聖女ってなんだ?旨いのか?
村から出発して3日経つ。何事も起きない。まぁ、三千の軍団に何かをけしかけるアホがそうそう居る訳もない。
伝令が慌ただしい。副官に出しておいた宿題関連なのは聴くまでもないか。
日が昇りきる前に野営地に着くと部下どもが次々と割り振り通りに指示を出す。昼休みなので本格的では無く簡素ながらの陣地を造り出す。哨戒も当然だす。陣地が出来上がり、兵の配置が決まると兵どもが落ち着く。例え奇襲が有っても対応が容易いからだ。
当然俺も落ち着くわな。
さあ、昼飯だ。
駒どもは麦粥だ。塩漬けの肉とキャベツが入っている。塩辛いと思うか?30㎏ほどの装備で昼までに20㎞ほどの行軍をしているからな。塩辛い位がちょうど良いのだ。
軍団長の俺と俺の周りにいる幹部連中は別だな。なにしろ移動は馬上だからな。塩加減も違うし、俺らはパンを食べる。そこに肉入りスープだ。飽きはするが旨いぞ?
「軍団長。例の件のご報告です。」
「聞こう。」
只の『懸念』だからな。と云う態度は『軍団長』の肩書きには大事だな。間違っても『怖れている』と思われたくない。
どうも話の向きがおかしい。『勇者』『大魔導士』『聖女』その他に4~5人入れ替わりしながら合計7~8人の小隊を『パーティー』と呼ばせて戦っていたらしい。その『パーティー』の大半が女だとか。
毎晩どんなパーティーをやっているのやら…。
羨ましいと思うか?もし羨ましいと思っている奴がいたら俺は敢えてこう言うな。
『未熟者』
と。『わーいハーレムだー!』とか?
女4~5人に囲まれた男?
それを世の中では『修羅場』って言うんだよ。楽しい訳あるかっつうの。
「ところで『聖女』と云うのはなんだ?知っているか?」
副官に聞いてみる。知らない物は知らないからな。
「はい。私も初見でしたが。なんでも神から祝福された存在だとか。」
祝福ってあれだろ?高い金とって水ぶっかけられる奴。俺もやられたぞ?嫁と式挙げるのに祝福受けていないと教会使えないっつうからな。
祝福受けている奴なんぞごまんと居るだろうに。
「もしかして、その『パーティー』とやらの誰かの腹が膨れたから『勇者』の命が縮んだとか?」
「それは…。余りにも穿ち過ぎかと…。」
俺の素直な疑問に否定を返してくる副官。まぁ、俺も無茶言っている自覚はある。が、
「馬なんかでも良くあるだろう?有名な種馬が死ぬと子馬の値が上がるだろう?」
「引っ張りますね~軍団長。余りにも穿ち過ぎです。」
解るんだがな~。
「仮に真相がそんな理由だったら、私はこの国に幻滅しますね。」
と、爽やかに言い切ったな。コイツ。
「まぁな。でもな、あのガメツイ教会が一枚噛んでいるんだぞ?」
「その事なのですが。多方面から情報を集めたのですが、少々キナ臭い感じがしまして。」
コイツにしては歯切れの悪い言い方だが、解る。教会が絡むと情報が集まり難くなるし出所も怪しくなる。教会があんな状態でも神に対する信仰が…なんたらと敬虔な連中も意外に多い。
そう、コイツは情報を集めているこちらの情報が流れ出すのを危惧している。
俺と同じ『懸念』って奴だ。
「ところで『魔導士』とは連絡は付いたのか?」
ま、魔導士以外にも『パーティー』のメンバーも気にはなるが取り敢えず魔導士だわな。
「はっ。『パルミラ』で滞在されているとかで約束も取り付けました。」
さすが抜かりは無いか。
「デリク卿も同席させるが本人には直前まで黙っておけ。」
男爵次男である俺の義弟を噛ませる。俺個人で動き回り過ぎるのは余りにも危険だ。御貴族様を噛ませたいが伝が微妙だな。伯爵様辺りがベストなんだがなぁ。
もう少し情報が多くなってから伯爵様の処に持って行くつもりだ。
「それと情報収集は『魔導士』と会って話してから検討する。」
当面の方針だけ伝えて話を終わらせる。それにしても金が出ていくばかりだ。