第二十四話 自室
俺とフェリリのふたりは、
俺の部屋へ、もどってきていた。
イスにすわって、むかいあう。
「テッシちゃんが、たちなおるには、
まだまだ、時間が、ひつような気がするナノ」
ついさっきの問題である、
『カゲヤマさんがパーティに加わるか』
にくらべると、心配はしてない。
時間はあるから、いそいでいないし、
テッシちゃんはけっこう、
タフなところが、あるようにみえるからな。
「カゲヤマさん、
パーティに入ってくれたって、言ってたナノね」
「ほかのパーティにも、
つきあいが、あったようだけど、
うちのパーティだけに、してくれるってよ」
「すごいナノ、どうやったの?」
「カゲヤマさんが、セレクターであることを指摘し、
俺が、セレクターであることを、明かしたんだ。
そして、カゲヤマさんが、おそわれた原因が
セレクターである、可能性があるから、
バレるリスクを勘案し、
ほかのパーティの、関係をたってくれと言った」
「……なんだか、おどしみたいになったナノね」
「そうだな、
カゲヤマさん、ちょっと落ち込んでた……
でも、カゲヤマさんの、安全を考えてのことだ。
ムリして、うちだけに来いなんて、
強制するほど、俺は強引じゃない」
フェリリは考え込んでいる。
「そういえば、きいてなかったナノ」
「……ん? なにがだ?」
「さいしょに、路地裏で、カゲヤマさんをみたとき、
パーティに誘うか聞いたら、入れないって、言ったナノ。
だけど、解析して、
セレクトスキルを、もっていることを言ったら、
ヤキソバってば、気がかわったナノ。
それは、なんでなの?」
「それは、いまフェリリが言ったとおり、
カゲヤマさんが、セレクターだからだよ」
「……セレクトスキルが、めあてなの?」
「ないよりは、あった方が、いいとは、おもってる。
だけど、それは、理由のひとつだな」
「ほかの理由を、聞いていい?」
「理由のひとつは、
俺のセレクトスキルが、バレやすいことにある。
いまだに、不明なテッシちゃん。
あるていどは、隠せそうな、カゲヤマさんはまだしも、
俺のセレクトスキルは、まいど、手がかがやき、
ふだん、つかわない技を、使用しなければならない……
はたからみると、こんな不自然なことはない。
じっさい、カゲヤマさんには、バレていたよ」
「カゲヤマさんには、バレてたナノか……」
「バレたタイミングが、戦闘中なのか、
俺がカゲヤマをセレクターだと、指摘したからなのか、
そこらへんは、判然としないけどな。
どうせ、メンバーにバレるなら、
たがいに、セレクターの方が、自然と、クチ止めになるだろ」
フェリリは、ふむふむと考え込んでいる。
「理由の、もうひとつは、レベルの格差だ」
「レベル格差ナノ?
みんな、おなじくらいのLVだよ?」
「おいおい、それは、いま現在、
このメンバーが、みんなセレクターだからだろ。
セレクターは、LVが上がりやすいのを、忘れたのか?
パーティなんだから、おなじくらいの、
LV帯の人間が、組むのが自然だ。
それで、まい回、固定メンバーで組んでいたとして、
どんどん、LVが、はなされてみろ、
不和の原因になるし、
セレクターであることを、秘密にしてた場合、
バレる可能性もある」
「大体、わかったなの。
ヤキソバは、パーティメンバーの枠を
セレクターだけで、うめたいナノね?」
「……まあ、そういうことになるな」
「これから、どうするナノ?
メンバーに入れるセレクターと、妹をさがすナノ……?」
「そうだな……
でも、そのまえに、
テッシちゃんに、セレクターであることを指摘し、
俺も、セレクターであることを言う」
「え? なんでなの……?
テッシちゃんは、カゲヤマさんとちがって、
パーティから、出て行ったりは、しないとおもうよ。
ヤキソバのセレクトスキルを、気にしていないようなら、
わざわざ、言う必要はないと、おもうの」
「……お前は、テッシちゃんに気に入られてるから、
そう思うんだろう……」
「えっ――」
「俺は、前世でテッシちゃん、
いや、一香ちゃんと妹を、交通事故から助けようとした、
だが、助けきれず、俺をふくめた三人は死んだ。
その妹と、一香ちゃんをおって、
俺はこの世界に転生してきた。
俺にとって、
一香ちゃんの転生であるテッシちゃんは、特別な存在だ。
でも、テッシちゃんはちがう。
テッシちゃんにとって、俺は、たまたま、おなじ講義をうけ、
たまたま、パーティに誘ってくれた、ひとりの人間にすぎない。
テッシちゃんが、ぜったいに、俺たちを見すてないとは思えない」
「それ本当デスか……?」
俺とフェリリは、声のする横方向をみる。
ゆっくりと、ドアがひらき、
そこには、テッシちゃんが立っていた。
「前世で、わたしを助けるために、
事故で亡くなって、転生してきたって、
それ、本当なんデスか……?」
……テッシちゃんいたのか。
べつに、嘘つくようなことじゃないし、
言うしかないよな。
「……本当だよ。
証拠は見せられないと思うけど……」
俺は、テッシちゃんから、目をそらして言った。
「わたし、信じますデス」その声は明るい
えっ。
「――本当に……?」
俺は、テッシちゃんの方をむいていった。
「……わたし、冒険者としては、短い間ですけど……
ヤキソバさんと、なんどか、一緒にたたかってきて、
それで、
なんていうか、信じたいとおもいます。
それに、パーティメンバーとしても、
これからも、いっしょに戦いたいデス」
それだけ?
それだけなのか?
こんな簡単なことだったのか?
いままで、ずっと言えなかったことだし、
内心、どうすれば、信じてもらえるかって、思っていたのに、
こんな、こんな簡単に……
「ヤキソバ、ちょっと泣きそうナノ」
……なんだよ、
べつにいいだろ。
「わしは前世だと、
どうだったんじゃ……?」
部屋の外にいたらしい、カゲヤマさん。
「……すいません、わかりません。
でも、運がよければ、
知ってる人に、会えるかもしれませんね」
カゲヤマさんは心なしか、
あかるい表情になった。
「でも、これで妹さん見つけたら、
ヤキソバの冒険は、終わりナノね」
ん?
「ヤキソバ、よく分からないって顔をしてるね。
だって、妹と、妹の友達を見つけるのが、
ここへ転生した理由なんでしょ?
妹さん見つけたら、
あとは、ほかの冒険者が、世界を救うのを、
ただひたすら、待っているだけの、お仕事なの」
……確かに、そうかもしれない。
「俺の妹って、危険なことに、
首をつっこむタイプだから、
冒険したいって、言いそうだけどね」
「そういうひと、なんデスか……?」
「まあ、だいたいね」
「わしは、パーティに参加するのも、
ここにいる理由の、ひとつじゃから。
なにもしないって、いうのも、こまるんじゃがな。
それに、わしを狙っている、ヤツらもいるし、
きたえとかんとな」
「そうですね」
俺も、自分のレアクラスの装備が買える、
月にいちどのチャンスを、逃がしたこともあるしな。
もし、つぎに、やつらと戦う機会があったら、
きたえて、おかないとな。
「それじゃあ、これからは、
冒険者として活動しながら、
妹さん、さがしかのう」
「カゲヤマさんも、妹さがしを、手伝ってくれるんですか……?」
「パーティメンバーとして、当然じゃろう。
それに、そなた達が、さがしている途中、
わしは、なにをしていれば、いいんじゃ?」
「でも、外へ出ると、やつらに、カゲヤマさんが、
見つかる可能性が、あがるかもしれませんし」
「でも、ひとりで宿にいて、
おそわれたら、怖いからのう。
おそわれるときは、一蓮托生じゃ」
カゲヤマさんは、そういうと笑った。
それに釣られて、テッシちゃんも、笑顔をみせていた。
なんだか、よせあつめだった、メンバーが、
今、この瞬間に、パーティになったような気がした。
俺は、だれにも、頼まれていないのに、
勝手に、助けようとして、事故に巻きこまれて、
だれにも、頼まれていないのに、妹たちを探しはじめた。
全部、ひとりよがりで、はじめたことだった。
でも、このふたりの笑顔をみていたら、
これで良かったと、思えた気がする。
少なくとも、今はそう思えた。




