第六話 冒険者デビュー編 7月1日 冒険者協会支部
きょうは、冒険者デビューの日。
俺は、記念すべき、きょうのために、
異世界人の、だれとも、話していない。
「そろそろ行くナノ」
「お、おう……」
すがすがしい風と、
朝のあたらしい光をあびて、
俺は、宿を出ると、背のびをした
フェリリには、感謝しても、しきれねーな。
つきっきりで、語学をサポートしてくれて。
「ごめん……
探し人は見つからなかったナノ……」
「きにすんな。ダメもと、だったからな」
これから、あたらしい冒険が、はじまるんだ。
ふたりは、これから、地道に探せばいい。
俺たちは、フレッシュな気分で、
冒険者協会支部の前へきた。
そして、フレッシュな気分で、とびらを開けた――。
しかし、そこには、フレッシュな気分など、
みじんも、感じないひとびとが、まっていた。
競い合うように、床の木目を、ひたすら数える、ふたりの男。
泥のように、床で、ねている女。
イスの背もたれに、よりかかり、
両手をだらりとさげて、口を半開きで、ななめ上の、中空をみつめる少女。
騒ぎながら、カードを投げつけあう人たち。
壁にひたすら、正拳づきをする巨漢。
あぐらで、泣きながら、ひたすら、お経をとなえる老人。
なんだよこれ……
なんだか、やる気がないヤツが、おおいな……
いや、やる気のある人も、いるけれど、
冒険者として、やる気があるかはあやしい……
「――こっちなの」
うながされるまま、俺はカウンターの前へきた。
「どんなご用件ですか?」
ショートカットのお姉さんだ。
どことなく、三つ編みのおねえさんに、にている
――っていうか、本人じゃね?
「冒険者の登録をしたいナノ。
それから、戦う仲間をさがしに――」
「――分かりました」
「久しぶりですね」俺は、カマをかけてみた。
「あ、分かりましたか?」お姉さんは、こたえる。
「こっちが本業ですか?」
「わたしが、そういう仕事していることも、
あなたが、セレクターであることも、秘密です。
なので、ここでは、はじめて会ったことに、
しておいてくださいね」
こそこそとしゃべる。
こういう秘密って、いいもんだな、なんとなく。
セレクターって、セレクトスキルやセレクトアイテムを、
もらった人の、ことだろうか……?
「冒険者の登録ができましたよ。
これ、冒険者証です」
「ありがとうナノ」
「ここに、クラスチェンジって、あるんですけど……
俺も、クラスに就けるんですか……?」
「セレクターは、最初からステータスから算出された、
適正クラスに、ついていますけれど、
好きなクラスに、なれますよ」
セレクターであることが、ばれないようにか、
お姉さんは小声で言った。
最初から、適正クラスになってる?
俺の、いまのクラスってなんだ?
「すみません、
俺のいまのクラスって、なんですか……?」
「……えっと――商人になってます」
「しょ、商人……?
俺って、いままで、商人だったんすか……?」
「そうなっていますね。
レアクラスですよ、やりましたね!」――お姉さんは平然という。
「レアクラスっても、商人じゃないですか。
戦闘むき、じゃないですよ」
「そうなんですか?」
「いや、分からないっすけど……
クラスにつくと、どうなるんですか?」
「クラスについて、経験値をかせぐと、
レベルが上がります」
ふむふむ。
「レベルが上がると、ステータスが上がるほか。
スキルをおぼえることが、できます」
俺は、ひとことも、聞きもらすまいと、耳をかたける。
「スキルには、さまざまなものがあり。
技スキル、マジックスキル、パッシブスキル、
特殊スキルなどの、種類があります」
なるほどなるほど。
「さらに、レベルが百まで上がると、
マスタースキルというものが、もらえます。
いわゆる、その職業の目玉ですね」
「『もらえる』って、どういうことですか……?」
「……クラスっていうのは、
組合が、提示してるものなんです」
お姉さんは、五本の両手指の、
腹をあわせて、笑顔でいう。
「たとえば、このソードファイターというクラス。
『ソード協会』というところが、つくったもので、
協会は、ソードファイターに、なったプレイヤーから、
経験値――別名『魔源』の一部を徴収しています。
つまり、プレイヤーが敵をたおすと、
『魔源』という名の、経験値が手に入るんですけど、
大部分を、自身のステータス強化につかい、
のこりを、協会側に、わたすことになるんです」
「そうなんですか……
でも、俺は、前回の戦闘で、てにいれた魔源を、
すべて、つかってしまったと思います……」
「大丈夫ですよ。
てにいれた経験値は『自動的にプレイヤーの体内へ、一時的に保管』され、
町の入りぐちや、ここ、冒険者協会などにある、
特殊な器具の、おかれたポイントに、きたときに、
体内から放出され、自動的に支払われます。
協会は、その徴収した経験値『魔源』で、
技の開発や生計をたてています。
クラスに就くことで、そういう徴収をされる契約と、
魔法をかけられているんです」
「……そうなんですか。
レベルは百が最高ですか……?」
「……いえ、百いじょうに、上がりますが、
マスタースキルは、最後のスキルなので、
たいていの、ひとは、クラスをかえちゃいますね。
クラスをかえると、べつのクラスになるので、
もちろん、レベルは一からです」
「えっ……きゅうに、弱くなったら、
大変じゃないですか……?」
「そこで、サブクラスです。
サブクラスは、メインクラスと、同時に、就くことができますよ。
サブクラスの上がり方は、メインクラスの半分くらいの、
上がり方になるんです。メインクラスのレベルが、上がりきったときには、
サブクラスのレベルも、相当に、上がっているので、
クラスチェンジをするときに、便利ですよ」
「なるほど、メインクラスが百まで、上がったときには、
サブが、五十くらいまで上がってる。
なので、そっちをメインにするのか」
「そいつは少し違うな」
ひびきわたる声がする……
誰だよ……?
俺は声のするほうへ、顔をむける
そこには、ロンゲ男が立っていた。
こいつ、さっき床の木目を、数えてたやつ、じゃねーか。