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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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序章

初投稿です。表現に拙さがありますが、楽しい作品になるよう頑張ります。


 カン、カン、カン、と部屋の中に響く金属音。



 俺はノミと金槌を使って、円盤状の金属板に小さな三角柱の刃を立てている。

 それは一つや二つではない。沢山立てているその刃は、花柄の模様状に綺麗に並べていた。


 白い息を吐きながら、俺は無心に刃を立てる。


 カン、

 カン、

 カン、


 均等な形、そして全てが同じ角度になるように、細心の注意を払いながら、力加減と蚤の角度を同じにする。

 細やかな刃立ての作業に、二度打ちは無い。一度の蚤入れで仕上げなければ、刃に微細な抵抗が生まれ、それが出来に反映されてしまう。とても地味だが、とても大事な作業だ。


 作業場の光量は、俺の手元だけ充ててある為に薄暗い。室温も低めだ。エアコンは作動していない。

 俺はその状況にも気にせず、時間を忘れ、ただひたむきに、無心に、金属板に刃を立てていた。




 長い作業の後、最後の刃を立て終わる。俺は円盤状の金属板を目の前まで持ち上げ、出来を確認する。


 様々な角度から出来を確認する。無数に立てられた刃は、全てが同じ角度、同じ形に造られ、全体的に花柄の模様に並べられている。



 俺は確認を終える。


 満足の出来映えだったので、円盤状の金属板を、近くにあった銅の器に蓋をする。


 ふ~、・・・。


 俺は体の隅々に張り巡らした緊張を解くように、長めの息を吐き、体をほぐした。



「あの~、出来上がりましたか?」


 ひょこっと女性が仕事部屋を覗きこみ、遠慮がちに聞いてくる。


「ああ、今出来た所だよ。」

「そうですか!ありがとうございます!」


 パタパタとこちらに向かい、出来立てのそれを手に持った。

 女性は阿倍野ひかるさん。22才。この工場の事務経理の担当をしている。巨乳美人の彼氏持ち。


「流石、青葉さん!急なお願いでしたのに、本当にありがとうございます!あ、今お茶煎れますね。」

「ん、ありがとう。」


 阿倍野さんが作業場から出ていった。


 俺は作業台の片付けを始める。


 俺は青葉 総一。34才。独身。金属加工士をしている。主な仕事は金属で食器や雑貨等を作っている。今回はお得意様の外注で大根おろし器を作っていた。

 急な外注だったが、蓋と器は出来上がっていたので、残りの刃立て作業だけの簡単な作業だった。


もう一度、体を伸ばす。体のあちこちが固まったので、それをほぐす。


しばらくして、阿倍野さんがお茶を持ってきた。



「本当にありがとうございました。すみません、帰りを引き留めてしまって。」

 阿倍野さんは深々と礼を言う。

「良いって。納品に間に合って本当に良かったよ。」

と言い、俺はお茶をすする。


 何故このような事になったのは、


 お得意様から、納品を一日早くして欲しいと急な依頼をしてきて、阿倍野さんが断り切れなかったのが理由だ。

 時間も退社時間過ぎていたが、俺が残っていたので、お願いしてきたのだ。まぁ、うん・・・。


 結局、美人のお願いは断れないよね。彼氏持ちでも。巨乳だし。うん、仕方ない。


 女性に免疫が無い訳ではないが、いつも一生懸命に仕事をしている阿倍野さんへの御礼と考えたのだ。彼氏持ちではなかったら、もっと良かったが。



「作っておくから、帰宅して良いよ。」

と促したのだが、

「そんな無責任な事は出来ません!」

と言って完成まで別室で待っていたのだ。



 お茶をすすって、一息つく。



 さて、

「無事に完成したし、納品したら今日はもう帰りなよ。時間も遅いしね。」


 俺は時間を確認する。刃立ての作業だけとはいえ、今は結構遅い時間だ。


「はい、そうします。本当にありがとうございました。あの、それで、青葉さんはこれからどうするんですか?」


 納品物を抱え、俺に聞いてくる。


「俺はやることがあるから、もう少し残っているよ。」

「えっ!もしかして、お仕事が残っているんですか?」

「いやいや、片付けとか道具整備とかが残っているだけだよ。直ぐに終わるし、戸締まりは俺がしておくから、今日はもう帰りな。」


 もちろん、嘘です。作業残っています。


 退社時間を過ぎて残っていたのも、作業が残っていたからに他ならない。俺一人の作業の遅れが、他の技士に迷惑になる可能性もある。共同制作は無いにしろ、技士の世界は、信用と出来が信頼となる。手は抜けない。


「じゃあ、手伝います。整備は無理ですが、片付け位は出来ますから。」


 やぶ蛇・・・。阿倍野さんの責任感を忘れてた。


「いやいや、もう時間も遅いんだから。後は俺に任せて帰りなよ。」


 帰りが何時になるかわからないのに、付き合わせる訳にはいかない。女性を遅くまで残す訳にもいかないし。


「いや、でも・・・」

「いいからいいから。」


 俺は優しく帰宅を促す。


 阿倍野さんは気まずそうだったが、最終的には俺の言葉を聞いてくれた。


「はい・・・、では、お疲れ様でした・・・。」

「はい、お疲れ様。」


 阿倍野さんは確りと納品物を抱え、後ろ髪を引かれるような感じで、作業場から退出した。


 また、一人になる作業場。先程の賑かさが嘘の様に静かになる。



 さてと、



 俺は中断していた作業を再開した。





 きりの良い所まで作業に没頭していたら、日付が変わっていた。


 もうこんな時間か。


 俺は背伸びをして、体をほぐした。

 作業場の戸締まりをして、俺は作業着の繋ぎのまま帰宅する。ロッカーからコートを出して着る。


 外は雪が降り、1㎝ほど積もっていた。


 寒い訳だ。


 俺は急いで車に乗り込み、エンジンをかける。


 ほんの少しの眠気を、外気で覚ます。エアコンの暖気は眠気を誘うため点けない。コートは着たままだ。


 冬の頭なので、スタッドレスタイヤは履いているが、安全運転を心掛ける。


アクセルを軽く踏み、車を走らせる。


 家路の途中、雪が降り散らかし始めた。車のフロントガラスに、雪がどんどんと突っ込んで来る。視界を塞ぎつつあるので、ワイパーで視界を確保する。


 大雪になってきたか。明日は渋滞になるな。


 そんな事を考えながら、夜の公道を降る雪を掻き分けていた。


 帰路途中の長いトンネル。灯が前から後ろへと高速に、連続に通りすぎていく。

 単調な道のせいか、大きな欠伸をした。



 ん、眠い。眠気がすごいな・・・。



 俺は眠気覚ましに、ウィンドウを開け外気を取り込む。風の感触と冷気が眠気を飛ばしてくれる。


 ふぅ。


 俺は運転に集中する。



 だが


 それはほんの一瞬のよそ見だった。


 視界の全てに光りが迫る。


 俺は急いでブレーK・・・・



 視界が一瞬で暗くなる・・・



 その時、俺が思ったのは・・・



「死ぬ」という恐怖感だった・・・


不定期投稿です。すいません。

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