第六十話 ガッツの搭6階 VS竜騎士その3
「セカンドウェポンはともかく、今はチャンスだ。二枚おろし!」
俺は黒竜に、剣で縦に切りさげる。
「さらに、すずめの涙突きだ!」
「フライエスケープ」
小回りのきいた突きが、敵の頭部にヒットする。
キリュウはいうと、黒竜は横に回転しながら上空へ飛び逃げた。
二枚おろし、クロに 六五五ダメージ。
すずめの涙突き、クロに 五四〇ダメージ。
クロリュウ LV八〇 HP 一八〇七/八〇〇〇 BP七〇〇〇
もう少しか。
「それにしても、あんな逃げ技があったのか」
「みたいじゃのう」
フェリリは巻物で、何かを調べている。
「色々分かったよ。あの黒竜は、ドラゴンベースっていう特有のベースをふたつ持っていて。
それに、ドラゴンのスキルを入れて使っているみたい。
飛行は自動的に、ベースをひとつ消費し続けていて。
飛んでいる間は、スキルを一個しか使えない。
飛んでいなければ、ふたつのドラゴンのスキルを、自由な順番で発動可能みたい」
「なるほど。飛んでいると攻撃回数が下がるのか」
そんな会話をしているうちに、ウェイブはキャンセルチャージを使い続けている。
抜け目なくて、頼もしいな。
「降りてきたら、同じパターンで迎撃するよ~」
「うむ、もうちょっとじゃのう」
それにしても、降りてこないな。
そろそろ逃げる気か?
HP的にもギリギリだしな。
それとも、空中で回復道具を使うつもりか。
不信に思い、よく目を凝らしてみる。
すると、相手はなにかを読んでるじゃねーか。
「スクロールだ――あいつスクロールを読んでやがる」
黒竜の羽と体で隠して、何かのスクロールを唱えている。
「大丈夫、スクロールもわたしが消すから。二人はあいつのHPをゼロにして戦いを終わらせて~」
キャンセルハンドはスクロールに対しては、使用できないはずだが、何か手があるのか?
「わかった。よろしく頼みます」
唱え終わりかけなのか、キリュウと黒竜は蛇行しながら、こちらに向かってくる。
そして。
俺の目の前に降りると、詠唱を唱え終える。
「裂け飛べ熱の雨――ヒートレイン! さらにブラックブレスだ!」
「ヒートレイン ドラゴンスクロール レンジ三
範囲内にBP一三〇〇〇でこうげき
ドラゴンスクロールは、読むことで竜にスペルを使わせる。
自分とドラゴンどちらで使うことも可能。 なの」
「キャンセルハンド~」
ブラックブレスはかき消える。
「さらに、マスターキャンセラー~」
マスターキャンセラー?
「マスターキャンセラー キャンセルスキル レンジ、武器で可変 半連携
BP+〇 ふれた対象のスキルをキャンセルして
『対象のスキルの使用者が、対象のスキルを使ったベース』を、ブランクベースにかえる。
【条件】『なし』 」
「無敵じゃねーか……」
敵は、攻撃が両方消されたのを見て、うろたえている。
追い打ちをかける、俺とカゲヤマさん。
「ブランクキャンセル、減小の呪符」
「二枚おろしキャンセル、暴飲暴食」
クロに 一四二〇ダメージ。
「すずめの涙突き、なで切り」
突きが当たった段階で、黒竜は倒れた。
それをみて、キリュウは戦意を喪失したようだ。
キリュウは地面に座ったまま、右脚だけ立て膝をして話し始めた。
「見逃してくれ。黒竜のヒナがいて、餌が必要なんだ」
「だから肉が大量に、必要だったのか?」
「そうだ。肉を売って、ヒナの餌を買ってたんだ。それに借金もある。首が回らないんだ」
「お兄ちゃんまだ戦ってるー?」
妹だ、やっと来たか。
「いや、もう倒したよ。こいつ黒竜のヒナのメシ代が足りなくて、蛮行に及んだんだってよ。借金があるとか」
「終わっちゃったデスか。残念デス」
「借金あるんだ……なんか、かわいそうだね。お兄ちゃん……」
「なんだか、俺が可哀想な人みたいに聞こえるな」
「わたしたちが、一時的に立て替えてあげようよ」
「マジで? 俺たちだって、金持ちって訳じゃないぞ」
「情けは人のためならずだよ。その代わり今度、黒竜に乗せてもらうから」
「ありがてぇ……ありがてぇ……」
俺たちはキリュウと連絡先を交換し、町へ帰ることにした。
「テレポで帰るか、確か三回テレポっていうんだったな」
「そうだよ~。テレポ、テレポ、テレポ」
妹をつかんで、ウェイブが唱える。
体が浮いたかと思うと、ウェイブが宙に浮く。
そして、妹ごと移動していった。
「空じゃなくて、塔の階段の階段の方へ飛んで行ったな……」
残されたみんなもテレポを三回唱えた。
◆ ◆ ◆
「リバースして戻るから空じゃなくて、今までの順路を戻るんだよ~。途中にドアとかあっても開けるから大丈夫だよ~」
「そういうことでしたか」
時間にして数十分後だろうか、俺たちは、テレポ屋に戻ってきていた。
「ダンジョンや家とかを、壊したりしちゃうかもしれないしね~」
「なるほど、ところで話は変わるんですけど。あのマスターキャンセラーって、えらく強いですね」
「あれはこの世界に来たときに、わたしの箱に入っていた。このアームウォーマーの装備スキルだよ~。『最終スキルステータスの抵抗力』が一三〇以上じゃないと使えない上に、消費SPが三〇〇〇使うんだけどね」
キャンセルの条件はないけど、そっちの条件は厳しいのか。
俺たちはしばらく話し、クエストを完了。解散し、宿へと戻っていった――。




