第二話 転生の部屋編 ステータスを決める
「残念なんじゃが……
おぬし、死んだみたいだぞい。
わし神様の代理人」
暗い部屋のなか、
めのまえの老人がそういった――
ヒゲが糞なげえ……
イスに、すわっているのに、地面についてやがる。
多数の、本だなを背景に、
杖をヒゲに押しあてながら、じいさんはいった。
「いま、その体は、おぬしの生前の体を再現しておる。
しかし、行き先が決まったら、
その体とも、さよならじゃよ」
白ヒゲを、なで付けながらいう。
「マジかよ……」
「ちなみにわしは、ヒゲのある、神様の代理人――
略して、ヒゲ代理じゃから、本当の神様では、ないぞい。
わしを信仰することも、厳禁じゃから」
がくぜんとして、頭がフラフラする。
れき死とか、俺、無残。
「妹と、妹の友達は、どうなったんですか?」
「二人とも、亡くなったみたいだぞい、
かわいそうに、ティーンなのに」
――助けられなかったか……
俺の三分の一しか、生きてねえのに、ひでえな。
くっそ、妹の成長をみまもるという、
俺の人生、ゆいいつの、
ラストジョブすら、果たせなかったのかよ……
「ふたりの、いき先は、どうなったんです?」
「ふたりとも、おなじ世界に、特殊転生したぞい」
「特殊転生?」
「危機におちいった、世界をすくうと、
ひとつ、願いを叶えられるという、
オプションがつく、転生だぞい」
お?
「おじいさん、
そのはなし、もっと、よく聞きたいです」
「危機的状況の世界が、たくさんあっての、
その世界をすくうと、願いがかなうのじゃ」
おい!
二回、おなじこと、言うんじゃねえよ!
じいさん、ボケてんのかよ……
「行きたいのか、ぞい?」
なんか、口調に、無理があるな……
だけど素直に「あ、はい、行きたいです」とはいわない。
足元を見られるからな。
「でも……お難しいんですよね……?」
「大丈夫だぞい。
現地人にはない、特典がいろいろあるぞい。
それに、世界がすくわれれば、参加した全員に、特典があるぞい」
「うっそ!
ただ乗りできるじゃねーか!」
「なんか急に、
口調がかわったような、気がするんじゃが?」
「気のせいだぞい」
やった!
これ楽勝じゃねーか、
参加するに、きまってるわ。
「あのう。
その知り合いのふたりが、
参加したイベントに、僕も参加したいんですけど」
「わかったぞい。
引継ぎの人が来るから、
その人の案内に、したがってくれ」
そう言うと、
老人は部屋から、出ていった――。
――しばらくすると、後任の女性が入ってきた。
後任であるのだろう、
三つ編みの、二十歳前後のお姉さんが、テーブル越しに座り。
「ここに、ステータスを、書いてください」
こっちむきに、しかれた書類をまえに、営業スマイルでいう。
三つ編みって、引っぱりたくなるな、これ。
俺が子供なら、引っぱってたかもしれん。
三つ編みが、肩と、首のつけ根を、とおっていて、
肩はばの、せまさを、きわ立たせていた。
俺は自分の名前を書き、
年齢らんに、アラサーとつづった。
「そこのところ。
ご自由な名前と、年齢で大丈夫ですよ。
転生後の、名前と年齢になります」
「あ、そうなんですか、わかりました」
「二十歳、前後のが、
冒険しやすいと、おもいますけどね」
俺はゲームで、よくつかっていた、
昔のあだ名である『ヤキソバ』と、名前らんに書いた。
あとは年齢か。
ん?
マジかよ。
ティーンとかに、していいのかよ。
――っていうか、
アラサーで、笑ってほしかったわ。
勇気をだして、ネタに走ったのによ。
しかし、この人。
ぜんぜん、営業スマイルをくずさねえな。
かわいいけど。
――っていうか、
いま、冒険っていったのか?
俺、なにやんの?
「俺って、どんなことをやるんですか?」
「すみません。
公平をきすために、お教えできないんです」
おいおい、
企業秘密みたいにいわれてもな。
こっちは労働者だろ――教えてくれよ。
でも、「しつこい男!」と、
おもわれたくないので、追求はしない俺。
二十くらいにしとくか。
俺は、二十歳と書いた。
「つぎに、ステータスを割りふってください」
書類には、
筋力
びんしょう力
知力
技術力
魔力
抵抗力
潜在能力と、ならんでる。
そして、縦にならんだ、各項目の右には、
五という、数字がならんでる。
なんだこれ、RPGかよ。
俺って、そういうタイプの冒険すんの?
冒険者なのか?
「その、五という数字は、
すでに、加算されてるポイントです。
さらに、そこに、二十ポイントを、ご自由に割りふってください」
俺が用紙に、数字を書こうとすると、
お姉さんはふいに。
「あ、プラスのみでおねがいします。
かけるとか、わるとか、何乗、階乗、その他もろもろは、ダメですよ。
もちろん、マイナスも、ごはっとです」
畜生――ダメだったか……
――っていうか、お姉さん。
俺が、そういうことをする人だと、おもってんのか?
アラフォーとか書いて、ネタに走るんじゃなかったぜ。
――ところで、この七つの項目だが、
興味をひく、項目がひとつある。
『潜在力』だ。
なんだこの、俺好みの、そそる項目は……やべえ……
「あのー。
七つの項目にかんして、質問して、いいですか?」
「すみません。
公平性のために、お答えできないんです……」
まあ、そうだろうな。
さっきと、おなじだわ。
「あ、別にいいっすよ、大丈夫っす」
俺は首を、こきざみに、縦にふりながら、
あいづちをうった。
正直、潜在力に、全部ふりたい。
たとえば、もし冒険者として、底辺ぐらしになったとしても。
『俺には、潜在力がある、夢があるんだ』とか、なんとかいって、
死んだ目で、マインドを保ちながら、
生きていける気がする。
「すみません。すこし、考えていいですか?」
「だいじょうぶですよ。
私はずっと、まっていますから」
そういうと、お姉さんは、書類から目をはなし、
周りへ、視点をうごかして、注意をそらした。
俺は、それを見はからうと、潜在力の欄に、二十と書いた。
「人生は、なにごとも、バランスですよね」
俺はそう、いい放った。
後悔はない、あとは、お姉さんが笑うかどうかだ。
お姉さんは用紙をみて、たんたんと、いった。
「そうですよね」
くっそ!
やはり、俺の力不足だったか……
やべえ……
俺、この人のこと大好きだわ……
「つぎは、この中から、
好きなスキルを、えらんでください」
お姉さんはリストをわたした。
セレクトスキルリスト
初期レベル百
常時BPプラス五千
常時最大HPブラス二万
常時最大MPプラス一万
常時最大SPプラス一万
常時最大LPプラス千
全武器レベルプラス三十
技覚醒
マジック覚醒
マジック完全合体
マジック早よみ
自由連携プラス一
バトルオーラ
サブクラス枠プラス一
サブクラス成長率二倍
など
正直、よく分からねえ……
まず、この数値が、
どのくらいの、価値があるのか、分からないと、
なんとも、いえないな。
まず、このゲームみたいのを、いっかい、プレイしてから、
あらためて、選ばせてくれたら、いいのによ。
いちおう、お姉さんにきいてみっか。
「ステータスの意味とか、
スキルの内容って、どんなのですか?」
「すみません、
教えられません……」
ですよね、
もうなれっこですわ。
でも、公平性の意味ってなんだ……?
まさか、参加者同士の、
デスゲームとか、じゃないだろうな。
でも、『世界を救ったら全員』とかって、
話だから、その可能性はひくいか。
「すみません、
このリストのスキルって、
いくつ、もらえるんですか?」
「ひとつです」
うっそ!
たった一個かよ。
たいして、使えないスキルをえらんだら、どうすんだよ。
RPG前提なら、ここは、ぶなんに、初期レベル百か?
でも、もしも、最高レベルが百だったら、
超過分の経験値が、無駄になるだろうな。
それに、先輩プレイヤーに、
「オレっち、レベル百五十で、
スキルリストのスキルも、一個もってるんだけど、
ヤキソバ君って、レベル百だけなんすか?
そんなんじゃ、オレっちのPTに、入れられないっすよ?」
とか、言われちゃったら、つれえ……
そうなったら、閉じこもるしかないわ。
しかし、黙考しつつ、まごつく俺を尻目に、お姉さんは――
「あ、まだ、ほかにも、
リストがありますよ?」
と、いいはなった。
「……ちょっ! お姉さん!」
俺は声をあらげた。
「はっ、はい! なんでしょう……」
「いえ、何でもです」
俺は視線をそらす――
イスにすわったまま、リストを両腕で、胸にかかえ――
半身で、肩をすくめている、お姉さんを、糾弾したくはない。
すみませんね……
家に、閉じこもってる期間が、ながいと、
興奮しやすくなる人も、いるんですよ。
ホントごめんなさい……
「これがリストです」
セレクトアイテムリスト
魔剣プーワ
魔剣イハシ
魔輪ムゴワ
魔輪アリバー
魔目ゴルンゴ
など
もういい……
もういいんだ……
中身のみえない福袋を、えらべといわれ、
その福袋には、縁起がわるいことに、
すべてに、魔と印刷されている……
例えるなら、そんな感じだな、
立派に、ファンタジーだわこれ……
「お姉さん。
もうほかに、新しいリストは、ないんですか?」
「えっ」
「じつは、あったりすると、おもうんですけど?」
「あります……」
あんのかーい!
お姉さんの手際わるっ!
お姉さんは、ペラ紙を一枚、こちらへもってきた。
「ラストペーパーです」
こんな黄ばんで、字がかすれて――
角が丸くなって、やぶれかけてる――
うっすい、わら半紙じゃあ、
いわれんでも、最後ってわかるわ……
このあとに、紙質のいいのを持ってきたら、
お姉さんは、そうとうの、かくれゲスでっせ。
アクティブリスト
さいしょの、所持金が2倍(無利子)
子供のいない老夫婦の、
養子として、スタート(異世界の住人側の希望者が、いない場合があります)
お金持ちの養子として、スタート(お金がない場合があります)
宿泊代の、永久無料のクーポン券。
村人から、おうえんメッセージが、まい月、自宅へとどく。
クノン村の、ミミルさんがかわいい。
転生前の、記憶を引きついで、スタート。
など
うわあ……
いらねぇ……
なんか、会議で、意見をあつめて、
ボツになったものを、もったいないからって、
あつめて、形にしちゃった、みたいな、そんなかんじだな……
ミミルさんの部分とか、書類の、らん外とかに、
ねむけまなこで、はしり書きしたものを、あまあまの、チェック体制で、
アイデアの、ひとつとして、カウントし、
まちがって、そのまま、会社の資産として、
プリントアウトしちゃった――
そんな感じだぜ……
そういう系の仕事したこと、まったくねーけどな!
「しかし、このリストは、むっちゃいらんですね……」
「そうですか……
むっちゃですか……」
お姉さんは、肩をおとして目をつむり、
ため息をついた。
お姉さんは、はやく決めて、ほしいのだろうけど、
ここは、慎重に、いきたいんだわ。
すんまそん。
ん?
転生前の、記憶を引きついで、スタート?
「なんども、質問して、すみません。ちょっといいすか?」俺はきりだした。
「なんでしょう」
三つ編みのお姉さんは、
営業スマイルでおうじる。
「ここに『転生前の記憶を引きついでスタート』って
あるんですけど。
もしかして、俺って、
事故のあとに、なんども転生してて、
それで、その記憶は、封印されてるとか、そういうことあります?」
「あの……いえ……
そうではないんです……」
お姉さんは、視点をしたにまげて、
こまった表情をみせる、
こまってる女の子って、正直いうと、大好きだわ。
「ちょっと、お時間いいですか?
確認してきますので」
お姉さんは、そういうと立ち上がり。
俺をのこし、暗闇の中へ、消えていった。
そして、もどってくると、おもむろに、俺に説明した。
「じつは、特殊転生したあと、
前世の記憶と、この部屋での記憶は、
うしなわれるんです。」
「すごく、重要なことじゃないですか!
なんで、説明してくれなかったんですか!」
「すみません。
冒険に、さしつかえの、あることなので……」
お姉さんはそういうと、頭をさげた。
まあ、お姉さんだって、やとわれなんだろうし、
糾弾しても、しかたねーよな……
それにしても、
冒険に、さしつかえって、なんだ……?
知識や記憶があれば、
それだけ、円滑に、すすむんじゃねーのか?
だが、きまりは、きまりだろう。
お姉さんに、ブーたれても、意味ねーよな。たぶん。
俺は選択をきめかねた。
どうする?
これを選んだら、強そうなスキルとも、おさらばだぞ。
でも、記憶がなくなったら、ふたりを探せないしな。
そのために、このイベントに、参加するってのも、
理由のひとつだからな。
あんなので、ふたりとお別れとか、俺はみとめねえから!
そして、俺は決断した。
「俺、この『転生前の、記憶を引きついで、スタート』にします」
俺は、謎のドヤ顔でいった。
「え?
本当に、それをえらぶんですか?」
お姉さんは、困惑している。
――というか、焦燥している。
なんでだ?
べつに、ひとりだけ、
ちょっと、弱い状態でプレイしても、問題なくね?
これ、なんかの当たり枠か?
「あ、それと」
「なんですか?」
「これを選ばないと、記憶をうしなうって、
おかしくないですか?
だって、今は記憶あるから、
『世界の危機をすくう』だのって、目的がわかるじゃないですか?
でも、記憶がなくなっちゃったら、
そういうの、分からなくなりますよね?」
俺がそういうと、
お姉さんは笑顔を崩さずに、
たんたんといった。
「大丈夫ですよ。
転生したみなさんは、素直ですから、
そのときに、おうじて、
それなりに、世界をすくおうと、なさってくれます」
「あっ、そうなんすかー。
疑問がとけて、スッキリですわー」
えぇ……なんか怪しいな……
これって本当か……?
かるい、精神操作とか、なにかじゃねーのか……?
これは、絶対に『記憶を引きつぐ』を選ぶべきだわ……。
「自分はやっぱり、
記憶を引きつぎたいですね、
ちょっと、目的があるので」
「そうですか……わかりました」
なにかを、あきらめたように、
お姉さんがいうと、目をつむったまま、
ため息をつくように、続けていった――。
「では、もうひとつ、
リストの中から、選択してください。
さし上げますので……」
えっ――。
俺は事態がのみこめず、視線をおよがせた。
「本当にくれるんですか?」
「ええ、さし上げます」
よし……!
気が変わらないうちに、早くもらおう――
俺は今までの、三枚を横にならべ、
目を皿のようにして、迷った。
しかし、『記憶を引きつぐ』をえらぶと、
あたえるスキルなどを、ふたつに、しなければならない、
合理的な理由って、なんだ?
だって、こんなの、記憶を引きつげる分だけ、
丸どくじゃねーか。
スキルを決めてから、聞いてみるか。
スキルで、俺が興味をひかれるのは『技覚醒』だな。
『覚醒』という言葉に、ひかれる。
ステータスの割りふりで、
潜在力にふったし、相乗効果があるやもしれん。
「技覚醒にします。
ところで、ふたつ分、もらえることになった、
理由ってなんです?」
もらえるのが、決定したであろう、
という、タイミングを見はからって、
俺は質問した。
お姉さんも、
「そんなこと聞くならあげません!」
とは、もはや、言いにくいだろう。
もっとも、そういう決定事項を、
ひとりの判断で、かえる人には、みえないが。
「全部は話せませんが、
理由のひとつとしては、
クレームが、非常におおいんです……ダントツで……」
そりゃそうだろう。
ここを仮に、転生の部屋とするなら、
『転生の部屋での記憶が、存在するのが、記憶を引きついだ人だけ』
なのだから。
記憶を引きつがなかった人が、
もらったスキルや、アイテムに、
不備や不満があっても、
「転生の部屋のやつが、
つまんねーもんを、中身をみせずによこしたからだ!」
とはならない。
記憶を引きついだ人に、
「おまえの、スキルやアイテムが、役にたたないのって、
転生の部屋の、やつらのせいじゃね?」
と、指摘されて、はじめて怒ることが、できるわけだ。
――しかし、あくまでも、自分で選んだのに文句をいっている訳なのだから。
やはり、正当性はグレーであって、
これは、クレーマーの一種と言えるのかもしれない。
俺はクレーマーに、ならないことに幸運を感じていた――。
先発隊の犠牲は、ムダにしないぜ!
「あとは、転生するだけです。
このとびらに、入ってください」
お姉さんは、暗闇に右手をさし入れ、うでを回した。
かるい音が、部屋にひびき、暗闇に、たてに光線がはしると。
光が、部屋全体をおおい、俺はさそわれたように、吸いこまれていった――。