第二十一話 帰路
兄貴は、後ろにたおれこみ、身体を起こそうとする。
だが、力が入らないのか、兄貴は手をつき、
上半身をななめにし、ふるえるだけで、起きあがれないようだ。
「ヤキソバさんずるいデス!
おいしいところを持っていって」
テッシちゃんが、ホホをふくらませている。
わりと、余裕なかったから、
と、言ったら、テッシちゃんのプライドが、
傷つきそうなのでやめた。
俺たちは、うらめしそうに見つめる兄貴を左右へさけ。
いき止まりをぬけ出た。
「フェリリ。案内たのむ」
「分かったナノ」
巫女の子はどうやら、方向オンチっぽいからな。
フェリリにたのんだ。
フェリリは、横から、俺のホホへ、
風をふりまいて飛ぶと、闇夜へきえた。
しばらくすると、フェリリの声がきこえてきた。
そう、遠くはないのだろうが、
町は、かなり、暗くなっているので、すがたはみえない。
俺たちは、宵闇の中をひたはしる。
「兄貴とチンピラは、かなり強さが、ちがったデスね」
「なんとなく、
あれは、わざとな、気がするんだ。
わざと、下っぱのクラスをよわくして、
カリスマ性を高めているんじゃないかな?」
「みえっぱりデスね」
兄貴も、ただの、下っぱにすぎない可能性も高いし。
この巫女も災難だな。
へんなヤツらに、ねらわれて――。
しかし、この子をさらって、
なにをしようとしてたんだ?
「ハァハァ、すまんの――ハァハァ、
後半、はぁはぁ、緊張して――はぁはぁ、
治癒の護符を――使うのを……忘れて……」
「カゲヤマさん、話はあとで、いいですよ。
とりあえず、どうします?」
「ここから近いのは、
ヤキソバさんの宿ですね。
こんばんは、そこで、泊まりましょうデス」
「えっ……俺の部屋ですか?
こまりますよ……」
「きょうの朝、きたとき、
ヤキソバさんの隣の部屋に、あきがあったから、
そこをかりますデスよ。
それより、夜に徘徊するほうが危険です。
夜特有のモンスターが、空から町に、しんにゅうするデスから」
「そうなの?」
「そうデスよ? しらないデスか?」
「そうじゃな。
わしも、そうするしかあるまい。
チンピラはわしが、家に帰るときに、おそってきたんじゃ。
しばらく、帰れん。装備も取られてしまった」
きょうは、武器堂へ、ひとがたくさん、やってくる日だったから、
そこを、ねらわれたのだろうか……?
「じゃあ、カゲヤマさん。
しばらくは、俺の部屋の、となりに住むってのはどうです……?」
「あんな、ハァハァ――ヤツらに。
家のまわりを――かぎまわられてちゃ。
ハァハァ――帰宅できないのは、
たしかじゃな、はぁはぁ……」
「……無理しなくていいですよ……
カゲヤマさん……」
「話は、宿へ行ってからにしましょう。
わたしも、もうつかれたデス」
「すまぬ。ちょっと休憩させておくれ」
そういうと。
カゲヤマは腰をおろして、両ヒザをかかえた。
キキーッ。
かん高い音が聞こえる。
まわりを見る。
外灯に、はば一メートルほどの、巨大なこうもりがいる。
「悪バットじゃ!」
おいおい。
もうテッシちゃんのHPがねえよ。
そのとき、
どこからともなく、
悪バットと、おなじくらいの大きさの、雷撃の球。
それが、静電気のごとき、ほそい稲妻を、
まわりへ、飛ばしながら浮遊し、
吸いよせられるように、悪バットへ、むかっていく。
悪バットは、それにあたると、
かなきり声の、断末魔を、みんなにあびせながら、
炸裂四散し、どうじに雷撃球も消失する。
「『夜間用、魔道砲』による、索然ははじめてみたのう」
「魔道砲?」
「まちの四方、
計四箇所にある、夜間モンスターの撃退装置じゃよ。
高BPによる、追尾する、雷撃マジックを撒布するのじゃ。
装置とはいうが、
平たくいえば、威力や射程などが、強化されている、
固定砲台の、魔法使い用、装備なんじゃよ。
つかっておるのは、夜間の仕事に、従事する人間じゃ」
「空を飛んでいなければ、魔道砲は安心デスよ」
「わたしは、衝撃吸収魔法を、適用してるから、大丈夫ナノ。
魔道砲対策の、効果もあるナノ」そういいながら、フェリリはおりてくる。
「大丈夫なんじゃないのかよ……?」
「悪バットに、おそわれるナノ。宿はもうすぐナノ」
「魔道砲だって、
悪バットを、すべて、たおしきれるわけじゃありません。
おそわれると、まずいデス……
いっこくも、早くもどりましょうデス。
カゲヤマさんは、ヤキソバさんに、おぶさってくださいデス」
いや、俺も、つかれてるんですけど……
でも、体力ない男だと、おもわれたくないので、言わない。
「大丈夫ですよ。わたしが、おしますデスから」
「いや、俺だけで平気だよ。
気もちだけで、十分っす」
正直、おされて、派手にころぶ未来しかみえない。
「すまんのう、すまんのう」
カゲヤマがおぶさる。
軽いな。
「いっとくけど、
『重い』と『思ったより軽い』は禁句じゃからな、とくに後者」
いいませんよ、そんなこと。
それにしても、
カゲヤマの髪の毛が、首スジにあたって、こそばゆい。
「あー、あー、あー、あー、あー、あー、あー、あー」
カゲヤマさんが、俺の右肩へ、アゴをのせ。
ガクガクさせて遊んでる。
「すまんのう、すまんのう」
絶対、すまんって、おもってねーだろ。
これ。
普段ならまだしも、いまはマジで、つかれてるんすよ俺。
そんなことをしつつも、
俺たち、三人は、俺の宿へもどった。
宿は、夜間モンスターの対さくで、
窓などに、金属板がおろされている。
宿の正面の入り口は、しまっていたので、裏口からはいる。
テッシちゃんと、カゲヤマさんのふたりは、
とりあえず、ロビーへ行った。
そして、
俺の部屋のとなりの部屋を、いち日ぶんの料金を、支払ってかりた。
「おやすみなさいデス」
「おやすみじゃ」
「おやすー」
「おやすみナノ」
今後のことは、あしたの朝に話すことにして、
きょうは、寝床につくのだった。




