第九話 7月2日 VSヤジマジロ
俺が転生したのが、四月一日。
異世界語の習得に、丸三カ月。
いまは、講習の二日目だから、今日が七月二日だ。
異世界の一年も、十二カ月なんだが、
こっちの一日は、まえの世界の、
丸六日分と、ほぼ等しいから、すこし、感覚が違うな。
まだ、慣れていない感覚を、異世界に、
あわせるように、再確認する。
きょうを、ふくめて、あと四日いないに、
テッシちゃんを、仲間に、さそわないとな……
俺はまた、講習のために、
ボイコット町の郊外に、来ている。
きのうの、場所で、集合することに、なっていた。
しばらくすると、テッシちゃんが、ふらつきながら、
やってきて、俺のちかくの、岩に、ちょこんとすわる。
数分後、講師のふたりも、やってきた。
「きょうは、すこし、発展した戦い方をしますね」「がんばって、くださいね」
ララリリさんたちと、俺たちは、パーティを組む。
そして、俺、テッシ、フェリリの三人を、
すこし、はなれた森へ連れていった。
「このへんですね」
ここはまだ、森の深くでは、ない場所。
ララさんは、周りをみわたす。
そして、手のひらを、俺たちへむけて、静止をうながす。
まわりには、樹木が林立している。
樹木の太さは、俺が両腕をまわしたら、手がつくくらい。
しかし、高さは、十メートルも、あろうかというほどだ。
樹木は、手でおすと、簡単にきしみ、根元がかたむき、木の葉がふってくる。
根っこがゆるく、幹自体も、柔らかいようだ。
「きました」
リリさんがいう。
樹木のうしろ。
一匹のモンスターが、四足で、こちらへあゆみよる。
モンスターは、かたそうな甲羅を
頭、背、手足、それぞれの、背面にゆうしていた。
「ヤジマジロ LV六
HP一三七〇 BP六二〇 SP二八〇
冒険者が、テリトリーに侵入すると、
好奇心から、近よってくる。
冒険者が、それと戦うと、まわりから、
大量の同種がわき、取りかこむ。
輪から、出ようとしても、周囲の仲間が、
逃がさないために、攻撃してくる。
輪の中央にもどると、周囲の仲間は、攻撃をやめる。
戦いがはじまると、凶暴で、好戦的になり突進してくる。
『ヤジマジガード』や『スカイダイブ』など、
攻撃方法も、意外と多彩。だってナノ」
フェリリが、巻物と魔卓で、
あいての情報を確認する。
しかし、意外とってなんだよ。
図鑑か、なにかの、情報だろうに、誰目線の意外となんだよ……?
「取りかこむ?」
俺は周囲をみまわす。
すると、いつのまにか、
二十匹以上の、ヤジマジロが、周囲を取りかこんでいた。
講師の二人は、こうなる事を分かっていて、来たんだから。
大丈夫かなと思い、俺は、さして、あわてなかった。
「どうしましょうデス」
しかし、あわてるテッシちゃん。
テッシちゃんは、フェリリを後ろからつかみ、揉みほぐしている。
くすぐったいと、フェリリが笑い、暴れるが、ほうっておくこととした。
テッシちゃんが、フェリリを気にいれば、
パーティに、誘いやすくなるだろう、という打算だ。
「とりあえず、俺がいきます」
俺が言うと、ララさんはうなずく。
「ヤキソバ LV五
HP一一五〇 BP五六〇 SP四〇〇 MP三二五 ナノ」
俺は、さいしょに、姿をあらわした、ヤジマジロにむかい。
駆けていくと、剣で切りかかった。
しかし、ヤジマジロは丸くなる。
剣からは、光とともに、にぶい音がひびく。
「ヤジマジロの『ヤジマジガード』。
BPプラス四〇〇 ヤキソバの攻撃は、弾かれたナノ」
「BPプラス四〇〇?
こっちは、ダメージを食らわないのか?」
「あいてが、ガードスキルを使用した場合。
こちらは、ダメージをうけません」リリさんがいう、なるほど。
俺はふたたび構え、敵へむかっていく。
敵のまぢか、正面へふみこむと、叫んだ「なで切り!」
ヤジマジロは、丸くなり、ガードする、
が、こんどは、音がひびき、手ごたえもあった。
「BPプラス二〇〇 相手のBPマイナス二〇〇
相手に一〇三ダメージなの」
フェリリの声と同時に、リリさんの声。「テッシさん! 今です!」
「えいデスっ!」
痛烈な音がした。
いつの間にか、近くにいた、テッシの攻撃は、
ヤジマジロの頭を殴打していた。
よろけるヤジマジロ。
「テッシ LV四
HP八二〇 BP三八〇 SP三八〇 MP四四〇
で今の攻撃は 四二ダメージ なの」
「いまの攻撃。敵のスキをついて、うまく、当てたんですね」
「……いえ、いまの攻撃をヤジマジロは『ヤジマジガード』で防御できないの」
「……そうなんですか……?」
「今の攻撃は、あなたとテッシさんの『連携攻撃』なの。
連携中に、相手は『おなじ技で迎えうつことができない』の、
たとえ、四人が、十秒もの時間をかけ、
『連携攻撃』をおこなって、いたとしても、
『その、十秒のあいだに、相手は一度しか、おなじ技では、対応することができない』わ」
「……何でそんなことに……」
「一説によると、技などを使ったときに
『周囲の空間の、魔源の親和性がみだれて、反発すから』などと
言われてるけれど、くわしいことは不明なの……」
正直よくわからないな。
「それより、あなたの、『なで切り』だけど、あれって『BPプラス四〇〇の効果の技』と、あまり、変わらないような気がしない?」「あのタイプの技には、べつの、使い方があるの。こんどは、それを教えるわ」
「……別の使い方?」
「あとで説明します……取りあえず、ヤジマジロを倒してしまいましょう」
「分かりました」
俺は、敵にむかって行こうとする、
が、それより早く、相手は丸くなり、
こっちへ向かって、転がってきた――。
「突進、BP+二〇〇なの!」
「なで切り!!」
敵の回転する甲羅と、自分の剣がまじわる、
雷光がほとばしり。
ヤジマジロは回転しながら、中空へ、とどまっている――。
「ヤキソバは、七〇ダメージ。ヤジマジロは、一五〇ダメージを受けたナノ」
雷光がはじけても、ヤジマジロは回転をやめず。
回転しながら、尻尾を飛びださせた。
「ヤジマジロの、テールアタック、BP+一〇〇なの!」
俺はさけようとした。
――が、なぜか足が動かない――。
「くそっ、なで切り!」
しかし、なで切りが発動しない。
俺は、顔に敵の攻撃をうける。
やがて、足が動くようになる。
俺は、ヤジマジロの進行方向とは、垂直に、逃れるように右へとんだ。
「ヤキソバはテールアタックで、七九ダメージなの」
回転し。宙空へ、とどまっていた、ヤジマジロが地につく。
すると、いきおいを、取りもどすかのようにまし。
ピンポン玉のごとく、樹間をはねとぶ。
「今のは『一撃目は突進』『二撃目はテールアタック』の連携攻撃よ」
リリさんがいう。
「だから、『二回目のなで切りが、発動しなかった』んですね。
まだ、連携中だったから。
それにしても、ひとりで連携って、
言葉として、おかしくないですか?」
俺は、ヤジマジロの攻撃をさけつつ、たずねる。
「もともと、複数人で、やっていたことなんです。
あとから、ひとりでも、できる方法が、発見されたから、
慣習上、そう呼ぶことになっているの」
ララさんは、両手を口の左右にそえて、
遠くから、叫ぶようにいう。
それにしても、敵がポンポンと移動して、目がまわるな。
「ヤキソバさん後ろデス!」
しまったとおもい、後ろを振りかえる。
しかし、ヤジマジロはいない――。
「うえ!
上にいるナノっ!」
視点をあげると、ヤジマジロは上にいた。
ヤジマジロは、おそらく、みずからの背後にある、
かたむいている、樹木にぶつかり。
ななめに倒し、かけ上がり。
その、しなりを利用して、空中へ飛んだのだろう。
いま、そのヤジマジロは、体を横に、反転させ、
こちらに、むきなおり、同時に、丸まった体をひらき、
そのまま、ものすごい勢いで、むかってくる――。
「ヤジマジロのスカイダイブ、BP+八〇〇なの……!」
「は、はっぴゃく……?」
迎撃するより、さけるべきか……?
俺は左にかわす。
だが、ヤジマジロは空中で旋回し、俺を追尾する。
技を使おうにも、もう遅く、攻撃をまともにうけ、
鈍痛とともに、俺は吹きとばされ――樹木に、叩きつけられる。
「ヤキソバに、五九〇ダメージなの!」