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第八話 講義と眠り少女編 VSダサネズミ

「ヤキソバさんは、

 仲間をさがしに、きたんですよね?」


 お姉さんは、

 すこし、こまったような笑顔で、

 俺にといかけた。

 ……そうそう、そうだった。

 目的を忘れそうになったわ。

 だいぶ、脱線してたような、気がする。


「はい、おねがいします」


 俺は会釈をして、

 カウンターの、まえのイスに、腰かけた。

 お姉さんは、なにやら、機械のようなものを、操作している。

 フェリリは、いつのまにか、完全にねむりこけ。

 自分の体ほどの、鼻ちょうちんをひっつけて、

 俺の眼前で、浮遊している……


「ヤキソバさんのレベル帯だと、

 募集してる人は、いませんね……」


 お姉さんは、残念そうに、両目をつむる。

 LV二じゃ、きびしいか……

 これからどうする……?

 ひとりで、モンスターを狩り続けて、レベルをあげるか……?

 それとも、無理を承知で、

 高レベルの冒険者に、交渉しにいくか……


「そこでですね……

 講師をやとっては、どうでしょう……?」

「……講師をやとうと、

 レベルを上げられるんですか……?」


「はい。

 それに、戦い方の基礎なども学べますし、

 自信もつきますよ」



 お姉さんは、髪をなびかせながら言う。

 俺はふたつ返事で、了承した。

 フェリリをおこし、一カ月ぶんの、料金をしはらい、

 うながされるままに、べつの部屋に、つれてこられ、

 イスに腰かけてまつ。

 べつの参加者が、ひとりきた音がしたが、

 自分より、後ろのイスに、すわっているようで、

 どんな人物かは、わからない。

 やがて、講師が部屋へ、姿をあらわした。


「ララです」「リリです」


 彼女らはイスに座り、のばした両手指を、

 ひざの上におき、頭をさげる。

 歳は、二十歳前後。

 腰くらいまである、ながい青髪の、双子の女性だ。

 そのかたわらには、長いつえが、二本あり。

 先端は、丸くなっており、青い宝石が、はめ込まれている。


「早速移動しますね」「しますね」


 ラリコンビさんたちは、

 俺たちふたりを、町のそとへ引率し、

 フェリリも、それを追尾する。

 どうやら、郊外の、ダサネズミを倒しにいくようだ。

 やはり、初心者が、定番でたおす敵なのか。

 やがて、郊外の、ダサねずみの生息地に、到着した。

 ララさんとリリさんは、遠方のダサねずみを見やると、

 ならび立つ、俺たちをみる。

 そして、これから、パーティを組むので、

 冒険者として、自己紹介をすることをすすめる。


「自己紹介は基本ですよ。

 前へでて、名前とクラスをいいましょう」


 俺はそれを聞き届け、前へでて、自己紹介をする。

 『クラスは三年六組です』的なネタをいおうと思った。

 ――が、おそらく、この世界の人には、通じないとおもいやめた。


「ヤキソバです、二十歳で、クラスは商人です」


 俺はおじぎをすると、

 パチパチと、軽い拍手のなか、もどっていく。

 もとの位置へもどると、

 横の、もうひとりの参加者をみた。


 はじめて横顔をみた……

 ずっと、俺の後ろにいたし、

 とうとつに、ふり返って確認するのも、

 目だつと思い、ためらわれたから、しなかったからだ。

 このひとって、協会支部代理所の家で、

 ドアの隙間からみた、銀髪のひとじゃねーか。


 ねむみを抱え、フラフラと、頭をゆらし。

 たよりない足どりで、前のほうへ行き、しゃべりだす。

 ととのった顔だち。

 光沢のあるミディアムショートの銀髪。

 一センチほど奥がみえそうなほど透きとおって、きめ細かい白いやわ肌。

 細い指。


「イチカ・テスラ‐シリンダーです。

 略してチカ、テッシって、呼んでくださいデス」


 俺はおどろきで、ぼうぜんとしていた。

 一香ちゃんが、外国人みたいな名前になっとる……

 まさか、こんなところで、邂逅するとはな。

 一香ちゃん、もとい、テッシちゃんは、

 右目を右手でこすり。自己紹介をする。


「クラスは、ダメプリーストです」


 ……どうみても、

 インディーズで、配給されてるクラスじゃねーか……!

 どうしちゃったんだよ……!

 いち――じゃない、テッシちゃん……!

 みんなが、パチパチ拍手をする。

 俺も拍手をするが、

 いろいろ、混乱して、なにか釈然としない。

 ……そうか、一香ちゃんは、記憶がないのか……

 俺は若がえっているとはいえ、

 気がつかないとは、おもえない。

 いや、たった一日、ゲームをやっただけだし、

 そこまで、自信はないが……


「レベルは言わなくていいですよ」「恥ずかしいですしね」


 ララさんとリリさんは、

 うしろ手に、つえを持ち、にこやかにいう。

 そんな、いい方したら、二人とも、レベルが低いの、確定じゃないっすか……

 片方だけ低かったら、バレちゃうんだから。

 それとも、レベルを知られること、自体が、

 恥ずかしいこと、なのだろうか……

 正直、そのへんは、まだよく分からない。


「じゃあ、まずパーティですね」「パーティを組みます」


 ふたりは、手をたたいていう。


「わたし、いい紅茶あるですよ!」

「テ……テッシさん!

 そっちの、パーティじゃねーですよ!」俺はつっこむ。

「そうなんデスか。すみません……」


 テッシちゃんは、うつむいて、

 謝罪の意を表明する。


「初心者は、知らないの当たり前ですので、お気になさらずに……」「大丈夫ですよ」


「……勢い出しすぎました、すみません……」


 俺はテッシちゃんに対し、

 うわ目で、かるく頭をさげてあやまった。


「それでは、気を取りなおして、パーティを組みます」「冒険者はパーティを組むと、

 いろいろと、メリットがあるんですよ?」


「……どんなメリット、なんデスか……?」


 テッシちゃんは、小首をかしげて、たずねる。


「それは、おいおい、説明するとして」「とりあえず、パーティを組んでみましょうか」

「どうやるんですか?」


「みんなで、うでを上げて、いっせいに、パーティといいます」「どちらの腕でも、両方でも、大丈夫ですよ。体が、ひかったら成功です」


 ララリリさんたちは、つえを高々とかかげ。

 俺は右腕をあげ、『く』の字にまげて。

 テッシちゃんは、両手をバンザイして。


 ――そして、みんなでいった――


『パーティー』


 体が光に、つつまれる。


「……これ、テッシちゃんが、言ってた方のパーティや!」

「いえいえいえ! 大丈夫ですよ! これで!」「冒険者の方であってます! 体が、光っているでしょう……?」

「……でも、これは、場を盛り上げるための、

 光の魔法、なのかもしれない……」

「そんな魔法ここでは使いませんよ!」「使いません!」

「わたしはどっちでも、いいデスよ~」


 テッシちゃんは目をつむり、頭をフラつかせていう。

 ……一香ちゃんって、こういう子だったっけ……?

 いや、ちがう気がする、なんだろう……


「と、ところで、パーティを組むと、どうなるんですか?」

「そ、そうですね……パーティを組んでいると、だれかが、てに入れた経験値を、等分されてもらえます」「後衛の人も、経験値がもらえますよ、これも、魔法のシステムですね」


「なるほど。遠方で、仲間が『うおおお』とかいって、

 激戦を、くり広げているのを尻目に、

 路傍におちている、めずらしい石を眺めながら、

 お尻のかゆみに、たえ切れず、

 その手を、臀部に、伸ばしていても、

 経験値がもらえるんですね。すばらしい……」


「ダメですよ! ちゃんと戦ってください! パーティーを追い出されますよ?」「それから、経験値をもらうのにも、距離などで、限界がありますから、注意してくださいね」


「はーいデス」

「わかりました」


 ちょっと、冗談を言ってみただけなんだが。

 注意されてしまったな。

 うーん。

 生真面目な、ひとなんだな。


『では、つぎは、戦闘をしながら説明しますね』


 ララさんと、リリさんの二人は、

 同時にいうと、すこし、距離のある、ダサねずみの方をみた。


「まず、敵に、攻撃してみましょう。テッシさんから、どうぞ」


 ララさんが言うと、

 テッシは、武器らしき棒をもって、かまえた。

 棒全体の、長さは、足から胸くらい。

 棒の先端から、だいたい、肘から指先までくらいの、長さにわたって、

 六角柱の金属が、はめこまれている。


「テッシ  LV一 HP二八〇 BP一一〇 SP九五 MP一一〇

 ダサねずみ LV二 HP五〇〇 BP三〇〇 ナノ、以下略ナノ」


 フェリリが、電卓のようなものをみながら、

 スラスラという。


「それは魔卓ですね。

 ステータスを、見れる魔具です。

 でも、パーティメンバーだからといって、

 勝手にみては、いけませんよ。ちゃんと、許可をとりましょうね」


 リリさんがそういうと、

 フェリリは「わかったなの」といい。

 テッシのところへ行き、なにかを話してから、帰ってきた。


「許可をとってきたナノ!」フェリリは、羽をバタつかせて、得意顔でいった。


「お姉さんたちの、ステータスも、見ていい……ナノ?」

「ダメです」「ダメです」


 フェリリは、残念そうに肩をおとす。

 やはり、ステータスを見られるのは、

 恥ずかしいこと、なのだろうか……?


「じゃあ、攻撃しますデスよ~」


 テッシちゃんはそういうと、

 ダサねずみ、めがけ、

 棒をフルスイングで、おもいっきりたたいた。

 ダサねずみは、風を起こして、ふっとび、

 自身の体躯よりも、ひとまわり、大きな岩に激突する。


「六ダメージなの!」


 フェリリは、爽快な声でいった。


「六?

 あれって六なのか……?」


 どうみても、六以上のダメージを、

 あたえてるような気がする……

 俺の疑問は、さておいて、テッシちゃんは、なおも殴りつづける……


「六、六、六、六、六、六、六、六、六、六なの!」


 新しい責め苦かよ……

 みてられねえ……

 俺は薄目で、視線をそらす――。


「……驚いたな……」

「……テッシちゃんに、あんなサディズムが、眠っていたとはナノ……ね」

「べつに、好きでやってるのでは、ないとおもうが……

 そう、いぶかって、しまうな……」


 俺とフェリリは、

 冷や汗をたらしながら、ながめる……

 俺が驚いていたのは、テッシちゃんの、馬鹿力の方なのだがな……


「いいナノ……?」

「えっ」

「このままじゃ、あのダサねずみ……

 マゾヒズムに、目覚めてしまうナノよ……?」


 おまえは、そっちの方向で、話をひろげるのか……


「わかった、行ってくる。

 テッシちゃん、ひとりに、戦わせておけないしな」


 俺は講師のふたりに、許可をとると、

 戦いの場へ、おもむいた。


「……とりあえず、ふたりで、ダサねずみを殴るか……」

「ヤキソバLV二

 HP五二〇 BP二三〇 SP一六〇 MP百三〇 ナノ」


 フェリリが、ステータスをつげる。

 俺は、それを聞き入れると、敵へ駆けていく。

 俺は、剣を抜きはらうと、

 腰をおとして、横手から、ダサねずみの、足をついた。

 これなら、リーチからいって、

 相手の攻撃と、自分の攻撃が、ぶつかる心配もないからな。


「二三ダメージなの!」


 ダメージが、ふえているな。レベルが、上がったからか。

 よし。

 技のダメージも、見てみるか。


「十文字切り!」


 だが、なにも起こらなかった。

 俺は数秒間、おなじポーズのまま、固まっていた――。

 テッシちゃんが、チラリと、こちらをながめ。

 小首をかしげ、不思議そうな顔をしたが。

 敵へ、むきなおり、ふたたび攻撃をはじめる。

 ……くそっ。

 技覚醒って、新しく技をおぼえて、

 ずっと、使えるわけじゃ、ねえのか。

 恥かいたぜ……。

 テッシちゃんは攻撃をつづける。

 しばらくすると。

 攻撃をするテッシの武器と、敵の攻撃がぶつかり。

 雷光がほとばしる。

 テッシの攻撃は、はじかれ。

 彼女は尻もちをつき、足裏を敵へむける。


「テッシに、一一五ダメージなのナノ!」

「……これって、

 テッシちゃんだけが、ダメージをうけるんですか?」


 俺は疑問をぶつける。


「敵と自分の攻撃が、ぶつかった場合、

 敵が、自分の一・三倍以上の、BPがあると、

 自分の攻撃が、はじかれて、自分だけが、ダメージをうけます」


 リリさんがいう。

 力とか関係なく、ふっ飛ばされるのか。


「ダメージは大丈夫です、わたしが回復します」


 敵から、距離をとる、テッシちゃん。

 ララさんは、テッシにむかって、魔法らしきものをほおる。

 しかし、進行方向には、テッシに対する、ダサねずみ。

 うかつにも、敵に、回復を使用してしまったと、思うやいなや、

 光の塊は、敵の体にはじかれ、蛇行しながら、光の帯をたなびかせる。

 そして、吸いこまれるように、テッシの元へいき、

 輝きとともに、テッシを回復させた。


「……これが、パーティの利点の一つ。

 攻撃を敵にしか、効かないようにしたり、

 回復を味方にしか、効かないように、したりできます」


 ララさんは、つえをテッシちゃんに、むけたままいう。

 なるほど……

 敵に妨害されても、大丈夫なんだな。

 俺は立ち上がり。

 交戦をつづける、テッシちゃんに、加勢し攻撃する。

 俺が、三度目に攻撃したあと、右手がひかった。


「よし、十文字切り!」


 ダサねずみにヒットする。


「BP七三〇

 ダメージ二四五 二九〇 なの」


 ダサねずみは、ゆっくりと、たおれていく。

 その、つぶらな瞳は『ありがとう』、そう言ってるようにも、みえた――

 ……たぶん、気のせいだが。

 セレクターなのが、バレるから、

 できれば、技覚醒は、あまり使いたくはないな。

 それとも、このお姉さんたちは、

 三つ編みの、お姉さんみたいに、把握しているのだろうか……?

 ダサねずみから、黒いほこりが放出される。

 それは、上空の、一カ所にあつまると、

 やがて、分かれて、パーティの四人へ分配された。

 ふたりとも、レベルは、まだ上がらないか、

 経験値が四等分だからな。


「どんどん倒していきましょう」


 リリさんはいう。

 しばらくの間、俺とテッシは、

 ダサねずみを、どんどん倒していった――


「ヤキソバは、LV五に上がり、

 『なで切り』をおぼえたナノ。

 BPプラス二〇〇、相手のBPマイナス二〇〇、だってさ」


 テッシちゃんは、LV四になったのか。

 しかし、俺の覚えた、

 この『なで切り』って強いんだろうか。


「二人とも、LVが上がるのが、はやいですね」


「きょうは終わりですね。

 明日は、べつの敵と戦い、

 あたらしい、戦いかたを学びましょう」


 ララさんはそういって、帰りの支度をはじめた。

 しかし、俺は、その言葉をよそに、

 この講義が、すべて終了する、五日後までに、

 どうやって、違和感なく、テッシちゃんをパーティにさそうか。

 そして、妹をどうやって探すかを、心配していた。

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