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光の勇者と光の巫女  作者: プフル
2/8

事件

レナード「ふぅ、今日の仕事はこれで終わりかな。思ったよりかなり長引いちまった」

デニソン「お前も腕を上げたな。いい包丁だ」

レナード「なに、親父の教え方が上手いんだよ」

デニソン「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」

レナード「さて、ちょっとエルのとこに行って来るか」

デニソン「昼は俺も少しきつく言いすぎたかもしんねぇ。謝っておいてくれるか」

レナード「いや、あいつはきつく言わんとわかんねぇさ。んで、いじけたあいつを宥めるのは俺の仕事だ。夜飯までには戻るよ」

デニソン「あいよ、行ってこい。お姫様の騎士殿」

レナード「やめろって」


汗だらけの服を脱ぎ、身体を拭いて新しい服に着替える

さすがに汚い状態で領主邸へと向かうのはまずい

しかし、今日のエルは珍しく聞き分けがよかったな

あいつも成長してくれたか、と少し嬉しくなるレナードは自宅を出る


すると村の何人かが集まってなにやらざわざわしているのが見えた

なんだろう、と駆け寄ると向こうもこっちに気付いたらしく


「レナード!ちょうどいいところにきた!」

レナード「どうした?なにかあったのか?」

「どうやらエル様の姿が昼から見えないらしい…!」

レナード「な…!?」


なんだと!?

エルは家に戻ったはずじゃ…!


「お前の家から出てくるのを見かけたってやつは何人かいるんだが、その後の消息が分かっていない」

「お前が仕事してるのは分かってたから、てっきりご自宅に戻られているのかと思っていたが…」

「さっき、領主様がエルを見なかったか…って」


なんてことだ…


レナード「あいつは多分…森だ」


そう言った直後、みんなに動揺が広がる


「森だと…!?」

「まずい、今は魔物が活性化して…!」

「お、おい!」


レナード「いや、大丈夫。既に親父から聞いてるよ」


「そ、そうか…」

「だが…それが本当だとするとかなりまずいことになる…。ただでさえ活性化しているというのに、もう夜になる。夜になってはさらに活性化してしまうぞ!」

「急いで捜索しよう!」

「自衛団にも知らせろ!」


レナード「俺も行く!」


「レナード…!いや、それは…」


レナード「あいつを守るのは俺の役目だ!!」


「…分かった。では剣をもって来い。最悪、魔物と戦うことになる。俺は先に行っているからお前も追いついて来い」


レナード「あぁ!!」


急いで自宅に戻り、部屋に置いてある剣を手に取る


デニソン「レナード?どうした、やけに早いな…」

レナード「親父、エルが消息不明だ」

デニソン「なに!?」

レナード「俺達の家を出てから消息が分かってないらしい。てっきり家に戻っているもんだと思ってたが、多分、あいつ一人で森に向かいやがった!」

デニソン「なんてことを…!俺も探すぞ!」

レナード「頼む!もう村のみんなが捜索を開始してる。最悪魔物と戦うこともあるだろうから武器を持って来いって」

デニソン「分かった!」

レナード「俺は先に行く!」


家のドアを勢いよく開け、森へと駆け出す

エル…!!


その頃森では…


エル「あの人達見失っちゃった…どこ行っちゃったんだろ…」


エルは村で情報収集をしていたダンテとブレアを見つけ、あとを着いてまわっていた

二人は情報収集を終えると森に入っていき、期待と興奮に染まっていたエルはもはや歯止めがきかず、一切の躊躇もなく二人に続いて森へと入っていった

だが奥へどんどん進む二人に対してエルはついていけず、遂には取り残されてしまった


エル「い、今の森って危ないんだよね…戻ろうかな…」


孤独になったエルは興奮が冷め、ようやく自分の置かれた状況を把握する

危険な森に一人ぼっち

いくらエルでも今の状況が非常によろしくないのは容易に理解できた

村に戻ろう

そう決めて振り返るが


エル「…あれ…村、どっち…?」


森の手前ならいざ知らず、ここはエルも踏み込んだことのない森の奥

周りを見渡しても草木ばかりで方向の判別が出来ない

さらに太陽は沈みかけ、視界は悪くなっていく一方だ


エル「えっと…ど、どっちだろう…こっち、かな?いや、でもあっちの気が…」


方向の区別はつかず、視界も悪くなる一方

流石にエルも焦り始め、鼓動が早くなる


エル「ど、どうしよう…」


冷や汗が頬を伝うが、今のエルはそんなことにも気付かないほど切迫していた


エル「ひっ…!?」


ガササッと音がして近くの茂みが揺れる

だが現れたのは小さな小鹿

緊張していたエルの身体は一気に力が抜けていく


エル「レナード…」


エルはとうとうその場にへたり込み、手で顔を押さえてうつむいてしまう

レナード、自分で発したその言葉だけが嫌に耳に残った


―――――――――――――――


「見つかったか!?」

「いや、まだだ…!」

「こっちも見つかんねぇ!」


既に森に入って捜索を始めて1時間

未だエルを見つけることは出来ずにいた

村の者達は5人程の小さな集団をいくつか作り、そこに自衛団の者を一人加えて捜索していた

だが成果は何もなく、手がかりすらも見つけることはできないでいた


レナード「はぁ、はぁ…くそ、どこにいるんだよ!エル!」


レナードは唯一『まとい』が使える人間だ

無理を言って一人で捜索をしている

その方が効率はいいだろうが危険だ、とみんなは言ったがレナードは聞く耳を持たず、一人で森へと駆けていった


レナード「まずい…もう陽が完全に沈んだ。早く見つけないと!」


焦る気持ちは押さえ、細心の注意を払い、だが迅速にレナードは森を探し回る

『まとい』を常に発動させており、移動速度は常人の倍だ

だが当然いつまでも使えるわけでなく、限界はくる


レナード「くそっ、もうマナも少ししか残ってねぇ…」


マナを体内にためておける容量は人それぞれだが、レナードは特別多いわけでもない

エルは常人より遥かに多いらしいが、レナードはそんなこともない

鍛えれば容量は増加するが、5年程度の修行ではそれほど増えてもいない

1時間ぶっ通しでマナを使えば、ほとんど無くなるのは至極当然のことであった

レナードは万が一魔物と戦闘になった時、マナがなくなっていてはまずいと『まとい』を解除した


レナード「エル…すぐ見つけてやるからな…!」


それでもレナードは足腰の筋肉を奮わせ、全速力で森を駆け回る


―――――――――――――――


エル「レナードぉ…」


エルは変わらずその場で座り込んでおり、一歩も動けないでいる


エル「いつもみんなやお父様、お母様に迷惑かけてたから…その罰があたったのかな…」


弱気になったエルはらしくもない考えを始める

よくない傾向だ


エル「謝ったら…みんな許してくれるかな。…!!」


と、暗い思考をしていると再び茂みが揺れる

しかも音がどんどんと近づいてきているようで、エルの身体に再び緊張がはしる


エル「また小鹿さんかな…って、そんな都合よくいかないかな」


「グルルル…」


茂みから現れたのは狼のような魔物だ

村で飼っている犬の3倍はあろうかという巨体に漆黒の毛

目が赤く光っており、通常の獣とは明らかに違うと分かる


「ワォーーーーン!!!」

エル「ひっ…!」


エルに恐怖が舞い戻る

狼の魔物の雄たけびは獲物を見つけた歓喜の叫びか

弱者であるエルには抵抗する術がない

このままでは大人しく餌食になるのみだ


逃げなくては


エルもそれは分かっている

だが身体が言うことを聞いてくれない

いくら立とうとしても力が入らないのだ


エル「あ、足が…!なんで…なんでよ…!」


必死に力を込めようとするが、それも徒労に終わる

それどころか身体は恐怖のあまりに震えだす


「グルルル…」


ノシ…ノシ…

と魔物はじりじりとゆっくり距離をつめる

すぐに飛び掛ってこないのはまだ警戒しているからだろうか

だがその必要がないと判断された時、エルの命は潰える


エル「くっ…この!!」


エルは地面の土を手で掻いて魔物へと投げつける


「ワゥッ!!」


魔物はさっと後退することでそれを避ける

警戒心はやや上がっただろうか


エル「力が入ってきた…!」


今の攻撃とも言えない悪あがきでも相手を退かせられたというのは、エルの心に勇気をもたらした

足に力が入ってきており、立つこともできる

逃げることができる

エルは立ち上がり、魔物と向かい合いながら徐徐に距離を取る


エル「はぁ…はぁ…」


既に疲労は限界を迎えている

森を歩き回り、家を出てから水もろくに飲んでいない

肉体的にも、そして精神的にもエルは限界だった


魔物はエルに対して徐徐に警戒を下げているのか、エルに近づくチャンスを窺っているようだ


背を向けたら一瞬で終わる

エルは本能的にそれを察知していた


この魔物が力を持たないエルを警戒しているのはエルがすぐに逃げ出さないことが原因だ

すぐに逃げ出さないということはもしかしたら反撃されるかもしれない

そんな動物的本能が魔物に働いていた

だがそれも最初のうちだけ

このままでは碌な反撃がないことがばれるだけ

現に魔物は徐徐に詰めて来る距離と速度が増してきている


「グルルルル…!」

エル「はぁ…はぁ…」

「グルァッ!!」

エル「…!!」


遂に痺れを切らしたのか、魔物はエルに飛び掛ってくる

反撃の力がないエルではどうしようもない


エル「っ…!!」


頭をかかえてその場でうずくまる

頭を守ろうとするのは動物としての本能だろうか

だがそれも鋭い牙の前では何の意味ももたない

終わりだ


「おぉぉぉぉぉ!!!」


「グギャウ!?」


牙がエルの腕に当たろうとした瞬間、魔物の身体が真横から衝撃を受けて吹き飛ぶ


エル「え…」


エルは恐る恐る顔を上げる

そこには





レナード「エル…!ようやく見つけたぞこの野郎!!」





エルが今最も会いたい存在、レナード・シルダがそこにいた


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