第四十一話 門の上
俺たちは、門の階段を上がった。
「やあ、戦ってたのは君たちかい?
どうやら、勝てたようでよかったね」
イスにすわった、頬がコケてるお兄さんは言った。
お兄さんは俺たちにテーブルの上にある、お茶をすすめてくれた。
俺たちは、促されてイスに座った。
「見てたのじゃな。ありがとうじゃ」
「ありがとうございました」
「ここまでくれば、ガーゴイルは来ないよ。あいつらは壁は越えられないし、それほど高くは飛べないしね」
「それはよかったデス]
「赤く光ってるのを見つけたからね。おや? 救世主様かな――、ってね」
「救世主伝説デスかー。信じてる人、多いですよね」
「ほうほう。そんな伝説があるのかのう、知らなんだ」
「俺も知らなかったです」
「世界が危機におちいったとき。この世界に、光をまとった人物がおり立つです。それが救世主です。世界のカギをにぎるその人は、世界をみちびき、やがて救うのデス」
この世界に、そんな伝説があったのか。
「わたしは救世主だったのか……。えらいことになったね」
「いいえ。マヤさん違います。わたしは救世主に会ったことがあるんデスよ」
え?
マジ?
「ヤキソバさんこそが、光をまとった救世主なんデスよ!」
ちょっ!
とんでもないこと言うね、この子は。
お茶ふきそうになったわ。あぶねえ。
「えー、違うよわたしだよ。
わたしが救世主なんだよ。ヤキソバさん光ってないし」
そういえば、マヤさんには見せたことなかったな、技覚醒。
俺はテッシちゃんを呼びよせて、小声で話す。
「ちょっとちょっと。テッシちゃん。俺がセレクターであることや、あのスキルは秘密なんだから。秘密にしといてよ」
「あれ、セレクターのスキルだったんデスか。すいません」
おいおい。
気がついてなかったのかよ。
「誰が救世主でもいいけど。危険だから、夜は出歩かないようにね」
「わかりました。すいません。本当はもっと早くかえるつもりだったんですけれど。予想よりも長びいてしまって」
「それにしても、あんなに遠いところまで届くんじゃのう」
「魔道砲は町の中心地まで、とどくんだよ」
「そんなに届くナノ?」
「そうだね、町の中心地まで届くからね。この壁の下にはとどきにくいから、町の人は高い建物でも、窓にカバーを付ければ大丈夫だけどね」
俺は、疑問をぶつけてみた。
「東西南北にある壁の上で、魔道砲を使っている別の人たちは、当たらないんですか?」
「特殊な方法で、パーティを組んでいるから平気だよ。そして『敵をさがす人』からの指示をうけて、あるていど広範囲に電撃をまくんだよ。電撃は敵をみつけ、ある程度自動でおって攻撃をする」
「その『さがす人』が私たちをみつけたデスか?」
「そうだね、君たちを見つけたのもその人たちだよ。
休憩で今はいないけどね」
「ありがとうございました。よろしく言っといてくださいデス」
「もう僕の休憩も終わりだね。
よろしく言っておくよ。君たちも早く帰るようにね」
俺はお辞儀をし、カゲヤマさんをせおい、門をあとにした。
宿に帰るとちゅう、俺は『救世主』という言葉を、この異世界ではじめて聞いた時のことを、おもいだしていた。
それは講習をうけて、テッシちゃんをパーティにさそったときのセリフだった。
――ヤキソバさんはわたしの救世主ですね――
あの時に――テッシちゃんがした満面の笑顔を、俺はいちど見たことがあった。この世界にくる前に、一香ちゃんへメッセージカードを送った時の笑顔だった。
……なぜ一香ちゃんは、記憶を受けつがなかったのだろう……?
三枚目のリストを見なかっただけかもしれない――生き残れればそれでいいと、スキルを優先させただけなのかもしれない。
俺は、前世で一香ちゃんがされていた、イジメのことはよく知らない。……でも、一緒にゲームをしていたときの一香ちゃんは、何もかも忘れて、すごく楽しそうにみえた……
その時のことや、家族のこと。
色々な大事なこと。
それを忘れても、構わないと思ったのだろうか。
……きっと、世界が救われたのなら、記憶は戻るのだろう。
でなければ、ねがいが叶うという約束は、反故にされたも同然だからだ。
――でも。
俺は妹といっしょに書いたメッセージカードで『なにかを救えてた気になってただけ』なんじゃないだろうか。
――ヤキソバさんこそが、光をまとった救世主なんデスよ――
違う。俺は救世主なんかじゃない――。




