第七話 冒険者協会支部
ロンゲの男は、カウンターまで歩いてきて、語りつづける――
「クラスは、レベルが上がるほど、徴収率が高いんだ……
八十、九十くらいになると、なかなか、レベルが上がらねぇ……
クラス配給側からすると、
LVが百になると、クラスチェンジされるからな――
最後の、ひと儲けをしようと、しているんだ」
「……な、なるほど……」
俺は、きゅうにきた男に、恐れを抱きながら、
相づちをうつ……
「……それは誤解です……
レベルが高いほど、ステータスを上げるのに、
魔源がたくさん、必要なこともありますし、
過剰に、高い徴収率は、違法です。
それに、団体も、開発費を回収しないと、いけませんし……」
お姉さんは反論する。
「だが、きっちり基準をもうけたことで、
合法化してしまった。
基準以下なら、どんなに高くても、認められることになってしまった」
ロンゲの口調は、演説じみている。
やるなコイツ……
「それはそうですけど……」
お姉さんはしょんぼりして、
黙りこんでしまった。
かわいい。
「それに、インディーズの問題も、のこっている……」
木目をいっしょに数えていた、ロンゲの相方。
スキンヘッドだった。
「どういうことですか?」俺は問いかける、スキンヘッドは続ける。
「……大手じゃない、クラス配給団体などが、
独自にクラスを開発して、配給してるんだ。
その中には、かなり悪質なものが、ふくまれている――」
「……どんなものですか……?」
「こいつを見てほしい」
ロンゲは一枚の紙をとりだす。
そこには、クラスの詳細が書いてある。
これって、いつも、もち歩いてるのか……?
「ここに『やりの極み』っていう、
パッシブの、マスタースキルが、書いてあるだろ……?」
「イエス」
「これは、やり技を使用するとき、
SPを、よぶんに、しはらうかわりに、
やり技の、使用中に、
BPが+三〇〇〇されるという、
強力なスキルなんだ――」
スキンヘッドは、
紙をトントンと、指でたたきながら説明する――
「……初心者なので、よく分かりませんが、
強そうですね……」
「みんなは、このスキルを欲しがって、殺到した。
ところが、後半になると、
すごく高い徴収率が、設定されていたんだ……」
ロンゲだ。
「ひどい話ですね……」
「みんなが、あきらめていくなか。
レベルが九十台の、後半になっても、
がんばって、上げつづける人もいた……」
スキンヘッドだ。
「もう、ひき返せないですよね、わかります」
つづけて、ロンゲが語りだす。
なんで、このふたりって、
ずっと、交互にしゃべってるんだ……?
「ひき返せない理由が、もうひとつあったんだ。
このクラスは、マスタースキル以外の、
いっさいの、スキル取得が、存在しなかった」
「マジすか!」
「つまり、たとえ、レベルを九十九まで、あげても、
そこで、投げてしまったら、すべてが無駄になる。
サブクラスのレベルも、上がってるはずだが、
それでも、耐えがたい……」
「泥沼ですね……」
「九十九まで上げて、経験値をかせぎ続ける。
しかし、レベルが、いっこうに上がらない
レベル百にならない――。
みんなに、焦燥感がただよう中、
誰かが、ひとこと、こういったんだ――」
〝――これって、徴収率が百%なんじゃね?――〟
「悪夢ですね……」
「とうぜん、クラス配給団体に、聞くやつがでた。
しかし、団体は『徴収率は百%ではない』と、
主張するだけだった――」
「『九九・九九九%だった』とかって、オチですか?」
「いや、レベルアップできなかったのは、システム上の問題だったんだ……」
「……どういうことです?」
「……たとえば、敵をたおして、
魔源が百十ポイント、その場に発生したとする……
数字は、仮のあたいだ。
魔法によって、魔源をわけることを、仮に魔源徴収システム。
略して『魔源システム』とよぶとする。
まず、プレイヤーは、魔源発生地点へいく。
プレイヤーについている『魔源システム』が、
その場にある、魔源量を計測する。
百十ポイントのうち、百ポイントを『魔源システム』が、
計測したとしよう。
のこりは、範囲外に散ったなどだ。
この、百ポイントのうち、
八十ポイントを『魔源システム』が徴収しようとする」
「この時点で、ひどいですね……」
「……でも、ここで考えてほしい……
たとえば、色のついた、空気中の気体を、
ストローとかで、全部吸えるか……?」
「気体が、まったく拡散しないとしても、
ぜんぶは、無理ですよね……」
「同じようなことが、おこったんだ……
八十ポイントか、それ未満しか、
プレイヤーが、取得できなかった魔源を、
すべて、『魔源システム』が、徴収してしまったんだ……」
「……悲惨ですね……」
「この問題は、賠償問題にも、発展し、
さして高くない、徴収率のクラスにも、クレームが発生した。
多くは、賠償金目あての、クレームだった。
これをきに、さきに、プレイヤーの経験値が確保され。
それから、徴収がなされるようになった。
徴収率、それ自体にも、制限が入った」
「でも、インディーズでは、いまだに、違法スレスレや、
違法なクラスも、配給されているんです……」
お姉さんが言う。
お姉さん、おひさしぶりです。
「……俺らは、これで行くから」
ロンゲとスキンヘッドは、
かえって、木目をかぞえだす。
「あ、お疲れさまです」お姉さんは、頭をペコリと下げる。
「……それにしても、あのふたりには、
クラスチェンジで、苦労した過去が、あるんでしょうか……?」
「いえ……、
この町に、常駐する冒険者は、
レベル四十以下しか、いないので――
もっと、高いひとは、モンスターの強い町へ、
行ってしまいました」
お姉さんは目をとじ。
ため息をひとつ、ついた。
「あのふたりって、
なにを、やっているんですか……?」
「この町で、なにか、事件がおこったら、
かけつける、お仕事です。普段は、ひまなんです……」
「そうなんですか……」
……俺は、なんとも、いえない気分になった。