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第三話 初めての異世界、準備編 4月1日 平原

 目の前は青空。

 身体をおこすと、地平線がみえる。

 周りは草原。


「右も左もわからねえな……

 妹たちを探すためにも、とりあえず町にいきたいが……」


 どこへ行けばいいか、わからない。

 しかし、それは他の冒険者も、おなじだったはず……

 いや、彼らは記憶すらなかったはずだ。


「これでなんとかしろってことか……」


 体のうえに、四角い箱がおいてある。

 箱は、自分の体ほどの大きさで、ヒモで巻いてあった。

 俺は箱をあける。


 箱の中は、ごちゃごちゃと、物がつめこんであった。

 雑貨のうえには、冒険ガイドブックと、書いてある冊子。


「普段は、説明書はよまないが……」


 不安だし、

 そういっては、いられない、

 読むか。


『こんにちは。まず、気候によってはさむいので、マントをはおりましょう』


 きゅうに、寒くなるかもしれん。

 俺はとりあえず、

 黒色のマントをはおった。


『モンスターが怖い人は、

 モンスターよけの、お香を、焚くことができます。

 世界を救うのには、モンスターをたおすのが、コツです』

 ※お香を焚いていても、まれに、

 強力で、危険なモンスターが、出現することがあります


「まじで?

 野生動物とかいんの?」


 周りを見まわすと、遠目に、

 俺の胸くらいの、身長の、ネズミがあるいている。


「でけえ……あれか?」


 念のために、モンスターよけをすることにするか。

 いきなりきて、パニックになったら、こまるからな。

 すぐに、効果がでるとは、かぎらないし。

 俺はランタンをつける。

 周囲に、もやがたちこみ、だんだんと、におってきた。


「次はーっと」


『つぎは、地図のみかたです。

 地図は、水平におきましょう。

 球をおき。止まったところが、現在地です』


 俺は、支持どおりに、こなす。

 球が止まり、現在地がわかる。


「ここか……」


 しかし、地図にかいてある文字が、

 読めねえな……


『ここで質問があります。

 下に、記載されてる文字は、読めますか……?』


 ミミズが、のたうっているみたいな、

 文字が書いてある。


「……読めねえな」


『読めなかった人は、

 同封されている、テキストBをみてください』


「これAだったのかよ」


 俺はテキストBを読む。


『あなたにひとつ、残念なお知らせがあります。

 あなたは、記憶を受け継いだ人ですね』


「……お、おう、

 そうだけど……なんだ……?」


『あなたは、自力で学習しないことには、

 この世界の住人と、話すことも、

 この世界の文字を読むこともできません』


 ――しばらくの間、

 俺は脱力と絶望で、ぼうぜんとしていた……


「これか……転生の部屋で言っていた、

 クレームの主因は……

 外国語が、にがてな俺に、どうしろってんだ……」


『前世語と異世界語。

 両方に、対応してある書物が、入っていますので、

 それで、勉強しましょう』


「この、ぶ厚い書物か……

 そんなので、簡単に覚えられたら、就職してたわ。

 くっそー、どうすんだよこれ……」


 俺はアタマを掻く。


「お金みたいなものがあるから、

 町へ着けば、買い物くらいは、身ぶり手ぶりで、なんとかして、

 しばらくは、平気かもしれんが、路銀がつきるとやべえ……」


 ふと、灰色の紙が、目にとまる――。

 みると、テキストCと、

 つづってある。


「……ん?」


『これは、記憶をひきつぎ、

 言語上達に、自信のない人むけの、テキストです』


「おっ!」


『まず、この世界はいま、

 みぞうの危機に、さらされており――』


「いいから!

 そういうのいいから!」


 俺はページをすっとばした。


『あなたの力が、必要なのは、

 おおかり、いただけたでしょうか』


 ――俺は二十ページほど、とばした。


『あなたの言語習得の、先生となる人を、同梱しました』


「同梱?

 まさか、これか?」


 俺は人形の入った、箱を取りだした。

 なかには、着物をきて、

 ヒザをかかえ、目をとじた、人間が入っている。

 大きさは、立って三十センチ前後くらいか。

 箱は、透明感のある材質で、そこまで、重くもない。


 「――あけてみるか……」


 フタを開けると、ふたと、なかの人が、

 上空へ、すっとんでいった。

 うけ止めようと、構えた――が。


 いがいにも、小人は空中で、とどまりつづけた。


「はじめましてナノ!」


 小人が、笑顔でしゃべる。


「はじめまして」


 俺は会釈した。

 小人には、四枚の羽がはえている。

 これは、いわゆる妖精か……

 妖精は、左右にふたつ、お団子をつけた、ショートヘアー。

 お団子から、髪がたれ、花がらの和服で、

 したは、スカート状になっている。


 「ナノっ! いたいナノ」


 妖精はふってきたフタで、頭をぶつけ、頭をさすっている。

 これが先生か……

 こんな語尾の人に、

 異世界語を教わっても、大丈夫かな……


「なにか、ごようはあるナノ?」


 妖精は、羽をバタつかせる。

 どうするか……

 とりあえずは……


「地図の、ここ読めます?」


 指をさす俺。



「ボイコット町って、書いてあるよ」


「……どうもありがとうございます。

 自分これから、近くの町に、いこうと思うんですけど……

 方角とか、わかります……?」


「……分からないけど、

 これに、コンパスと、おなじ意味のことばが、

 書いてあるナノ。これで、分かるんじゃないかな……?」


 妖精は『台座つきの球状の物体』をもってきた。


「この物体の中にある

 『赤い矢印が、地図に書かれている、赤い方向とおなじ』

 『青い矢印が、じぶんの、真上方向』

 『黄色い矢印が、最短距離の、モンスターがいる方向』ナノ」


 妖精は、ガイドブックを読みながらいった。


 中心の一点から、三色の矢印は、

 べつの理由で、ほうこうを指し示しているのか。

 黄色の矢印で、モンスターに注意しないとな……

 おとなしい、野生動物みたいのばっか、

 とかなら、いいんだけどな……


「あ、ありがとうごさいます」

「どういたしましてナノ」

「自分これから、

 このボイコット町に行くんですが……

 一緒にきます……?」

「いくナノ」


 というより、来てもらわないと、こまるというか……

 荷物はかたづけ、箱はヒモで、背おえるようにした。

 町のある方向へ、歩きはじめる俺。

 妖精も、そのあとをおう。

 俺と妖精は、しばらく、

 沈黙したまま、歩きつづけた。

 ……なんだろうこれは……

 きまずい。

 俺から、話しかけることにするか……


「あらためて、はじめまして。

 自分は、ヤキソバといいます」

「はじめまして。

 わたしは、フェリリなの」

「フェアリリさんは、

 どこから、きたんですか……?」

「フェリリなの」

「あ、すみません。

 えっと、フェアリーから『ア』が、ぬけて

 『リ』が、二個かな?」

「そうナノ」


 なるほど。


「えーっと……。

 フェリリさんって、独特の格好していますよね?

 俺のいた、前世の国の文化みたいな……?」

「これは趣味なの」

「ヘー。そうなんですか。いい趣味をしていますね」

「――勘違いしないでほしいなの。これは、ヤキソバの趣味ナノ」

「えっ、俺の趣味? それってどういう――」

「わたしは、ヤキソバの潜在意識をスキャンして、

 ヤキソバが好感をもつような、

 容姿や服装で、つくられた、デザインフェアリーなの……」

「それって、マジ……? 

 俺に、そんな隠された趣味が!」


 ――っていうか、勝手にしらべんなし……!

 フェリリをながめたが。


「どうも、信じられんな……」

「泣いていいナノ……」

「いや。泣きはしねーけど……」

「本当に泣きたいのは、わたしナノ……」

「なんかすみません、ホント――

 だけど、妖精道てきに、

 デザインフェアリーって、問題ないんでしょうか……?」

「そのへんの事情は、しらないナノ」

「そっかー。せんさいな問題ですしね……」

「たんに、生まれたばっかで、しらないだけなの」

「でも。話していて。

 結構、この世界に、詳しそうですけど……?」

「情報として、あるていど、

 最初から、頭に入ってるだけナノ。

 教師があんまり、ものを知らないと、支障あるからね」

「……そうだったのかー」


 かわいそうに……

 俺がかわいがって、やらんとな……


「話かわるけど。

 なんで、語尾に、ナノってついてんの……?」

「話かわってないナノ」

「えっ」

「それは、わたしが、デザインフェアリーだからナノ」

「やっぱり、俺っちの、隠された趣味なのか?」

「気色がわるいことに、そうナノ……」

「そういう、いい方は、やめてください!

 俺の潜在意識が、かわいそうです……!」


 話しながら、歩きつづける。

 地平線といっても、

 俺の背の高さだと、五キロ程度か?

 もっとも、それは、この世界が星のような形状で。

 地球くらいの、大きさでの話なのだが……


「なのって、いってみてくれ」

「なのナノ!」

「なのなのって、いってみてくれ」

「なのなのナノ!」

「なのっていってから、

 一秒間あいだを開けて、

 『なの』っていってみてくれ」

「なのナノ、なのナノ!」

「もしかして、わざといってるのか……?」

「ナノ?」

「もしかして、ナノって付けないと、

 しゃべれないとか、なのか……?」

「しゃべれるよー」

「しゃべれんのかよ!」


 しばらくすると、

 建物の上部が、地平線から、

 とび出て、みえてきた。


「あれがボイコット町か……

 ボイコットという言葉は、翻訳すると、であって

 異世界語では、荘厳な理由で、

 つけられた名に、ちがいない……!」

「あの町は、モンスターと戦うのを

 あきらめた人たちが、たむろしてる、町だってよ」


 なんだよ。


「……そうなのか――ってか、

 そんなことまで、知ってるんですね。

 さっき生まれた、ばっかなのに……」


 俺がふり返ると、

 フェリリは、巻物をひろげている。


「このアイテムをつかえば、

 生命力を消費することで、

 この世界の情報が、手にはいるナノ」


「マジかよ。便利だな……」

「このアイテムは、わたしの生命力の問題で、

 一日の使用回数に、制限があるけどね」

「……それって。

 やべーんじゃねーの……?」

「時間で回復するから、問題ないナノ」


 なにか分かったような、

 分からないような……

 しかし、本人が平気だというのだから、平気なのだろう……

 しばらくすると、

 ボイコット町が、はっきりと見えてきた。

 高いかべに、おおわれ、

 そのうえに、カラフルな建物が、とび出ている。

 なにか、おもちゃのような、印象をうける。


「ここから入るみたいだな」

「おいてあった、小冊子をもってきたの」

「おお、読んでくれ」

「えーっと。入場にはお金、千二百クリスタルが必要です。

 飛行ユニットは原則、

 許可されている場所をのぞき、飛行禁止です。

 飛行を制限する器具や、魔法をつかってください。


 ヤキソバの世界の単位でいう。

 やくニキロ以下は、

 衝撃を吸収する魔法の適応後は、制限なしナノ」


 魔法とか、書いてあるし。

 まわりに、亜人らしき人もみえるが、おどろかない。

 フェリリが、出てきたあたりで、さとってしまった……


 ガイドブックを見る。

 この世界は、武器でモンスターを倒すのが重要、

 と書いてあるな……

 最初のころは、ゲーム大会で、ロボットを遠隔操作できて――

 そのロボで、モンスターと戦い、世界を救うとか……

 そういう可能性も、信じていたがな……

 正直いって、リアルバトルは、したくねえな……


「今のうちに金を用意しとくか。

 フェリリも持っていてくれ。

 俺の金が盗難にあったとき、

 おまえのもっている、金がたよりだ」


 そういって、フェリリに、

 紙幣を五十枚ほど、紙に包んで、もたせる。


「わかった。

 お菓子をたくさん買うナノ」

「ほどほどにな」


 しばらくして、俺たちの番になる。

 フェリリが全部やってくれた。

 俺は門に、足をふみいれる。

 門は、高さが5メートル。

 奥行きが、十メートルあって、

 レンガのような物を、層状につまれ、

 地面も、同様につくられている。

 門内の通路では、

 兵士らしき人が、目を光らせていた。

 門を出ると、すぐに、商店がつらなり、

 店主が大声で、客を誘致している。


「たべものを買ってくるナノ」


 たべものを盛ってもらい、

 フェリリは、すぐ帰ってくる。


「俺にも少しくれ」

「いやナノ!

 これはわたしのナノ!」


 いや、もともとは、

 俺の金なんだけどな……別にいいけど……


「この辺に、宿屋あるか?」

「探してみるの」


 フェリリは巻物で、探しはじめる。


「あるナノ、そこの角を曲がってすぐ、

 この辺の、立地の相場からすると、安いなの」

「宿は、はやめに、確保しとくか。

 のちのちに、きて、満室だとこまる」


 モンスターと、戦うことになったら、

 宿は、町の入り口に、近いほうがいい。

 俺は角を曲がると、小奇麗ではあるが、派手さもない。

 三階建ての宿へふみいった。

 正面に、受付らしき、チリチリ頭の男性が、

 カウンターに、腰かけている――


「……よし!

 フェリリ、受付を済ませてくれ!」

「分かったナノ!」


 フェリリは、俺に背をむけ、飛んでいく――

 だんだん、フェリリが主人で、

 俺が管理されてる側な、気がしてきた……

 ――なんとなく間違ってないか……?


「ま、まて、やっぱり俺もいく……」


 俺が主人側なんだ……

 ここは、威厳をみせなければ……

 フェリリは、なにやら、受付と話しあっている。

 俺が近づくと、こちらにふりかえり――

 いやそうな顔で、俺に、自分の食べ残しの、皿をさしだした。


「おなかが、いっぱいになっちゃって、

 苦しくなったの……

 もったいないから。

 のこりは、ヤキソバに食べて欲しいナノ」


 俺は胸をなでおろす……

 よかった――

 一瞬、ついに、俺のあつかいが、

 ペットのそれに、なったのかと思った……


「一日五千クリスタル。

 一カ月だと、二万クリスタルらしいなの」

「一カ月でたのむ」

「わかったナノ」


 こんなの、長期間とまるなら、

 絶対に、一カ月のが、とくだろう――


「二階の二一五号室に決まったの。

 わたしが代理人として、手続きをしておくから。

 ヤキソバは、荷物をもって、部屋で、待っててほしいナノ」


 ムシャムシャ。


「これクソうめえ!」

「ちゃんと、話をきくナノ!」


 時計をみると、針が四本ある。

 部屋に入ると、安心して、気がぬけ、ベッドへ倒れこんだ――

 部屋には家具があるが、

 デザインは、前世界と、そう変わらない。


「部屋の鍵と宿泊証は、

 無くさないように、だって、夜の零時になったら、

 正面の扉は閉めるから、裏口から入って欲しい、

 っていってたよ。

 それと、三階は商店があるから、って話なの」

「宿屋の中に店があるのか……

 便利だな……」

「それと、お金や貴重品は、

 受付に、あずけておくと、安心だってよ」

「……出発前に、あずけておくか」

「どこかへ、行くナノ……?」


 思ったよりも、トントン拍子に、すすむものだな。

 衣食住の、めども立ったし、

 気がすすまないが、なんとかなるだろ。


「寝るところも確保したし、せっかくだ。

 この辺の、ザコモンスターを、倒しにいこうぜ」

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