第五十七話 ガッツの塔4階
というか、察するに、技覚醒は武器が適正じゃないと、使えないんだろうな。
キャンセルハンドは、見るからに素手の技だ。
なので、右手が光ってても、素手である左手のほうで発動した。
ということか?
そんなことを考えていたところで、通信が入る。
「お兄ちゃん。どうやら第十六魔陣って、こっちみたいだね」
「そうなのか」
「魔陣ってのは無限沸きポイントみたいだよ。
敵がどんどん出てくる」
「狩場の専有だから、そこに陣どってるわけか」
「お兄ちゃん、まだ魔陣ポイントに着いてないけど。
そっちの塔へ逃げるかもしれないから、そっちの塔の最上階で陣どってて。
光を取りいれる穴からでは、竜騎士は出入りができないと思うから。
きっと、そっちの屋上に逃げると思う――こっちで脅かして、竜騎士がお兄ちゃんのところへ逃がすから。
そこで、フェリリさんが竜騎士の名前を分析。
それをクエストを依頼した人に報告。でクエストクリアだね。
……人間相手では魔卓で、ステを確認できないし――竜騎士はフェリリさんが、ステータスの確認ができることを知らない。
自分の正体を見破られたなんて、まったく気が付かないはずだよ。
戦闘もおきないはずだね。
もっとも、竜騎士が凶暴な人なら、話は違うとおもうけどね」
「そうだな、それでいくわ。竜騎士が凶暴なやつでないことを祈るわ」
俺は、四階から五階への階段を上がった。
そこで、コンバットをたおして、六階にあたる階――最上階である、屋上へあがる。
屋上は、強風が吹きすさんでいた。
「五階まできたよ。いた! 竜騎士いた! ものすごい数の獲物の肉だよー」
「……肉? そんなものをどうやって運ぶんだ……?」
「うーん。テレポ屋か、テレポ系のマジックを使って運ぶんじゃない?
肉自体は結晶化スキルかなぁ」
「そういうことか」
「よし。わたしが脅かして、お兄ちゃんの方へ送るよ。 こらー」
なんだか、電話ごしに爆発音や金属音が聞こえる。
「おい、マヤ。戦ってるのか?」
「ううん、戦ってないよ。テッシちゃんと一緒に、うるさい音だしてるだけ」
ガンガンと、岩などが壁に当たる音や、鈍い金属音が聞こえる。
「逃げた! 逃げ出した! お兄ちゃんのところにいくよ」
屋上に出る階段の入り口から、頭だけを出して周囲を確認する。
何かが飛んできた。
竜騎士だ。
真っ黒な黒竜に乗った竜騎士。
こっちへ飛んでくる。
「来たみたいじゃのう」
「ですね」
「戦闘ないなら、楽でいいね~」
「わたしが近寄って、調べてくるナノ」
「ここからじゃ無理なのか?」
「この距離だと、ちょっと無理かなー。でも、もうちょっと近よれば大丈夫ナノ」
フェリリは無音に近い平行移動で、竜騎士に近寄って行った。
そこへ、ふいに突風が吹いた。
その風は、竜騎士のだらしなく被ったヘルメットをふっ飛ばした。
ちゃんと、ヘルメットのかけヒモを、とめて無かったのだろうか
それとも、あわてて逃げ出したからだろうか。
竜騎士は長時間にわたって乗るからか、ヘルメット自体はさほど重くないようだ。
そのヘルメットが、着地に衝撃と体勢が変化し――そこへ突風。
それにより、ヘルメットの重みと頭蓋骨の丸みで、クルリとまわった。
ヘルメットは竜の背に落ち、左にはねて地面に落ちた。
竜騎士はヘルメットを拾おうと、こちらに向き、かがみ。
そして、フェリリと目があった。
フェリリは手足をバタバタと動かした。
「わ、わたしは怪しいものじゃないナノッ!」
超あやしいっすよ……
「お前……俺の顔を見た以上、ただじゃおかねぇ……」
「なのーっ」
フェリリはこちら側に逃げ出した。
「助けにいくしか、ないようじゃのう」
「ですね」
「がんばろ~」
俺たちは、竜騎士の前に姿を現した。
「お前ら……何時からそこにいた……
隣の塔の女たちも、お前らの仲間か?」
俺は小声でフェリリに話す。
「調べたのか?」
「名前はキリュウなの」
「なるほど」
俺はキリュウに、そしらぬフリをして話しかける。
「すいません。どこの誰だか知らないけど。
俺の友人をいじめるのは、やめてほしいんですけれど」
「しらばっくれても無駄だ。お前らは雇われた冒険者だろう。隣の塔のやつらもグルなら、俺のことはご存じなんだろう?」
「これは言いくるめるのは、ムリそうじゃのう」カゲヤマさんはささやく。
「お前たちが、チクる気にならなくさせてやる。クロッ!」
キリュウが吠えると、黒竜は炎を上にむかって、ひと吹きした。
「あっ。まずいよ~」
「ん? なんですか?」
「テレポ屋や移動のマジックは、戦闘が起こると使えなくなるんだよね~。時間での強制効果は、有効なんだけれど」
「それ重要じゃないですか……」
「戦うしか、ないようじゃのう」
俺たちは武器をぬき、竜騎士の前へ立ち、かまえた。




