第四十五話 自室
八月三日、二陽十二時。
妹は俺の部屋にきていた。
テッシちゃんや、カゲヤマさんは「積もる話があるじゃろう」と、俺たちに気を利かせてくれた。
「……それにしても、お兄ちゃん若くなったよね……
そのせいで、気がつきにくかったよ」
「だろ?」
「……お兄ちゃん、こんなになっちゃって……」
「……なんだよそれ……」
妹はベットに寝そべって、「お兄ちゃんが、もうちょっと早く言ってくれれば、お兄ちゃんの部屋に住んだのに……」
「……おいおい、俺の部屋に住む気かよ?」
「……だって宿代がもったいないじゃん……『ひとり暮らしをしましょう』なんて、不動産業界のいんぼーなんだよね」
「この部屋って、そんなに広くないだろ……?」
「お兄ちゃんは、まい月まい月『ろーどーの何十時間ぶんのお金』を取られる馬鹿馬鹿しさを知らない、だから窮屈だからとか、ひとりのが気軽だとか言えるんだよね」
「……まあ、確かに俺はしらないな……」
妹は窓のほうへ歩き、窓から外をみて、体を左右にゆらした。
「……ねえ、テッシちゃんってさー……」
「……ああ、一香ちゃんだよ」
「お兄ちゃんが見つけたの……?」
「ああ、そうだよ。会ったのは偶然だけどな。
でも誘ったのは俺だよ。マヤがさびしがると思ってな。」
「ありがと」
「おう」
妹は、ふうと息をついた。
「誘ったのは、半分はお兄ちゃんの下心だったりして」
「な、なに言いだすんだよ」
やべえ、声がうら返った。
「お兄ちゃんさー。一香ちゃんが家に来たときさー。ジロジロ、ジロジロみてたよね。そういうの止めたほうがいいと思うよ。女のひとにはバレバレなんだよね、そういうのって。わたし学校で一香ちゃんに謝ったんだよね。昨日はお兄ちゃんが、ジロジロみて、ごめんねーって」
「お……男は周辺視野が狭い傾向があるから、チラ見が難しいんだよ……」
フェリリさん、どこにいるんですか!
助けてください! フェリリさん!
「いい訳すらしないんだ……一香ちゃんは気がついてなかったみたいだけど。もうやめてよね。恥ずかしいから」
フェリリぃぃいぃぃッ!
フェリリぃぃいぃぃいい!
フェリリいぃぃぃいいッ!
俺はこころで叫びながら、顔をそらす――いた。
ふりこ時計の上で寝てる。
「……そうだ、お兄ちゃん」
「……今度はなんだよ……?」
「わたし泣いて頼んだんだからね。『お兄ちゃんをたすけて。お兄ちゃんを生き返らせて』って。お兄ちゃんも、泣いて頼んでくれたんだよね?」
「お、おう。そんな気がするわ。よく覚えていないけどな。
っていうか、先生じゃなくてヒゲの人だろ?」
「……神様みたいなひと」
「……みたいじゃなくて、神様の代理人らしいけどな。俺も信じられないけどな」
「……そうなんだ……」
妹はふうと、ため息をつく。
妹はずっと、窓の外のむかいをみている。
なにかあるのか?
「お前ずっと外みてるな。何みてるんだ?」
「宿のむかいに、スクロールショップがあるんだよね」
「買いたいのか?
おこづかいあげるから、買って来いよ。
引っこしのお祝いだ」
「やったー」
俺は三万クリわたすと、妹はバタバタと部屋から出ていった。
……あいつ本当に、俺の部屋にひっこす気なのかな……




