第二十五話 洞窟探検編 8月2日 郊外
八月二日、一陽十六時。
俺は郊外で、熱い日ざしに、うんざりしていた。
まわりは、一面、ふわふわの草におおわれ、
左に、ボイコット町の外壁が、そびえたっている。
俺は、腰くらいの高さの石に、腰かけている。
座標つきの地図をみる。
ここで、いいはずだ。
テッシちゃんとカゲヤマさんも、まもなく来るだろう。
「待ったかのう」カゲヤマとテッシが、ならんで歩いてくる。
「いま来たところです」俺はこたえる。
「移動するナノ」
テッシちゃんは、頭をフラフラさせ、
三人は歩き、ひとりは飛びだす。
「こんかいは、フェリリが、
どこで、モンスター狩りをするか、決めたんだよな?
どこにしたんだ?」
「そうナノ。みんなには詳しいことは、
まだ、ナイショなの」先頭を飛ぶ、フェリリはいう。
少々、不安だ。
「ヤキソバ殿」カゲヤマさんが、俺の背中を二度つつく。
俺は上半身を、左ななめ後ろへ、まげた。
「頼まれていた、まにあわせの武器を、探してきたんじゃが」
「ありがとうございます」
俺は会釈する。カゲヤマさんは、俺へ剣を手渡す。
「ちゃんと、変装して買ったデス」
「わしのせい、なんだから、おごりでよいぞ」
「いや、それはまずいっすよ……」
俺はサイフから、お金を取りだす。
「別にいいんじゃがな」
……値札を見る……十万クリスタル
……マジで……?
これおごるとか言ってたのか……?
テッシちゃんといい、金銭感覚どうなってるんだ……
俺はサイフから、一万クリスタル紙幣を十枚、取りだして渡した。
「あと、これを渡しておくのじゃ」
カゲヤマさんは、首飾りを取りだした。
それには、チェーンの先に、ひし形の透明な宝石がついていた。
宝石は青く光っている。
「綺麗デスね」
「これなんですか?」
「魔源クリスタルじゃ、知らんのか?」
なんだそれ。
「これをつけて敵をたおすと、
このクリスタルへ、経験値の魔源の一部が、吸収される。
これを、魔源で満タンにすると、お金と交換できるんじゃ」
「それマジですか!」
俺は両手で、カゲヤマさんの両肩をつかむ。
カゲヤマさんの顔に、俺の影がかかる。
「ほ、本当じゃ。
これは、五万クリスタルの、ものじゃから、
満タンになると、五万で売れるぞ。
貨幣の単位がクリスタルなのは、
もともとは、これが、いわれなんじゃ」
俺は、カゲヤマさんが、おどろいてるのを見て、われにかえる。
カゲヤマの肩から、手をはなして、深呼吸をする。
金にガツガツしてると、思われてはいけない。
「ふう……びっくりしたのう……」
やった!
これで、貧乏生活ともおさらばだぜ!
「その魔源クリスタルって、
なん個まで、装備できるんですか?
カゲヤマさんは、クリスタルを、なん個、もってきているんですか?
一個いくらで、どこで売ってるんですか?
満タンになったときの、引きかえ所はどこですか?」俺は、カゲヤマさんにたずねる。
「ちょっとまっとくれ……
一度にそんなに聞かれても、こまるのう」
俺を見あげ。
あせる、カゲヤマさんを見て、われにかえる。
カゲヤマさんは、頭をポリポリとかいた。
カチューシャがズレている。
「それに、いま説明する必要はないデスね」テッシちゃんは、手のひらで、クチもとをおさえ、アクビをする。
俺はまた、われを失っていたのか。
前世の貧乏生活が、長かったからな。
図鑑を立ち読みして、食べられる花をおぼえたり。
野草をゆで、食べて、ビタミンを摂取したり。
「で、でも、何個装備ができるかは、重要なんじゃないか?」
俺のクチが、
べつの生き物になったかのようだ。
「何個でも、装備できるけれど、
クリスタルが、魔源を吸収する量が、等分されるんじゃ。
つまり、ひとりで、二個装備した場合、
一個装備のときの、半分しか、
クリスタルへ、補充されないんじゃ」
「じゃあ、フェリリが装備したらいいな」
「ヤキソバ……
みんなの経験値がへっちゃうよ……
それに、そんなことやって、
ひとりだけ、十万クリスタルをもらいたいナノ……?」フェリリが白い目をむける。
「いや、フェリリのクリスタルを換金した分は、とうぜん、三等分するぞ」
「でも、みんなの経験値がへっちゃうナノ」
フェリリは、まわりの顔をみて、反応をみているようだ。
「わたしは、かまいませんデスよー。
フェリリさんも、パーティの一員デスからね」
「わしもいいぞ。なんだか、仲間はずれみたいで、かわいそうだしの」
「みんながいいなら、いいナノけど……
巻物をつかう、生命力が増えるくらいしか、
パーティにメリットがないから、いいのかなー? ナノ」
まだフェリリは、
納得できていないようすだ。
そこで、俺は話題をかえる。
「俺の装備って、どんなのですか?」それを聞くと、カゲヤマはメモをとりだす。
「白銀のシルバーソード
BP+六〇〇 相手を切りつけたときの、ダメージ三〇%アップ
装備スキル 飛びこみ切り
BP+五〇〇 ダッシュ一回、一レンジ じゃな
商人も装備できる、剣系クラスとの、兼用装備じゃ。
中古じゃな。
来月までは、これで間に合わせてくれ」
「わたし、中古は苦手です。
ぜったい、おニューがいいデス」
「わしも苦手じゃな。
でも、これはいい中古じゃぞ。
装備したときに上がるBPの、しも二桁が、ゼロじゃからな。
ここが減ってると、相当、つかわれた証拠だし――。
装備したときに、なんだか、
自分のステータス表示が、気持ちわるいって、言うひともおる」
「なんとなく分かります。
ところで、ダッシュって、なんですか?」
カゲヤマさんは、身ぶり手ぶりで説明を始める。
「技を発動したあと、『ダッシュ』というと、
むいている方向へ、移動できるスキルじゃ。
攻撃技だと、その後に、『スラッシュ』というと、きりつけるぞ。
技の発動後、ダッシュやスラッシュに、
時間制限があるから、注意じゃな。
逡巡しておると、効果をのがすからのう。
果敢さが必要じゃな」
「なかなか、よさそうですね。ありがとうございます」
「そう言われると、悩んだ甲斐があったのう」
カゲヤマさんはテレている。
なるほど。
テッシちゃんの使ってた、ノックバックの対抗技か。




