第六十二話 自室
「ガリベン来たナノよ」
窓ガラス越しに、フェリリが外を見ていた。
「どれどれ」
俺は窓へ歩いていった。
ガラスにホホをつけ眺めた。
あれか、トカゲみたいだな爬虫類タイプ。
それとも恐竜か?
「あれってリザー刀の親戚か?」
「かもしれないナノ。クリソツなの……」
「中央の奴がガリベンか?」
「そうナノ」
土下座して並んでる人々の中央を、トカゲが四人歩いて来た。
中央の太ったトカゲがガリベンか。
杖を持ってるな。
魔法使いタイプなのかもしれない。
「このことは、冒険者協会も知ってるのか?」
「当然知ってるはずナノ」
――あの町は、モンスターと戦うのをあきらめた人たちが、たむろしてる町だってよ――
なるほど。
そういうことか。
これがボイコット町の正体って訳か。
「おいマヤ。見てみろよ。面白いぞ」
「わたしはいい……」
えっ。
「お前。こういうの好きそうじゃねーか」
「そんなことないよ。お兄ちゃんもインネン付けられて、巻き込まれるから止めたほうがいいよ」
なんだ?
前世の、ガン見の話の時もそうだったけど。
止めたほうがいい。
止めたほうがいいって。
こいつってこんな奴だったっけ……
俺はふと。
疑念が湧いてきて想起する。
――一香ちゃんって、こういう子だったっけ? いや。ちがう気がする。なんだろう。
――わたしは今の町でいいかな……バイトもあるしね。
――もしかしてマヤ。おまえ何か、悩みごとがあるんじゃねーのか?
ああ。
そっか……
俺は本当は気づいてたんだ……
結局。
俺は事故で、妹と一香ちゃんふたりのこと
心も救えなかったんだな……
「違う――」
「えっ。なにがちがうの? お兄ちゃん」
「お前は俺の妹じゃねえ!」
「お兄ちゃん……なに訳の分からないことをいってんの……?
大丈夫? 平気?」
「俺は知ってるんだ。お前がどんなに、うるさい奴だったかを――昔。お前がうるさく言うから、映画館に連れて行ったんだ。そしたら。お前は映画を観ながら、『今の見たー? 今の凄かったよねー』って、数分おきに、俺に聞いてくるんだよ。 俺が『他の人の迷惑だから、小声で話してくれ』って言うと、
しばらくは小声になるんだ。でも、しばらくしたら。また、『今のビックリしたよねー』って興奮して、大声で俺に言うんだよ。わざとやってんのか、ガチなのか分からねーけど。お前はそういう奴なんだよ。心底かまってちゃんなんだよ!」
俺は、窓を勢いよく開けた。
「お前が、どんな奴だったのか、思い出させてやる……」
俺は、大声で叫んだ。
「おい! そこのトカゲ野郎! 偉そうに歩いてんじゃねーよ。いま俺にガン付けただろ」
俺は窓枠に足をかけ、蹴りはなち飛び降りた。
この世界で、初めて高いところから降りたが、足が違和感を感じるほどに、痛くなかった。
俺はガリベンに剣を向けた。
「お前が、何をしようが興味はないが。ひとをなめ腐った態度が気に食わねぇ。俺と勝負しろ」
俺が居たって、妹はあんなんなんだ。
俺が消えたところで、同じだろう。
どうせ、最初からひろったような命だ。ロストしても構わねえ。
俺の冒険はここまでだな。
「グェッ。ガリベン様。変なやつがきましたね」
トカゲの一人がしゃべった。
ガリベンが、しゃべれるとは聞いてたが。部下もしゃべれんのかよ。
「一応、サーチしておくか……」
そういうと、ガリベンは魔卓のようなもので、調べ始めた。
人は魔卓で、調べられないんじゃなかったか……?
「おい。勝手に調べてんじゃねーよ。早くおっぱじめようぜ」
俺は声を張り上げた。
ただでさえ不利そうなのに、これ以上不利になってたまるか。
「おい! ここでやんなよ。そこ曲がったところでやれ」
「余計なことすんなよ。こいつらは戦闘終わった後で、近辺一帯を破壊するんだからよ」
「やれえええ。久しぶりだぜえええええ」
「俺以外、全員死ねえぇぇぇッ!」
ギャラリーがうるせーな。
お前ら、事大主義は黙ってろよ。
くそっ。イライラしてきた。
「うるせえええぇぇっ! 勝てば良いんだろ? 俺がっ!」




