第12話 【エミリンの正体】
俺は5mほどのボス部屋の扉を押した。その扉の向こう側にはさっきと同じような地面に、大きなドーム状の空間が広がっていて、まるで住処と呼べるものになっていた。
その奥にはハイウルフの倍はある大きさで赤色の毛並みに鋭い牙。眼球は黄色に染まっていた。その周りにハイウルフが数体いる。
「エミリン、【メテオ】だ。」
「はい!【メテオ】!!」
彼女は杖を上にかかげてそう言うと、前回同様の隕石が繰り出された。レベルが上がったせいか、前よりも大きくなっている気がする。
「ドーン」という爆音と爆風があり、煙が舞い上がった。煙が晴れた頃には倒れたレッドウルフのみになっていた。ゲージは3本中の2本がなくなっていた。
「グッジョブ!」
「はい、でもこれからです。」
レッドウルフはゆっくりと立ち上がり、こちらを睨みつけていた。
「...ちょっと待て、目の色が赤に変わっている?!」
レッドウルフはこちらに向かって走ってきた。まるで獲物を捉える肉食獣かのように。
「【フレイムカッター】!!」
「【メラ】!」
横に走る赤い斬撃と、炎がレッドウルフに目がけてうち放たれた。レッドウルフは避けるどころか真っ直ぐ俺達のところへ向かってきた。
「なんであいつは避けようとしないんだ?...」
赤い斬撃と炎は見事に命中した。......が、レッドウルフはまるで炎をまとっているような感じになっていた。HPゲージを見ても減っていないどころか、攻撃と素早さUPのアイコンがついていた。
「なるほど、炎属性攻撃は逆に相手を有利にさせるだけ...ということですね。」
「つまり完全に詰んだということか...」
炎属性攻撃が効かないとなると俺のフレイムソードや、エミリンの炎属性魔法は使えないということだ。レッドウルフはもう近くまで迫っている...。一体どうすればいいんだ...。
「20秒ほど足止めをしておいてください。」
エミリンは真剣な眼差しで何かを決心したかのように見える。よく見ると、エミリンって以前どこかで会ってたような。まぁそれは後だ。
「あぁ、分かった。」
俺の返事を聞きながら後ろに引くエミリン。レッドウルフは跳び上がり、襲いかかってきたので俺はフレイムソードを使い、その攻撃を防いだ。
...いや、レッドウルフがうまく俺の剣に噛み付いたと言った方が正しいだろう。
「スイッチお願い!カナタさん!」
「あぁ、行くぞ!スイッチ!!」
俺は剣でレッドウルフを投げ払い、そこを狙ったかのように、彼女は剣でレッドウルフを刺した。彼女は髪を後ろでまとめ、杖とローブを外し、まさしく女剣士と呼べるものだった。
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「宇宙くん行くよ!」
ゴッド・ユグドラシル・オンラインというVRMMOで、最も優秀と言われたギルド【漆黒と純白の翼】の副ギルド長にして、【純白なる剣魔】の異名を持つ彼女はそういった。
「あぁ、恵美!」と、ギルド長にして【漆黒の一流剣士】の異名を持つ俺はそう答え、今日も冒険に出掛けた。
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「エミリンってまさか、恵美...なのか。」
「やっと気づいたの?宇宙くん。」
彼女は一瞬振り返り、少し嬉しそうにそう答えた。だが、レッドウルフはまだ倒れていない、
「スイッチしてくれ!」
「分かった、スイッチ!」
俺は事前に取っておいたAttack skillを使うことにした。
「【スラッシュ・ストロンジャー】!」
この技は4連撃の斬撃で相手を切り裂く技である。
「もう一回!【スラッシュ・ストロンジャー】!」
レッドウルフのHPゲージを見てみるとあと、ほんの少しだった。
「恵美!今だ!」
「うん、ハァァァーーー!!」
レッドウルフは真っ二つに切れ、煙になり消えていった。
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congratulation!
G:35000
ドロップ:ウルフのボスの牙
ラストアタックボーナス:MP増幅結晶(大)×4
レベルが2上がりました!HPとMPがそれぞれ2上がり、スキルポイントを4P獲得しました。
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「終わったぁ~」
俺がラストアタックボーナスを受け取っているという事はパーティの場合は全員貰えるということか。
「恵美、いつから気づいていたんだ?」
「会った時からだよ。あの見た目にいきなりギルド長やってるんだもん。宇宙くんの知り合いなら誰でもわかると思うよ。」
「なるほど......ん?じゃあなんで敬語なんか使ってたんだ?」
彼女はクスッと笑いながらこう言った。
「面白そうだったからに決まってるよ。」
こうして、謎の少女の正体が分かったと共に、第2風扉のクリア通知が全プレイヤーに配信された。