第二十六話 洞窟前
「兄貴も、ダッシュ技をもっていたら、
ヤバかったデスね。
わたしも、新技をおぼえたいデス」
テッシちゃんは、小石をケリとばす。
山なりに飛んだ小石は、岩にあたって落ちる。
「もう覚えてるナノよ」
「……え? そうなんデスか……?」
「LV一〇に、上がったときに、覚えたナノ。
ヤキソバも、覚えているナノ」
ん?
「……みんなのLVはいくつだ?」
「ヤキソバ LV一一
テッシ LV一一
カゲヤマ LV一二 なの」
「もしかして、チンピラを倒したときに、覚えてたんじゃないか?」
「じつは、言いそびれたナノ。ごめんナノ」
「まあいいよ。なに覚えたんだ?」
「テッシちゃんは、
ブレイブヒール キャンセルスキル
BP+零 次の攻防の終了時まで、
(こんかいと、つぎの攻防、合計、二攻防の間)
自分のBP+八〇〇 対象のHP回復
ヤキソバは、
二枚おろし
BP+一〇〇〇 結晶化効果 だってナノ」
「やったデス!
ついに、わたしも、ヒーラーデビューです!」
テッシちゃんは、ガッツポーズだ。
「俺の技の『結晶化効果』って、なんですかね?」
「えーっと。それはじゃのう。
『結晶化効果の技』で攻撃すると、
『相手の、体の一部を結晶化』できるんじゃ。
敵を倒すと、バラバラの黒いほこりへ、変化するじゃろう……?
でも、
結晶化した部分は、のこるんじゃ。
持ちかえって、売ったりとかできるぞ」
フェリリが、知ってるかもしれないと、おもったのだが、
カゲヤマさんが答えた。
「なるほど。
カゲヤマさん、先輩冒険者だけあって、くわしいですね」
カゲヤマさんは、テレて、ホホを触っている。
「ああ、そうじゃった。
ほかにも、言っておかないといけない、
重要なことが、あったんじゃった」
「なんですか?」
「『ブランクキャンセル』のことじゃ。
本当は、路地裏のときに、
言おうと、おもってたんじゃが」
「どんなことですか?」
「各クラスは『ブランクベース』というのを持ってるんじゃ。
フェリリ殿、ふたりの『ブランクベース』を調べてくれんかのう」
「わかったナノ」
フェリリは巻物で、調べはじめた。
「出たナノ。
ふたりとも『ブランクベースはふたつ』なの」
「ありがとうなのじゃ」
「ブランクベースって、なんなんですか……?」
カゲヤマは説明する。
「ブランクベースは、
『スキルを入れられる空のいれもの』のことじゃ。
つまり、ヤキソバ殿とテッシ殿は、ブランクベースという、
『スキルを入れることの出来るいれもの』を
ふたつ持ってるんじゃ。
この『ブランクベース』には、
『ブランクスキル』か
『キャンセルスキル』を入れることができるんじゃ」
「『ブランクスキル』って何ですか?」
俺は、聞きおぼえのない、言葉に対して質問する。
「わしが路地裏で、
『連携中にアイテムを使ったり、
武器を出し入れしたり換えたりするのも、
技の一つとしてカウントされる』と言ったのを憶えてるかのう。
あれじゃ。
つまり、『武器の出し入れ』『アイテムを使う』、
他にも『通常攻撃』などの行動が、
『ブランクスキル』ってわけじゃ。
この『ブランクベース』にはいるものは、
『必ず連携として繋がる』んじゃ。
つまり、ふたりの場合は『ブランクベースがふたつ』、
なので、『通常攻撃』『キャンセルスキル』でもつながるし、
『アイテムを使う』『アイテムを使う』でもつながる。
『武器の出し入れ』『キャンセルスキル』でもオーケーじゃ、
『キャンセルスキル』『ひとつ目とは、べつの名前のキャンセルスキル』が、
主に使うことになるかのう。
しかし、一番最初に『ブランクスキル』や
『キャンセルスキル』ではない技を使うと、
ブランクベースで、技を使わなかったことになって、
この方法では、つなげることが、できなくなるぞ、注意じゃな」
「……なんだか難しいですね」
「そのうちに、なれると思うんじゃが。
つまり、ブランクキャンセルとは、
『ブランクベースを使って、キャンセル技を使いました』ってことじゃ」
「目的地がみえてきたナノ」
先頭を飛んでいたフェリリが言う。
「……みんなは言われた通り、カンテラを持ってきたナノ?」
そういえば、そんなことを言ってたな。
「ちゃんと、持ってきてるぞ」
俺は箱からカンテラを出す。
路地裏の時は、持ってきて、なかったんだよな。
買い物のつもりだったしな。
「持ってきてますデス」
「持ってきとるぞ」
それを見て、フェリリはうなずく。
「あれが、今回の目的地ナノ」
フェリリが指さす先には、洞窟の入り口がある。
平地に五メートルほど、下へとつづく、クレーター状のくぼみ。
そこを、おりたところの右横に、洞窟の入り口がある。
アリ地獄に、引きずり込まれたら、洞窟発見。
ってな構造だ。
「クレーターの中心に、敵がいるじゃねーか」
「働きアリ地獄
LV一〇 BP九〇〇 HP二五〇〇
バレバレのクレーターをつくるモンスター。
あまつさえ、アグレッシブすぎて、
姿が見えているので、モンスターも引っかからない。
このモンスターは、クレーターの中心で、ひたすら待ち、
やがて、餓死してしまう。
しかし、クレーターの中心と、
働きアリ地獄の巣は、つながっていて、
数日もしない内に、後任の働きアリ地獄がやってくるのだ!
とうぜん、後任の働きアリ地獄も、餓死する。
不況はつらい……だってナノ」
「地獄かよ……」
「……モンスターの方が地獄なんデスか?」
「こいつらって、無限復活するんだっけ……
えんえんと、おなじことをやってんのか?
まあ、BPも大したことないし、ちょっくら倒してくるか」
俺は、クレーターに身をのりだす。
「待つのじゃ」
カゲヤマさんが、俺の服をひっぱる。
斜める俺。
「……パーティ組んでないじゃろうが……」
「おっと、そうでした」
「パーティは、戦闘に入ると、組めなくなるぞ。
戦闘中に外れることも、できないんじゃ」
「そうなんですか?」
「周囲の魔源が、変化するとかって話じゃな、
しばらくは、おなじ場所では、解除は無理じゃな。
場所をかえんとな」
「へーデス」
俺、テッシちゃん、カゲヤマさん、
フェリリの四人はパーティを組む。
「それと、魔源クリスタルじゃ」
カゲヤマ以外の三人は、クリスタルをうけとる。
「首にかけたら、服の中に入れておいても、
問題ないようじゃな。
壊されるかもしれんしの」
「了解です」
俺が言うと、うなずくカゲヤマさん。
もうないか?
「よし! 一番のりだ!」
「ずっ、ずるいデス!」
俺は、クレーターへ飛びこむ。
足をつくと、思ったよりすべって、尻もちをつく。
そして、そのまま流される。
眼前に働きアリ地獄。
ヤツは上げた顔をこちらへむける。
「二枚おろし!」
ふりかぶった右手の剣が、
左上から右下へ、引き下ろされる。
「BP+一〇〇〇 なの!」
一八二〇ダメージか。
「……ま、まってくださいデス……」うしろから、声が聞こえる。
「なで切りだ!」俺は追撃する。
「BP+二〇〇 BPマイナス二〇〇 なの」
一〇七五ダメージ。
働きアリ地獄は、黒いホコリとなって消滅する。
「おっ。二枚おろしと、なで切り――。コンボで、つながるじゃねーか!」




