口、村長が呼んで、お願い、入り口。」

 慌て方が異常だ。異常事態か?急いで戻るか。


 俺はテラスをお姫さま抱っこする。

「キャッ!」と軽い悲鳴が聞こえたが、気にしない。

 俺は子供に、

「先に行っているから、村に戻るんだよ。」

「はやく、はやく。」

 俺は逸る気持ちの子供の頭を撫でた。


 集中を使い跳躍をする。そのまま二段跳躍を使い、空を跳びながら村の入り口へと向かう。


「スッゲー!!」

と、子供の声が僅かに聞こえた。


 かなりの速度が出ている。二段跳躍を繰り返し、方向を修正しながら、村の入り口付近に着地する。かなり荒い着地だったので、ドンッ!という落下音が辺りに響く。


 着地は要課題だな。後で考えるか。


 俺はテラスを降ろすが、その表情がひきつっている。

「あ、ごめん。」

「怖かったよ・・・。」

と、服の袖を掴みながら、テラスは震えていた。


 テラスの頭を撫で、一緒に入り口の方へ駆け足で向かった。



 村の入り口に着くと、男衆が農具を持って集まっていた。クコ村長もいる。

「どうかされましたか?」

と、村長に訪ねると、

「狼人がいるんです!」

入り口を指差すその先に、一人の女性が立っていた。





 その女性は、背に自身よりも長い長槍を背負い、直立で立っていた。髪は長くボサボサで、頭部に三角の大きな耳がある。目は垂れた前髪で見えないが、筋の通った鼻や大きめな口は、美人を思わせる。汚れているのが勿体ない。

 背は高め、細身には似合わない巨乳を布で巻くだけで隠し、引き締まった腹筋、腰も布を巻いただけのミニスカートらしき物を身に付けている。腕脚は長く、手や足は少し大きめだ。尻部付近に尻尾らしきものがある。


 獣人。この世界に存在する種族の種類だった。人より強く残忍。人の天敵であり恐怖の対象と村長が言う。


「この村に聴きたい!話が出来る者を寄越して欲しい!」

 彼女は、吠える。

 恐怖心を煽るこの行動は、悪手だな。と分析してしまった。

 男衆は震えながらも、その恐怖対象に立ち向かおうとする。村長も、村人より前に出て、恐怖に立ち向かっていた。一発触発とはこの事だ。


 止めよう。


 俺は狼人の前に、悠然と向かう。村人の安堵の息が聞こえた。


ぐう~


「俺はこの村で御世話になっている、ソーイチだ。彼女はテラス。私が貴女の話を聞きましょう。」

「私は、牙狼族のビビ。対応感謝します。」


ぐう~


 彼女は真っ直ぐ俺を見る。いや視るか?

「この村に何の用でしょうか?」

「この村から、濃い血の臭いを感じました。とても強い魔物の血の臭いを。」

「あぁ、多分巨大熊ですね。昨日、この村を襲ってきましたので、撃退して食糧にしたのですよ。その際、血抜きをしてますので、その臭いではないでしょうか?」


ぐう~


「そうでしたか。私も巨大熊の噂を聞き、この森に入ったのですが、先を超されたみたいですね。」

「なるほど、貴女は狩りをなさるのですね。」

「はい。もしよろしければ、撃退の事を聞かせてもらえないだろうか?」


ぐう~


 さっきから何の音だ?それよりも、この真摯な態度には好感が持てる。村長が言った、恐怖の対象とは違うのではないかと思ってしまう。


「熊は、その勇者様が一撃で倒したんだ!お前なんかよりも強いんだがら、さっさと立ち去れよ!」


 村の誰かが大声を挙げた。止めて欲しい。


「貴方が、熊を一撃で・・・、そうですか。」


 彼女は手に長槍を持つ。口許が上がり微笑む。


「折角の出会いです。私と一度手合わせを要求します!」


ぐう~


 ん、音の正体はわかった。手合わせは別にして、彼女の敬意は称賛する。


「手合わせは、了承しましょう。その前に、俺のお願いがあるんだが。」

「何ですか?話しは聞きますが、命までは奪いませんよ?」


「ありがとう。俺のお願いだが、


先ずは、一緒に飯を食べよう。」


ぐう~


 この言葉に、回りは目を点にしていた。勿論ビビもだ。ただ、テラスだけは、俺を見て微笑んでいた。





 村長に薪や調理器具を用意してもらう。無限保管から大きめな魚を出し、捌く。出した時、魚のツヤが増している気がしたが、気のせいだろう。


 串に刺した切り身を大量に焼く。辺りに良い匂いが漂う。子供達がよだれを垂らしながら、こちらを見ている。ビビも魚から目を離さない。


 焼けたので、ビビに渡したのだが、

「まずは、あそこの子供達に食べさせて下さい。」

と言ってきた。

「ん?そうかい?」

「はい、子供達がお腹を空かせています。」

「うん、わかった。」


 俺は子供達に手招きをする。おそるおそる子供達が近寄って、魚を奪うように持っていく。


「おいしー!」

「うまい!うまい!」

と子供達が喜びながら、魚をむしゃむしゃと食べている。それを見たビビは優しく微笑んでいた。


「はいどうぞ。」


 俺はビビに焼けた魚を渡した。


 一口目は、ゆっくりとだったが、二口目からは、勢い良くむさぼりはじめた。

 俺は、無限保管から魚を出して、捌き始める。

 匂いなのか空腹なのか、この雰囲気に村の人々が少しずつ警戒を解き、気がついたら村の入り口で宴会が始まっていた。





 30匹以上はあった大きな魚だが、全部無くなってしまった。半分は村人だが、半分はビビが食べた。何て言うか、凄い健啖だ。


 宴もたけなわ、時間も遅くなり、夕刻。

「日が落ちる前にやりますか。」

 俺は、ビビを手合わせに誘う。

「は、はい!」

 満腹に満たされ、緩んでいたビビは慌てて、長槍を持つ。


 微睡んで忘れてたか?まぁ、いいさ。


「さて、時間もないから、長くはできないけど、日没まででいいか?」

「はい!それで構いません。」


 ビビは長槍を構える。


 あ、強い。


 構えからそう感じた。うん、隙が無い。自然体で力みが無い。どの方向からも対応出来る構えだ。


 だが、何故か俺は負ける気がしなかった。


 俺の力の操作がまだ不十分だし、怪我をさせたら大変だ。力はあまり使わない様にしよう。

だが、油断はしないようにビビに意識を集中する。


 俺は右手に宴会の合間に作った黒石ナイフを持ち、構える。右側面の構えをとる。片手武器を持つ基本的な構え。フェンシングの構えにも似ているだろう。隙を少なくする構えだ。


「んじゃ、行くぞ。」

「どうぞ!」


 距離を開けた状態から、俺はビビに向かって踏み込む。想像を働かせる。それは最速の一歩。


 それは刹那である。


 俺の一歩の踏み込みが、長槍の脇を抜け、ビビの懐に入り込み、ナイフは喉元手前で止めている。


 誰も見えなかっただろう。ビビも構えから固まったまま動かない。


 俺はナイフを退き、元の場所にゆっくり戻る。


「さ、次はビビの番だ。」


 俺はナイフを構える。半身の構え。右手のナイフだけを全面に出し、ビビから急所を隠す。


 ビビは驚愕していた。俺の言葉で我に帰り呼吸を整え、俺に向かってくる。


 本気の一突き!早い!


 だが、俺はそれを円の体捌きで前横に避け、そのままビビの懐に潜り、左掌打を軽く当てる。


 また距離を開け、ナイフを構える。


 ビビの息が荒い。呼吸を整えようとするが、動揺を抑えられないのだろう。


 彼女は、長槍を真ん中に持ち変え、向かってくる。接近戦を仕掛けてきた。下からくる刃を回避すると、流れるように石突きが迫る。その流れるような攻撃は、威力はないものの、隙が少ない。


 俺は、ビビから離れずに脇を素通りし回避する。


 ビビの見事な胸が大胆に揺れていたのは見逃さなかったが、余所見程ではない。


 一瞬の隙だろうか、ビビは左で長槍を凪ぐ瞬間、右の爪が俺の頭を襲う。


 だが、


 左腕で払いながら回避し、左手でビビの手首をつかみ捻り上げながら、体捌きで重心を崩し、投げる。


 護身拳法の初歩、捌き投げ


 相手の勢いをそのまま利用するその投げは、ビビの猛烈の勢いのせいか、背中を強打し、そのまま意識を失ってしまった。






 ビビは村長の客間のベッドで寝ている。テラスに癒してもらったからか、静かに寝ている。


 俺は、村人から称賛された。だが俺は、彼女の行動こそ称賛に値すると言い、村の中に入れてもらうようにお願いした。

 難色はあったが、子供達への気遣い、宴会中の心配りが彼女に対する先入観を壊す事が出来た。


 ビビみたいに強い獣人が守人になってくれれば、良いんだかな。


 俺は、そんな事を思案した。


それはともかく、


「一緒に寝るの!」

「いやいや、俺は床で寝るから。」

「駄目!なら私も床で寝る!」

「なんでそうなる!」

「だから一緒に寝るの!」


 テラスが駄々をこねてた。


「だからね、」

「やだ!一緒に寝るの!」


 必死になっているテラス。断固として譲らない姿勢に俺はあきらめて、一緒に寝る事にする。


 今日の俺は自分の色魔に抵抗しなければいけないらしい。

 あ、テラスさん、あまりくっつかないでください。


 はふぅ~・・・。



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