第十八話 VSチンピラ
「どうすんだよこれ」
夕ぐれのなか、
俺はかくれて、テッシちゃんを見まもる。
加勢した方がいいか?
しかし。
俺が、加勢にいって、ふたりとも捕まると、
かえって、危険な気がするしな。
どうしたもんか。
フェリリだけ動いて、
周囲の人をさがしてもらうのも、
やつらが、このあとすぐに移動した場合、フェリリが追跡できなくてこまる。
俺がこのへんで、周囲の人をさがして、助けを呼びにいくというのも、
テッシちゃんが、このあと、危機におちいったときに加勢できなくなる。
なやましいな。
「テッシ LV九
HP一七二〇 BP一六一〇 SP八五五 MP九九〇 ナノ」
「BPが一六一〇? 凄く高いな」俺は小声でいう。
「あの重そうな、銀色のぼうは、
ヘビー棒 BP+八〇〇
あいてが、自分のBPの一・四倍じゃないと、弾かれない
装備スキル ぶっ叩き、キャンセルスキル
BP+四〇〇
KB、技の使用者から、対象者の方向へ、一レンジ だってナノ」
「なるほど、だから、あがってるのか」
ん?
「どっちかっていうと、テッシちゃんよりも、敵のデータを見てくれよ」
「まあ。そうナノね」
フェリリは魔卓を操作している。
「なんか知らないけど、
魔卓じゃ、敵のステータスを見れないナノね。
巻物で、しらべてみるナノ」
「頼むわ」
テッシちゃんの方をみやると、
拉致魔とはなしている。
「だいの大人が、おんなの子に乱暴するなんて、
恥ずかしくないデスか!
即刻やめるデス!」
「おまえこそ、そんな、へんなしゃべり方して、
恥ずかしくないのかよ。消えな」
「んんー」少女は口をふさがれ、しゃべれないようだ。
テッシちゃんは、クチげんかを続ける。
いいぞ、テッシちゃん。
もっと、時間をかせいでくれ。
「トシ チンピラ LV二〇 HP九〇〇 BP七〇〇
マサキ チンピラ LV二二 HP九八〇 BP七六〇
タカ チンピラ LV一三 HP六二〇 BP四九〇 ってでたナノ」
「ん? なんか弱くね?」
「違法クラスっぽいナノね」
「フェリリおまえ、武器堂でのトークを聞いてたのか」
「わたしは聞いてたナノよ」
そういえば。
違法クラスは、よわいとか、言っていたな。
こいつら、もともとのクラスを、剥奪されていたのか。
「あの女の子は、
カゲヤマ オンミョウジLV一一 ニンジャLV一一
HP二五〇〇 BP一一〇〇
なにか、見えないデータがあるナノね。解析してみるナノ?」
「たのむ」
俺は、テッシちゃんの様子を、うかがいながら言う。
巫女と陰陽師って、けっこう、差異があったような。
なぜ、巫女服を着ているんだろう。
まあ、俺が前いた世界の文化とか、もはや関係ないか。
たぶん、俺みたいに、
記憶をもったまま、来たやつが、伝えたんだろうな。
俺や妹、一香ちゃんがいるんだから。
俺とおなじ世界から、記憶をもったまま来たやつが、
ほかにも、いるのだろう。
「この子に興味もったの?
パーティに入れたいナノ?」
「いや、いれない」
「わたしの和服友達が、ふえるとおもったのに、残念ナノね。
見えなかったデータの解析がでたよ。
けっこう、生命力をつかっちゃった。
セレクトスキル 見えない成長力
サブクラスの成長率が二倍、だってナノ」
「気がかわった、
こいつは助けた後で、パーティにさそおう。
しかし、相手のステータスをみるに、
テッシちゃんに、加勢は必要ないのかもな」
助けにいかない俺は、フェリリを意識して。
言いわけじみた、ことを言う。
やつらが、どんな団体なのかは、知らないが、
万がいち、テッシちゃんの身元がバレたとしても、
俺の身元が、割れていなければ、かくまいやすいはずだ。
「あいつら、
テッシちゃんのステータスの確認を、しないナノね」
「俺たちが魔卓で、
あいつらのステータスを見れなかったように、
人間どうしは、確認できないんじゃないか?」
「そうね、そんな感じがするナノ」
しかし、通行人が、だれも通らねえな……
目撃者が、テッシちゃん、ひとりだけだと、
テッシちゃんの居場所をさがされて、
ねらわれる可能性があるけれど、
目撃者が複数だと、
いちいち、そんなこと、しない可能性も高いとおもうから、
だれか、通ってほしいのだが……
「てめえ! やんのか!」
「少女を解放するデス!」
「おい、こいつ、やっちまおうぜ」
男三人は。テッシの周囲をとりかこむ。
男たちは、小刀をぬいて、にじりよる。
まわりは、すっかり、薄暗くなっていて、
周囲の魔灯が、明滅をくりかえし、
やがて、かるい音とともに、光をはなち続けた。
おっ、戦いがはじまりそうだ。
「ふり下ろしデス」
テッシの一撃が、チンピラのひとりにヒットする。
「タカに、一四五五ダメージなの!
タカをたおしたナノ!」
「おいおい、ワンパンかよ」
男はその場に、ヒザからくずれ落ちる。
「このおんなっ」
チンピラは、小刀で、テッシへ切りにかかる。
テッシは、いともたやすくよける。
もうひとりのチンピラが、テッシをねらい、背後からつく。
テッシはさける。が、肩に小刀がかする。
「おいおい。テッシちゃんの肌が」
「傷なら、HP回復させると、消えるナノよ」
「そうか、ほとんど、ツバぜり合いとかの、ダメージだったからな」
俺は安心する。
びみょうに、緊張感がないのは、自覚しているが。
気になるものは、気になる。
「テッシちゃんに、四五ダメージなの」
テッシは、
自分を切りつけた相手にふり返り、
ヘビー棒をふり上げた。
「ふり下ろしデスっ!」
相手の顔面にむかって、叩きつける。
これはいてえ。
「トシに、一〇二〇ダメージなの。たおしたナノ」
「あとは……あなただけデスよ!」
テッシは挑発する。
男は冷や汗をひとすじ。
どちら側からも、しかけずに硬直する。
硬直をやぶったのは、チンピラの方だった。
「うおおおおぉぉ!!」
さけびながら突進し、
小刀をふり下ろすチンピラ。
そのチンピラの、
ふり下ろしの動作をみてから、さけるテッシ。
次の瞬間。
チンピラは腹部に、ヘビー棒をかかえ込んでいた。
うずくまるチンピラ。
チンピラが見上げると、見下ろすテッシ。
テッシはヘビー棒で、かるく肩をたたいた。
「五三〇、四九六ダメージなの。
チンピラCをたおしたなの」
この、フェリリのセリフは、
テッシちゃんには、聞こえないだろうが、まあ関係ないか。
「もう安心デスよ」
巫女少女にかけより、
アシに、くくり付けてある、縄をほどくテッシ。
ん?
チンピラたちの身体から、
黒いホコリが、巻き上がってる。
チンピラは、ロストしたわけじゃ、ないようだが、
人間同士でも、経験値が入るのか?
黒いホコリは、上へ巻きあがり、わかれて。
俺とテッシへ、分配される。
あ、しまった!
「おい!
そこにいるヤツ、出てきな!」
誰何がきこえる。
チンピラたちの関係者か?
経験値の分配で、隠れているのがバレちまったか。
俺とフェリリは、テッシのところへかけよる。
フェリリは残していこうか、とも、おもったのだが。
戦いに、なった場合。
フェリリがいないと、少々、厳しいかもしれない。
「兄貴!」
「あにきいぃぃっ!」
「あにきいぃ。うおぉぉおおおっ!」
「すまんが。
もぅちょっと、ゆっくり、はがしとくれ……」
はいつくばっている男たちが、絶叫する中。
俺は巫女少女の、クチのテープを、淡々と、はがしていた。




