第六十六話 VSゲッ下
「ゲッ下 LV一五〇 HP一七〇〇〇 BP一二〇〇〇
学帝ガリベンの部下。
性格は強気系にみせて、かなりのビビリな一面がある。
ガリベンが怒ったときは、自分が怒られたわけでもないのに一番ビビる――なの」
ヤキソバ LV三九 HP五八九〇/八八九〇 BP七七九〇
テッシ LV三一 HP六二八〇/六二八〇 BP五七九〇
マヤ LV二九 HP五七二〇/五七二〇 BP五六一〇
俺の右手が光る。
「俺が攻撃にいきます。テッシちゃんは、マヤを守ってください」
「分かりましたデス」
ゲッ下は指をくみ。構える。
「グルル――忍法 霧分身・囲い ヤキソバだ!」
強い瞬間の光とともに、ゲッ下は霧でつつまれた。
俺たちは、一瞬目をおおう。
それと同時に、俺たちを取りかこむ、
ゲツ下とおなじ姿のモンスターが三体、出現した。
「グルル――へへへ、どれが本物か分かるかな」
位置はちょうど、前後左右。計四体。
敵と俺たちの、腰から下の空間は、霧につつまれる。
まわりに、うっすらと、うすい霧が立ちこめる――。
「簡単デス! 新しく増えたのは偽者!」
「グルル、そうだと良いな――へへへ」
「そうだと嬉しいけど、それだと、技の意味がないよね。
たぶん技をつかった瞬間に、どれか一体と、入れかわってるよ」
「――なるほどデス」テレくさそうに頭をかくテッシちゃん。妹は詠唱中か――。
「グルル――いくぜええぇぇっ」
四体のゲッ下は、どうじに、こっちにむかってくる。
くそっ、どれが本物だよ……
「テッシちゃん!
とりあえず、どれか一体の攻撃を止めてくれ!」俺は叫ぶ。
「わかったデスよ!」テッシちゃんは、俺の真後ろからくる一体へ、攻撃をするが――霧となってかき消える。
「――俺はこいつだ!」俺は最初の位置にいたヤツにむかって、技をつかう。「シャインブレイク、シャインソード」
しかし、テッシの相手と同じように消える――。
「グルル――修羅無双!」
「修羅無双 四連携、三回攻撃
BP+〇 一攻防後、BP+〇の三回攻撃
スキル発動中、同じ対象へは連続して攻撃できず
同じ相手に当たった場合、貫通し、その対象にはノーダメージ――なの」
「三連続かやべえ……」
ゲッ下の三連続攻撃。
妹の腹部にむかって、突きをくり出す。
ゲッ下の二回目の攻撃。
テッシの肩にむかって、なおも突きをくり出す。
ゲッ下の三回目、最後の攻撃。
俺のひねった背中にむかって突く。
「パイロフレイムー!」
炎柱は流れるように、ゲッ下をおそう。
本物は俺からみて、左のヤツだったか。
右のヤツは、あらぬ方向へむかって、槍を突きだしていた。
間違いない。
妹はそれを見て、本物のゲッ下に、パイロフレイムを叩きこんだのだろう。
ゲッ下の修羅無双、マヤに 四一〇三ダメージ
ゲッ下の修羅無双、テッシに 三五九〇ダメージ
ゲッ下の修羅無双、ヤキソバに 二九三三ダメージ
マヤのパイロフレイム、ゲッカに 二〇七七ダメージ
ゲッ下 LV一五〇 HP一四九二三/一七〇〇〇 BP一二〇〇〇
ヤキソバ LV三九 HP 二九五七/八八九〇 BP七七九〇
テッシ LV三一 HP 二六九〇/六二八〇 BP五七九〇
マヤ LV二九 HP 一六一七/五七二〇 BP五六一〇
みんな、もうこんなに減っちまった……
俺はもう少しは大丈夫だが。
妹とテッシちゃんは、あと一回受けたら、
HPゼロだ……まずいな。
俺の右手が光る。
覚醒したか。
俺たちは、本物のゲッ下のほうへ、体をむける。
ゲッ下は、俺たちから、
5メートルほど引いて、ふたたび、おなじ技をつかった。
「グルル。忍法 霧分身・囲い ヤキソバだ!」
敵はふたたび、前後左右の方向。
四体になり、俺たちをかこう。
奴がこちらから引き、分身の技を使ったときに、
俺から近づいていって、連撃を叩きこんだ方がよかったか?
あの技から、別の技への連携は、なさそうだしな。
いや、うかつに飛び込むのはリスキーか。
だが、四体が、おなじ動作でこちらへ向かってきて、
そして、残った二体が、おなじ動作で、
こちらから離れていった。
その一連の流れをみて、
俺は敵の技を把握できたように感じた。
俺は妹たちに合図をおくり、近よらせ。
そして、短時間ながら、作戦を話しあった。
俺は前後左右に、一歩ずつ動く。
「グルル、なにを話しあったか知らんが、無駄なことだ。いくぞおおおぉぉっ!」
四体のゲッ下が、こちらへ、駆け足でむかってくる。
俺の真近にくると、敵はふたたび技をつかう。
「グルル――修羅無双だ!」
「くっ。シャインブレイク――シャインソード!」
俺は自分から見て、真後ろのゲッ下へ、技を叩きこむ。
放った光は、敵の左肩から、右わき腹へむかい、はげしく切りすすむ。
「グェェッツ!」
ゲッ下は 四一三六ダメージ。
敵は、右足で片ヒザをつき、
左足で立ヒザをして、そのヒザに左手をつき、荒々しく息をみだす。
「とどめだ! パイロフレイム!」見下ろす妹のマジックが飛びかかる。
「グゥゥッツ!」
ゲッ下に 二二三〇ダメージ
ゲッ下は白い息をはき――うめく。
別にとどめじゃねーな……
「あぶねーな……」
「ラッキーだね。お兄ちゃん」
「――危なかったデス」
ゲッ下 LV一五〇 HP 八五五七/一七〇〇〇 BP一二〇〇〇
「しかし、やはり最初の攻撃の段階で、弾くことができれば、
三連続こうげきは、起こらないようだな」
俺は、ひたいの汗をぬぐう動作をしながらいう。
「グルル。まだだ。まだ……」
ゲッ下は口元を引きしめると、
すっくと立ち上がり、俺たちから距離をとる。
「グルル。忍法 霧分身・囲い マヤだ!」
今度は、マヤを中心に発動するのか。
やはりこの技は使用すると、自分の位置が分身と入れ替わるようだな。
でなければ、今は分身が減っていないから、つかう必要はない。
マヤは俺がやったように、前後左右にうごく。
敵が風を切り、飛びこんで、着地を決めてさけぶ。
「グルル。修羅無双おおぉぉっ!」
俺は、くるりと本物を見すえて放つ。
「シャインブレイク、シャインソード!」
光の一撃をうけてよろめき、
たえ切れずに、後方へたおれるゲッ下。
ゲッ下に 四二〇三ダメージ。
妹もマジックをはなつ。二一〇八ダメージ。
ゲッ下 LV一五〇 HP 二二四六/一七〇〇〇 BP一二〇〇〇
「グルル。なぜだ、なぜ俺の居場所がわかる」
「教えてやろうか。その分身技は、対象者と自分の位置関係で決まっているんだよ」
「グルル。どういうことだ?」
「本物のお前が、対象者へと近づき攻撃をする。
そのとき、分身が変な距離で、武器をふるったら、すぐ分かるだろ?
だから、『分身のお前と対象者の距離』は『本物のお前と対象者の距離』と一定なんだよ。
対象者が『真ん前のお前』へ近寄っていくとする。
すると『真ん前のお前』が本物だったのなら、左右と真後ろにいる分身の方も、対象者へ近寄っていくんだ。
『真ん前のお前』が逆に離れていけば『真ん前のお前』と真逆にいる。
対象者から見て『真後ろのお前』が本物ってことになる。
それを、前後左右で試せばわかる」
「グルル、なるほどな……」
ゲッ下は、口角をニュッと引き上げた。
そして、両足で力強く地をけり。
距離をとる。
「グルル。忍法 霧分身・横隊!」
ゲッ下は俺たちから見て、横一直線。
五体へと変ずる。
突進してくるゲッ下。
こりねーな。
駆けてくる五体のゲッ下。
「グルル。修羅無双!」五体が同時にさけぶ。
俺は間近へきた、本物のゲッ下。
それを横目へ入れ、「シャインブレイク――シャインソード」
敵への攻撃は、当然のごとくヒットし、
敵は前のめりに、つんのめって倒れ、
俺たちが見下ろすなか、
ゲッ下はかかえた空気を円状に出す。
細かな煙が、霧とまじり、
吹き飛ぶ土煙と霧。
やがて、ふたたび足元を霧が隠す。
俺はゲッ下に近よる。
ゲッ下 LV一五〇 HP 〇/一七〇〇〇 BP一二〇〇〇
おお、たおしたか。
「グルル、な、なんで俺の居場所がわかった……?
この技は、相手との位置とは関係ないし、
お前らは一歩も動いていないじゃないか……」
「これだよ」
俺は台座のついた、球状の物体をみせる。
「グルル、なんだこれ……」
「コンパスだよ。最短距離のモンスターの場所がわかるんだ。
もう、かこう方の霧分身は、使用するか怪しかったしな。
霧分身には『囲い』って言葉が付いていた。
だから、ほかにも、分身技があるかもしれないと思って、
解説してみたんだ。
お前に逃げられたり、修羅無双、以外の技をつかわれるのが嫌だったんだよ」
「グルル。本体の位置で位置情報がどうとか、関係ねえじゃねえか……」
「まあ。あの方法でも、
囲う方の分身技の本体特定だったら、できるけどな」
「グルル、くそがああぁぁぁああっ!」
叫ぶゲッ下の体は黒ずんでいき、
やがて、ほこりとなって消えた――。
「すまんな」




