第五十話 冒険者協会支部
「わたしからにしてよー」
「そうですね、マヤさんからにしましょう」
ライトは鑑定書をめくった。
「これだぁぁああッ」
ライトが叫ぶと壁に映し出された。
わざわざ用意したのか。
マヤ
筋力 B 七五 (B 一五)
敏捷力 B 七五 (B 一五)
知力 S 一一五 (S 二五)
技術力 B 七五 (B 一五)
魔力 S 一一五 (S 二五)
抵抗力 B 七五 (B 一五)
潜在能力 B 五
「これは最初から高スコアですね」
冒険者協会内は、どよめき立った。
高スコアってなんだよ……
「Sは五十人にひとりとも。百人にひとりとも、言われているそうですね。二個あるなんて、いやーすごい」
「嫉妬で気が狂いそう……」
「すげええぇぇッ! 異神帝王をたおしてくれええぇぇっつ!」
誰だよそれ……
「ヤキソバさん……、わたしたちは、なんて無力なんでしょう……」
もと三つ編みさんが下をむき、自身の髪をいじりながらつぶやいた。
「ですね……」
「……お次は暴食の女王。テスラ‐シリンダーさんだああぁぁッ!」
なんだ。そのあだ名は……。
テッシちゃんの方をみると顔が真っ赤だ。
オッ! いいぞライト。もっとやれ!
テッシ
筋力 SS 一三五 (SS 三〇)
敏捷力 A 九五 (A 二〇)
知力 B 七五 (B 一五)
技術力 B 七五 (B 一五)
魔力 B 七五 (B 一五)
抵抗力 B 七五 (B 一五)
潜在能力 B 五
「おーっと。これも高得点だー。
さすが暴食の女王だ。いやー皆さんすごいですねー」
テッシちゃんは、筋力と敏捷力にふったのかな。
きっと記憶を失う前は、前線でバリバリ戦うクラスに付きたかったんだろう。
……でも記憶を失ったら、なぜかヒーラーに目覚めて……って感じなんだろうか……?
「……悔しくて、涙でてきた……」
「おれの知り合い、食い殺してくれえええええ」
観衆は口々に言った。
なんか会場はヒートアップしてるな……
俺の発表がこええ。
「お次はウェイブさんですね」
ウェイブ
筋力 B 七九 (B 一六)
敏捷力 B 七九 (B 一六)
知力 B 七九 (B 一六)
技術力 B 七九 (B 一六)
魔力 B 七九 (B 一六)
抵抗力 SS 一三五 (SS 三〇)
潜在能力 B 五
「抵抗力が高いって、あんま羨ましくねえな」
「これはあんま嫉妬しない」
「なんだか、このギルドは軒並み高いですね。なんなんでしょうか」
ウェイブはうちのギルドに、まだ入ってないけどな。
「なんかSとかSSとか多くね?」
「最初からそういうメンバーを集めてんじゃないのか?」
「みんなC以下が一個もないな……」
なんか不穏なふんいきになってきたな……。
「お次はこのギルドのギルドマスター。ヤキソバだーっ」
ヤキソバ
筋力 A 九五 (B 一五)
敏捷力 A 九五 (B 一五)
知力 A 九五 (B 一五)
技術力 A 九五 (B 一五)
魔力 A 九五 (B 一五)
抵抗力 A 九五 (B 一五)
潜在能力 SSS 二五
「流石ギルマス! って感じですね。人生は何ごともバランスですよね」
潜在能力はSSSか。
これってあと潜在能力が五あれば、全部一〇〇でそろったんじゃねえの?
「数字がそろってて気持ち悪いな!」
「SSSってなんだよ……感じ悪いな……」
この流れはまずい。
あと残ってるのは、カゲヤマさんだ。
「ヤキソバさん。ヤキソバさん」
お姉さんが、小声で話しかけてきた。
「カゲヤマさんは潜在能力が+二五なんです……だから――」
「知ってますよ。
カゲヤマさんは俺のステの上位互換なんです。ゆるさねえ……」
「ステータスは、上位互換どころじゃないですよ」
「どういう意味ですか? それ」
「ヤキソバさんはステータスふって、潜在能力+二〇。カゲヤマさんはふらずに、セレクトスキルで潜在能力+二五なんですよ。つまり、自分でふった分を合わせると『+四五』されてるんですよ」
うげぇ。
カゲヤマさんの最強伝説が始まったな……
目立ちすぎる。
止めるしかねえ。俺は立ち上がった。
「すいません、みなさん。最後のひとりのステータスは、秘密ということで」
俺はしゃべりながら、ライトの元へ歩み寄った。
「ブーブー」
「おれたちはこのために、入りびたってるんだぞー」
「ひとりよこせよ!
お前のギルドでひとり占めしてるんじゃねーよ!」
「おれだって、筋力A以上が欲しかったわ!」
ひとりが、俺のところに駆けよった。
はがい締めにされる俺。
なんだよこれ、やべえよ……やべえよ……
「ヤキソバさんすいません……これ以上、引きのばすと暴動になるかもしれませんから。だから発表します……」
「いっけーライトおおおおおおおおお」マヤだ。
おいこら! ライト! マヤ!
「おれだって筋力Aが欲しかった……」泣きながら、俺にしがみつくおっさん。
「お前ぜったい筋力Aあるだろ! 俺より力あるじゃねーか!」
力いっぱい動くが、ひきはがせない。
それをみて、三人くらい追加でまとわりついてきた。
必死だな。なにと戦ってるんだよ……?
「ステータスは『もともとの体に加算するもの』っていうのもあるけれど。
ヤキソバは潜在能力で上がっていて『基本ステータス』の筋力はB。
つまり、『最終スキルステータス』はAでも、体力的にはB相当なんだよな」
「そうそう。潜在能力はあくまで潜在」
ギャラリーだ。
ギャラリーは冷静に見てないで、何とかしてくれよ……
なんとかする気ねーか。
こいつら、変態よろしく、カゲヤマさんのステを見る気まんまんだ。
完全にアウェーだぜ。
「どれどれ」
ライトは紙をめくった。
ステ鑑定書を見たとたん、顔面蒼白になり固まるライト。
「早くしろよー。もったいぶるな!」
「どうしたライト?
これ以上、引き延ばすとヤバいぜ……?」アークが、ライトに近よった。
アークはライトの手元のステ鑑定書を抜きとり、そして、見ずに、壁に投射する器具にセットした。
「みなさん! 落ち着いてください。長らくお待たせしました。今からカゲヤマさんのステータスを公開します」
アークは、なだめるように両手を上げ動かした。
カゲヤマさんは、それをポカーンとした表情で見ていた。
アークは、投射器のスイッチをオンにした。
カゲヤマ
筋力 S- 一〇〇 (B 一五)
敏捷力 S+ 一二〇 (A 二〇)
知力 S+ 一二〇 (A 二〇)
技術力 SS+ 一四〇 (S 二五)
魔力 S- 一〇〇 (B 一五)
抵抗力 S- 一〇〇 (B 一五)
潜在能力 SSSS 三〇
みんなが画面をみつめたまま、時が凍った。
俺にまとわりついてた力が、抜けていくのを感じた。
俺はゆっくりと抜け出すと、メンバーひとりひとりに近寄り、肩をたたき。
静かにドアを開け、みんな忍び足で冒険者協会を抜け出した――。
◆ ◆ ◆
後日、ある噂が耳に入った。
それは『ヤキソバ、ステータス発表会事件』という事件だ。
何度注意されても止めなかった、ステータス発表会をつぶすために、冒険者協会が仕組んだ制裁という事件だった。
「あーそんなこともあったよねー、お兄ちゃん」
俺は妹たちと食堂にいた。
食堂の壁に映像が投射され、映ってる人物が語った。
「では、事件の真相を知る、謎の人物がきています。どうぞー」
顔を隠した二人組を映した。
「AさんとRさんに来てもらっています。やっぱり、あれは冒険者協会のヤラセなんですか?」
「そうですねー。その話の信ぴょう性は高いですね。Yさんは『冒険者協会の受付嬢と懇意にしてた』という噂もあります。目撃者もいるんです!」
「彼らは最初はのり気だったんです。しかし、途中から止めろと考えをひるがえした。これは怪しいですよね」
「自分たちはただのギャラリーでした。あのときの熱気は、思い出すだけでも恐ろしいですよ……」
俺は映像を横目につぶやく「なにがYさんだよ『ヤキソバ、ステ発表会事件』ってタイトルでバレバレじゃねーか……」
この事件以降、ステータス発表会はなりをひそめた。
ごくまれに行う場合でも、ステータスをあらかじめ、チェックするようになったという。




