第二十七話 VSスケルトン
「ぬけがけはズルいデス」
「すべり下りるんじゃなくて。
直接、とびこめば、間にあったとおもうけどね……」
俺は、テッシちゃんへ、ふりかえり言う。
いや、あの虫モンスターに飛びこむのは、勇気がいるか……
クレーターの中心。
さっきまで、働きアリ地獄がいた場所に、穴があいている。
そこに、俺が二枚おろしで攻撃したツノ。
三〇センチくらいだろうか。
それが、穴のそこに、さかむきに突きささっている。
「……結晶化したツノは、とらないナノ?」
「かえりに取るよ。ここ通るだろ?」
「だれかに取られちゃうかも、しれないナノよ……?」
「いや、とらんとらん」
「まっとくれー」
カゲヤマさんが下りてきた。
俺たちは、すぐ近くの、洞窟の入り口へと歩きだす。
「中は、わりと明るいな」洞窟の入り口から、のぞきこみ、俺はいう。
なかは、カベで、むき出しになっている鉱石が、発光している。
カンテラがないと、よく見えないが。
まっ暗闇という、わけでもない。
「さあ。いきましょうデス」
テッシちゃんが、先頭を、ずかずかと進む。
さっき。
ぬけがけを、されたからか……
四人で洞窟をすすむと、カベに変なものを発見する。
「……なんだこれ……?」
「なんじゃ。なんじゃ」カゲヤマさんが、小走りでよってくる。
「……これは剣じゃな」
コシくらいの高さ。
銀色の刀身の先が、カベから飛び出ているようだ。
剣のまわりの土は、やわらかくなっている。
「……抜いてみるかのう」
カゲヤマは、手を切らないように、剣をにぎる。
そして、力を入れて、引っぱりはじめた。
その剣いるか?
中古ショップとかに、売る気なのかな?
「よっこらしょ」
……そのかけ声は、いかがなものか……
そのとき、剣のまわりのカベがくずれ。
剣が突きでてくる。
「痛っ」
剣に腹部をさされて、
カゲヤマさんが声をあげる。
ガイコツだ。
剣と盾とかぶとを身につけた、『ガイコツ』が目のまえにいる。
飛びでた剣は、こいつのおとりだったのか。
「スケルトン・壁際族
LV三五 HP四〇〇〇 BP三〇〇〇
おとりを使い、人間の注意をひく。
そこへ、だれかが近づくと、攻撃をしかけてくる。
人間や、えものが来るまで、ひたすら待ちつづける。
ヒマなモンスターだ ナノ」
ステータスの表示をみる。
一二〇五ダメージ?
やけにダメージが大きいな。
ヤキソバ LV一一 HP二六一〇/二六一〇 BP一二一〇
テッシ LV一一 HP二二八〇/二二八〇 BP 九九〇
カゲヤマ LV一二 HP二六〇〇/一三九五 BP一二〇〇
そうか、装備だ。
武器を抜いていないから、BPが下がってるのか。
装備を……剣を抜かねえと。
俺はシルバーソードを抜きはらい、かまえる。
しかし。
スケルトンは、カゲヤマさんへむかって、武器をふり上げる。
カゲヤマさんは、俺の方をチラリとみて、「テッシ殿! ブレイブヒールを頼むのじゃ!」カゲヤマさんの声が反響する。
スケルトンが、武器をふり下ろす。
俺は、カゲヤマさんの前に立ち塞り、「二枚おろし!」発動、しかし、技が発動しない。
敵と俺の武器があたり、雷光がほとばしる。
そうか。
俺は武器をぬいた。
つまり、ブランクベースの、ひとつ目を使ったんだ。
つづけて、通常の技は発動しないんだ。
敵の攻撃をうけて、連携に巻きこまれたから、
短時間のうちに、ふたつの技を使うには、連携できる組み合わせが必要
剣を抜く行動が、ブランクベースを使用する以上、
キャンセルスキルしか使えない。
……ということか。
「ブランクキャンセル。ブレイブヒール!」
「BP+零 次の攻防の終了時まで、
(今回と次、合計二攻防の間)、自分のBP+八〇〇、対象のHP回復」
すでに、武器を抜いていたテッシちゃんが、
ふたつ目のブランクベースを使い、回復を発動する。
雷光がはじけ、俺の攻撃ははじかれた。
そして、俺に八〇二ダメージ。
ブレイブヒールは、テッシの手元から飛んでいき、俺を回復させる。
俺は、HPが五〇六回復――対象が俺?
それをみて、カゲヤマさんは武器を取りだす。
日本刀か。
「ごめんなさいデス。
カゲヤマさんを回復させようと思ってたのに、
間違ってしまったデス」
「回復は『使ったあとに、対象の名前を言う』と、誤射を防げるんじゃ」
「分かりましたデス」
そうか、ダメージとおなじように、BPが多いほど回復量も減る。
講義のときに聞いたな。
カゲヤマさんは、武器を抜くまえに、回復を受けたかったんだ。
カゲヤマさんは、テッシちゃんの回復が、失敗したのをみて。
つぎのターンに、そなえるために、今回の連携中に、武器を抜いた。
「ブランクキャンセル、治癒の護符じゃ」
護符は、カゲヤマさんの左手から、自分の右腕にはられた。
カゲヤマさんは、二六二回復。
スケルトン LV三五 HP四〇〇〇/四〇〇〇 BP三〇〇〇
ヤキソバ LV一一 HP二三一四/二六一〇 BP一八一〇
テッシ LV一一 HP二二八〇/二二八〇 BP一七九〇
カゲヤマ LV一二 HP一六五七/二六〇〇 BP一七〇〇
空気が変わったのを感じる。
連携が、終わったのか。
「本当にごめんなさいデス」
「いや、いいんじゃ。
もともと、わしが失敗して、引っかかったトラップじゃし。
テッシ殿は、あまり気にせんでくれ」
たしかにカゲヤマさんのマヌケではある。
「ヤキソバ殿。つぎのターンはどうするんじゃ……?」後ろから、カゲヤマさんの声がする。
「……俺が決めて、いいんですか?」
「うむ、頼むのじゃ」
「お願いしますデス」
うしろをふり返ると、ふたりはうなずく。
「……じゃあ。
兄貴戦の戦法で行きましょう。
俺がカベ役をやります。
ふたりは援護をおねがいします」
「わかりましたデス」
「了解じゃ」
スケルトンは、にじり寄ってくる。
くるか?
こない。
相手はピクリと動く。
くるか?
こない。
……ガマン強いなこいつ……
しかし、スケルトンはついに動く。
突っこんでくるスケルトン。
俺はかまえる。
「二枚おろし!」
アゴをがくがくと鳴らし、剣をふり下ろすスケルトン。
スケルトンと俺の剣が激突し、雷光がほとばしる。
「ちょい切り 半連携 BP+零 なの」
スケルトンのスキルか。
「ブランクキャンセル、減退の呪符じゃ」
札がスケルトンへむかってく。
それをスケルトンは盾でふせぐ。
「盾そらし 半連携 防御スキル
BP+零 追加効果を無効 なの」
えっ。
スキルを一回の攻防中で二回つかったぞ。
「ブランクキャンセル、ブレイブヒール!
カゲヤマさんデス」
カゲヤマは 六二二回復。
雷光がはじける。
スケルトンに、四〇四ダメージ。
俺に、五〇五ダメージ。
「ブランクキャンセル、治癒の護符」俺は、二二〇回復。
「なで切り!」ヒット。スケルトンに 二〇三ダメージ。
連携がおわり、距離をとる俺たち。
にじり寄る、スケルトン。
「半連携って、二回つかえるんですか?」
「そうじゃ。
左右の手に持ってる装備を、一回ずつ使えるんじゃ。
三回はつかえん」
「なるほど。
ありがとうございます。
でも、それだけみたいですし。
三人のこっちとくらべると、
攻撃の手数は、多くはないみたいですね」
「どうやら、そのようじゃのう。
隠している可能性も、あるのじゃが」
「かこんで、ボコボコにするデス!」
スケルトン HP三三九三/四〇〇〇 BP三〇〇〇
相手のHPは、まだまだあるな。
「さいしょの一撃は引きうけます。
かこみましょう」
うなずく二人。
こっちから、しかけるか。
俺は相手をみて、地面をけり距離をつめる。
「二枚おろし!」
相手の剣がうける。
俺に、四五六ダメージ。
敵に、三八〇ダメージ。
テッシちゃんとカゲヤマさんは確認し、
スケルトンの左右をかこむ。
「ブランクキャンセル、ブレイブヒールです」カゲヤマは、五七〇回復。
「なで切りだ!」
相手の盾がガードする。
やった!
盾使ってくれたぜ!
スケルトンに、二二五ダメージ。
「ブランクキャンセル、減退の呪符じゃ」札が、相手にはりつく。
「ふり下ろしデス!」だが発動しない。
「じゃあ、ブランクキャンセル、ぶったたきです」
一レンジ吹っ飛ぶスケルトン、五七〇ダメージ。
テッシちゃんの、BP二九九〇で攻撃か。
講義のときに、言っていた。
『パワーヒールで回復して、自分のBPを上げつつ攻撃する戦法』か。
自分のところへ、飛んでくるスケルトンを、半身でかわすカゲヤマさん。
カゲヤマさんは、日本刀で通常攻撃。
スケルトンに 一四四ダメージ。
スケルトン HP二〇七四/四〇〇〇 BP三〇〇〇
一三〇〇ほどの、ダメージか。
こんなやりとりを二回くりかえし。
スケルトンを撃退した。
「……ふう……硬かったのう……」
「そうですね……」
「みんな、レベル上がったの。
思ったより、敵のBPが高いね……帰るナノ……?」
みんなは顔を見あわせる。
「……もうちょっと、進みませんデスか……?
夜まで結構、時間あるし。
MPも、もっと使わないと、もったいないデスし」
「いいと思うよ」
俺たちは先へ進むことにした。




