第三十七話 VS棒っすトロールその3
「ぼうなげ キャンセルスキル
BP+零 五レンジ 棒をおとす なの」
まともに、ダメージをあたえられるのは、マヤさんだけなんだ。
はやく、彼女と俺の『活動不能状態』を回復させないと……
俺はすわったまま、せなかの箱を開けはじめた。
「活動不能、回復薬……これだ!」
俺が見つけたとたん、箱に大きな影がかかる。
きゅうに、俺の体は浮き上がった。
服にしめつけられて苦しい。
ふり返ると、それはトロールだった。
トロールが、俺の体をもち上げて……やべえ!
トロールは、つかんだ衣服ごと、俺の体を引っぱって投げた。
衣服が引きちぎれそうだ――。
風の音とともに、俺の体は、樹木に叩きつけられた。
「いってーな」
「ヤキソバさん!」
「ヤキソバ殿、だいじょうぶか!」
「つまみ投げ
BP+零 半レンジ ノックバック、自由方向に四レンジ なの」
うめいて片目をひらく。
遠くから、俺を心配そうにみる、テッシちゃんとカゲヤマさんがみえた。
トロールは?
トロールの方をみると、ヤツは箱のところにいる。
なんだ?
トロールは箱のうえで仁王立ちだ。
「こやつ、箱を守るつもりか……」
「大丈夫だよ!。わたしが魔法で、箱ごと燃やしちゃうから」
「マジックはHPがゼロのとき、つまり『活動不能状態』だと使えないんですよ!」遠くにいる俺は、マヤさんにむかってさけぶ。
「そうなのー?」
「っていうか、箱は燃やさないでください」
「大丈夫かのう、ヤキソバ殿」カゲヤマさんが、心配そうに走りよってきた。「しかし、箱を気にしてる場合じゃないかもしれないのう……ヤキソバ殿」
「そういえば、HPがゼロのときに攻撃をうけると、生命力が減るんじゃなかったっけ?」
「しらべるナノ」
フェリリが飛んでくる。
「ヤキソバ LP 六五/一三〇 なの」
「あと一撃で、俺、『ロスト』じゃないか!
ロストすると、復活できないんだろ?」
「ヤキソバ殿は下がっておるのじゃ。あとはわしと、テッシ殿で――『活動不能回復薬』を回収するのじゃ」
にらみ合う、テッシちゃんとトロール。
「――燃えさからんことを! 詠唱が終わったよー」
えっ。
俺とカゲヤマさん、テッシちゃんは、マヤさんのほうをみる。
ちゃんと彼女は立っている。
「ヤキソバが投げられているときに、
わたしが『活動不能かいふく薬』を回収しといたナノ」
おお、ナイス。
「よーし。いくよー!」
「まずい。俺の箱が――」
「わしにまかせるのじゃ!」
カゲヤマは、トロールの足もとの箱へむかって、走りだす。
「箱ごとくたばれ! パイロフレイム!」
炎は地面を左右にはねながら、トロールをおそう。
トロールは、マヤさんにむかって、木のぼうを投げつける。
カゲヤマは、トロールの足もとにある、箱へむかって走る。
風が吹く。
俺は右手をかざし、目をつむった。
「いったー」
シリもちをついていたマヤさんは、そう言って立ち上がる。
先にトロールを倒していたから、ダメージをうけなかったのか?
「ヤキソバ殿。だいじょうぶじゃ」
箱をかざすカゲヤマ。
「カゲヤマさん。ありがとうございます」
箱はぶじだったか。
よかった。
トロール LV六五 HP 〇/九〇〇〇 BP五〇〇〇
ヤキソバ LV一三 HP 〇/三〇三〇 BP二〇三〇
テッシ LV一三 HP一七一二/二六四〇 BP一九七〇
カゲヤマ LV一四 HP三〇〇〇/三〇〇〇 BP二〇〇〇
マヤ LV 二 HP 一/ 四六〇 BP 一八〇
ふう。勝ったか。
「大勝利いいぃぃぃ!!」マヤさんがはしゃぐ。
「危なかったのう」
「そうデスね……ヒヤヒヤでした……」
俺はほっとした。
「もうおそいから、帰りましょう。空も暗いですよ」
「そうじゃのう」
俺たちは『活動不能』とHPを回復させて、町に帰ることにした。
カンテラに火をつける。
「せめてつぎは、もうちょっと弱いやつにしましょう――あと、『活動不能かいふく薬』をもっと持っていきましょう」
「そうデスね――その方が安心です」
ボイコット町が見えてきた。
「あー、やっと帰れるな」俺は、両手を頭のうしろに組んでいう。
「今日はくたびれましたデス――ん? あれなんですか?」
テッシちゃんが指さす方向に、黒い影が見えた。
「ガーゴイルじゃ!」
ガーゴイルは、真っすぐ、こちらに向いたまま――俺たちとボイコット町のあいだに着地した。
「カンテラ使ってるだろ! なんでだよ!」
「まずいのじゃ……こいつはたしか、先刻のトロールくらい強いんじゃ……」




