第四話 初めてのモンスター編 VSダサネズミ
「モンスターを倒しにいくナノ?」
「おう。倒しにいく――」
俺は高らかに宣言した。
「――この世界で、一番ザコな、やつをな」
「カッコい――くは、ないナノね……」
「格好とか、どうでも、いいんですよ。
そういう感情はすてた」
「……冒険者協会支部へは、行かないナノ……?」
「……えっ」
「登録したりして。
冒険に役だつ、支援をしてくれる機関ナノ」
「……まだいかない……」
「えっ、なんで……?」
「モンスターをたおすのに、
理由はいらないから……かな……?」
「たおす理由じゃなくて、
協会に、いかない理由なの……」
「……別に良いじゃないですか。
最初から、人にたよる人に、成長はないですよ?」
「まじめに言ってほしいの……
もしかして、レベルが低くて、
笑われるからなの……?」
「……この世界って、
リアルで、レベルとかあるのかよ……」
俺は驚愕した。
そんな、リアルランク制度が、あるなんて……
「ごめん……
オレ、協会へいけねえよ……
嘲笑の目に、たえられねえ」
「……格好とか、
どうでも、いいんじゃなかったナノ……?」
「俺は、すてた感情を、ひろいなおした、
俺は人間になったんだ……」
「くたびれた、マシーンのままで、いいから。
はやく、冒険者協会へいこうよ……
時間の無駄ナノ」
「……マジで、そこへいかなきゃ駄目なのか……?
レベル二に、なってからで、よくね?」
「どうせいくなら、はやくいこうよ。
こわいのは、最初だけなの!」
「俺が、レベル二になったら、
絶対――絶対いくから!
俺、うそつかないから!」
「わかったナノ。
いまの録音したから」
カチッ。
『俺がレベル二になったら、
絶対――絶対いくから!
俺、うそつかないから!
ウヒーーッ』
「おい!
変な声が、入ってんじゃねえか!」
「わたしが窓際にいるから。
屋外の声が、入っただけなの――
はやく、レベルをあげて、
とっとと、冒険者協会へいこうよ」
俺は、金を全額、カウンターにあずけ。
宿を出て、町の外へむかって、歩きだした。
「『一番クソザコな、モンスター』の居場所は、わかったか?」
「ボイコット町の郊外にいる。
『ダサねずみ』っていう、
モンスターが弱いらしいなの」
「もよりか。
それにしても、すげー悪意のある町の名前だな。
誰がつけたんだか……」
俺たちは、郊外へむかって歩いていく。
やがて、郊外に到着した。
フェリリは手をひらにし、
眉にそえて、首ごとふり、まわりをみまわした。
「あっ、ネズちゃんいた。
トップクラスに弱いらしいよ。
『もっと弱いのいるよ』って、主張する人もいるけど。
町の近くにいて、みんなが倒していくことから、
印象の強い、ザコモンスターらしいナノ」
巣をおもわせる、洞穴のちかくに、
巨大な、ねずみのモンスターがいた。
「巻物で調べるナノ!
『ダサねずみ』おもに、二足歩行で、
立ったときの高さは、一メートル前後。
歩く早さは、人の歩行の半分くらい。
前歯がでていて、前歯のよごれを、つねに気にしている。
自分の舌がつく、内側の歯、ばかりを気にしてみがき、
汚れている外側は、みがかない。
メスは、前歯がきれいな、オスが好みなのだが、
オスはいっこうに、外側はみがかない。
内面ばっかりみがき、外面をみがかないオスをみて、
だれかが、ダサねずみと名づけた。だってナノ……」
「それ戦いに、
あまり、必要のないデータじゃね……?」
言うが、はやいか、俺は剣を抜きはらった――。
銀の光線が、なびくように、ねずみを切りつける。
敵も応戦。
ダサねずみは、ほそくて、短い手をうごかすが、
攻撃がおそいし、
相手のリーチが短すぎて、
あたる気がしない。
「ダサねずみ LV三
HP六五〇 BP三五〇 だってナノ」
「ん?
それ、どうやって、調べたんだ?」
俺は、フェリリの方を、見ないできく。
「これを使ったナノ。
生命力を使わなくても、
人やモンスターの、簡単なデータなら、
見ることができるナノ」
俺は、フェリリの方を、ちらっとみる。
箱に入っていた、電卓のような、機器をつかっている。
「俺のステータスは?」
「ヤキソバ LV一
HP三一〇 BP一二〇 SP八〇 MP六五
だってナノ。
ダメージは七、八、七、九」
「ぜんぜん、きいてねえな。
それに、切りつけてんのに、
血もほとんど出ねえ……」
「ヤキソバも、攻撃をうけても。
血は、ほとんど出ないし、
あまり、痛くもないナノ」
「……マジかよ」
「ヤキソバの体は、
もう、元の世界の体じゃないの。
体の一部が、取れるということも、ないナノ」
「いろんな意味で、怖いことをいうなよ……」
そのとき、軽い音がひびいた。
黒いマントの上から、
敵の攻撃が、かすったのだ。
だけど、かるく当たった程度だし、
マント自体も、スレたあとが、付いただけだった。
「当たっちまった……
ノーダメージで、勝ちたかったのによ」
俺は続けて、敵を切りつける――。
「残りHPは一四〇なの!」
「おっ。
もう、そんなに、削ったのか?」
「違うよ。
さっき、ヤキソバが、うけたダメージが、一七〇ダメージ。
あと、ヤキソバのHPは、一四〇」
「は?」
俺は、理解が、おいつかなかった。
「なんで、かすっただけで、
そんなに、ダメージをうけるんだよ!」
剣を使って、ねずみをけん制し、
斬りつけながら、きく。
「ガイドブックによると、
この世界のダメージは、ヤキソバのいた世界とは違って。
肉体の強さとは、あまり関係ないみたいナノ。
BPによって、決まるみたいだよ」
「BP?」
俺は、戦いながらきく。
「BP。
攻撃力でもあるし、防御力でもある。
BPが高ければ、攻撃力が高いし、
防御力も高いって、書いてあるナノ」
「……マジかよ!」
さきに、この世界のルールを、把握すべきだったか……
「そうだ!
HPを回復する手段は?
どうしたらいい……?」
「いま、もってくるなの!」
フェリリは、アイテムボックスから、
緑の箱を取りだし、中身の草をもってきた。
「薬草なの!」
俺は、それを左手で受けとり、
くちへいれる。
「に、にげえ……!」
「どんどん、食べるナノ!」
「くそ苦くて、いちどに、くえねえよ……!」
苦いうえに、のどが、拒否感をおぼえて、
飲みこめねえ。
俺は、右手の剣で、相手を攻撃しつつ、
後退しながら、左手で、薬草をたべる。
「『味がダメな人は、調味料をかけて、食べるといい』
って書いてあるナノ」
フェリリは、ガイドブックをみながら、
しゃべりつづける――、
「なんだよそれ!
そんな、時間なんて、ねえよ!」
「HPが一〇〇ポイント回復したナノ。
あと、ヤキソバのHPは、二四〇なの!」
「さっきの、敵からの被ダメージは、
一七〇だから、よゆうが、できたな」
「ヤキソバ、後ろナノ!」
俺は後ろをふり返った――
そこには、俺の背丈ていどの、高さの、
洞窟の入り口が、せまっていた。
「やべえ!
薬草に、気をとられ過ぎた」
こいつのホームグラウンドであろう洞窟に、はいったら、
逃げ場がねえ――洞窟の入り口の左右は、
俺の胸くらいの坂になっている。
ここを登るしかねえか。
ねずみは、もう目の前だ、時間がねえ。
俺は剣を左手に持ちかえると、
洞窟を背に、右手側の坂、その最上部に、右手をついた。
坂の、真ん中ふきんに、右足をかけると、足に力をいれる。
すると、土でできた、坂の表面はくずれ、
俺は、足をすべらせて、坂にもたれかかる
そこに、興奮して、口をあけた、
ねずみの左前脚が、おそいかかる――。
「――危ないナノ!」
俺の近くに、飛び込んできたフェリリが、
ねずみに、なにかをなげつけた。
みると、ねずみは、なにかを噛んでいる。
俺は、そのすきに、坂をかけあがり、
敵の背後に、まわりこんで、右手に持ちかえた剣で、斬りつける。
敵が、こちらに、むきなおるが、
両の前脚を、自分の口につっこんで、何かをしている――。
「お菓子を、くちの中へ、投げつけたナノ!
前歯を、みがいているうちに、攻撃するナノ!」
「おう!
サンクス!
あと、相手のHPは、どのくらいだ……?」
「二一〇なの!」
「よし、このままなら、勝てる……」
逃げる気は、なかった。
逃げたら、せっかくここまで、HPを削ったのが、
全部、無駄になるからだ。
敵を斬りつけつづけていると、
きゅうに、俺の右手が、黄色に光る――。
「……なんだ?」
「いま、調べるナノ!」
もうちょい。
もうちょいだ。
たぶん、あと十回も、ないだろう。
俺は、剣をふりおろす――。
すると、ねずみの、ふった前脚とぶつかった。
にぶい音がひびき、電気のような発光。
「ヤキソバが、一五〇ダメージ。
うけたナノ!
残り、HP九〇!」
「なんでだよ!」
「『敵の攻撃』と『自分の攻撃』が、かち合うと
たがいに、ダメージを受けるナノ!」
マジかよ!
これじゃ、リーチが長いからって、
安全圏って訳でも、ないんじゃねえか……
「お菓子は、もうないのか?」
「もうないナノ!」
俺はさがりながら、ふところから、薬草を取りだそうとした
が、あせりから、足元の、大きめな石に、
けつまずいてしまう
尻もちをつく俺。
そこへ、敵がおおいかぶさる――。
「やべえ!」
「ヤキソバ!
分かったよ。
光ってる手は『技覚醒』なの!
なにか、デタラメに、技名をいうなの!」
「じゅ、十文字切り……!」
右手の光は、剣をつたい、全体にひろがると
剣と右手は、勝手にうごき
むかって、敵の腹部の、左から右、
頭部の、上から下へ、
閃光が、すばやく走り、光は十字となり、
やがて、ほとばしるように、消えた……
「ヤキソバのBP六二〇!
ダメージ、一六六! 一八〇なの!」
「な、なるほど……
技をつかってる間は、BPがあがるのか……」
俺は、倒れるダサねずみを、見おろしながら、
冷や汗をたらし、言うのだった――。