懸念
大量の血が流れた後だけに青い顔をした勇者。顔や鎧に着いた血は拭き取られ見苦しさは無い。どんな理由か知らないが『勇者』から『反逆者』に転落したんだ。余程の事だろうよ。戦っていた時にも感じた『稚拙』さが禍なのだろう。
とは云え明日は我が身と云うものだ。
なにしろ将軍閣下がやり込められた相手を俺がやり込めてきたのだから。
戦後の処理も一段落だ。死体も魔導兵らによって氷浸けになっている。負傷者の治療も魔導兵らが活躍した。魔法様々だな。勿論俺は使えないがな。だが此処からが俺の領分なわけだ。
「酒と肉は用意した。各々思う処が在るだろうが、今は只勝利を祝おう。」
そうさ誰だって戦は恐い。俺もだ。駒どもも同じさ。だから生き残った事がどれだけ嬉しいか。戦友が死んでいようが腕を無くして泣いていようがだ。友人を思いやって塞ぎ込む奴もいるが。今この時だけでも軍団長である俺が許すから自身の無事を喜べよ?
「逝った戦友達よ。苦しむ戦友達よ。我等が戦果はお前達戦友達と共にある。神と精霊の御前で私が証人となろう。」
こういう誓いが駒どもの士気にも繋がる。
「勝利は我等にある。」
杯を掲げて皆を見回す。
「乾杯!」
杯を飲み干す。故に乾杯だ。
俺に続いて駒どもも次々に「乾杯」と声を上げていく。
タダ酒旨いよな?俺の金だぞ?恩に着ろよ?
この程度ならまぁ、安いもんさ。五百名分の手当より全然問題ない。賞金の他に俺宛に褒賞出ねぇかな~。
それよりも大事な事がある。
明日は我が身。
そんな不幸に備えないとならん。
勇者と常に共に居たと云われる『魔導士』と接触しないとな。そして一言こう伝えるつもりだ。
「今回の件、命令とは云え嘗ては『勇者』とまで謳われた彼の討伐を遂行したことを済まなく思う。」
「そもそもどうった理由で?」とか「このやる瀬なさは、」とか言いながら『魔導士』が抱えているであろう不満や怒りを反らそう思っている。あの拙い『勇者』と連名で追われていなかったのだから『魔導士』が愚かであるとは思えない。
だから後ろから狙われ無い様にアフターケアって奴をしておきたい。
それと王都に住むブヒブヒ煩い市民どもの反応もだ。
国王陛下や御貴族様方から嫌われたからといって市民どもも同じとは限らないんだよね~。
何をやらかしたんかね~?勇者君?
「何か心配事でも?」
なんて副官の一人が横から言ってくる。
そりゃ沢山抱え込んでるわ。まぁ、気を使ってくる辺り手駒の中じゃ可愛げがある。そういう機敏に長けた処が副官向きと云うのかな。
後は腹を据えて嘘でも何でも良いから兵どもを鼓舞する手段を手に入れれば『軍団長』に推薦してやれるな。
まぁ、俺が引退する時にでも。
「勇者の傍付きの者達が居たそうじゃないか?彼等は今何処かわかるか?」
一応の懸念だ。と諭し調べさせる。
「確かに懸念ではあります。すぐに手配します。」
やはり機敏に長けた奴だ。
さて、宴も闌だ。明日にはこの村から離れ王都南方の駐屯基地まで行軍を開始する。『長』の付く役付きの主だった者も俺の周りで控えている。兵達を解散させ、歩哨に兵を割り振らせる。
結局、最後までこの村の連中は勇者の居場所は『知らない。』で通した。
本当に知らないのかもしれない。俺が問い詰める事も出きるのかも知れないがやらん。
この村の連中が何を想っているのかはコイツらの自由だし俺の知った事じゃあ無い。勝手にすれば良い。
でも、もし『勇者』がこの村の連中から支持されていたら?
この軍団に直接の危害を企てれる力は村には無い。が、小さい『懸念』が巡り巡って俺の処にやって来るのは嫌だな。
とっととこの村を去るのが一番良い。
部下どもに細かい事は任せて俺は
寝る。