第十五話 武器堂 クラスの話
八月一日、三陽の十二時半。
フェリリが暴れるので、
きょうは、町で買い物をすることになった。
――町の市街地。
いきかう、ひとびとの雑踏が、
俺たちを、押し流そうとしていた。
ふらつく、テッシちゃんは、通行人に押され、
目をぎゅっとつむって、後ろから、俺に密着してくる。
緊張するから、そういうのやめてくれ……、
俺は、ドギマギしながら願う。
「大型武器堂はどっちだ?」
まわりを見まわしながら、声をだすが。
まわりは、人であふれて、よく見えない。
「武器堂はこっちナノ。こっちこっち」
声のする方向へ、ふりむく。
「こっちー。こっちーナノ」
いた。
フェリリだ。
人の頭上、一メートルくらいの位置で、
声をはりあげている。
「いまいくから、ちょっとまってろー」
「はーいナノ」
フェリリは、両手をクチの左右へそえ、
足をひらき、まえへ上げ、
くの字の体勢でさけぶ。
「ヤキソバさん、へるぷー」
げっ、テッシちゃんが、ひとごみに流されてる。
俺は、通行人に謝罪しながら、
半身で、ひとをかきわける。
「テッシさん。おーい」
数十分後――。
大型武器堂の一階。
俺たちは、すえ付けられた、イスへすわっていた。
「テッシちゃん、いい動きするんだから、
ムリヤリ通れたんじゃないか?」
バカぢからで――とは、
なんとなく、言いにくかったので、
ひかえめな、表現でいった。
「ひとの頭とかを、踏みつけていくのは、
失礼かと、おもったデスよ」
たしかに、礼を欠きすぎている……
しかし、テッシちゃんは、こうやって喋っていても、
ふらふらと、落ちつかないな。
「テッシちゃんって、さ」
「なんですかー?」
「けっこう、ふらふらしてるとき、あるよね……?
低血圧とかなの……?」
「あー、これですか?
そうですね、いちにちの間で、なん回か、
数時間くらい――」
へー、けっこう、なんかいも――。
「わりと、
意識が、はっきりしてる時間が、あるんデス」
意識が、はっきりしてる時間の方が、
短いのかよっ……!
「そろそろ、武器を見にいこうナノ」
フェリリさん。
飛んでるからか、ぜんぜん、疲れてねえな……
俺たちは、大型武器堂の中で、群雄割拠する武器店。
そのなかの、ひとつの店をのぞいた。
「この武器かっけーな。
BP+五〇〇だってよ。つえーな。
しかも、鎧装備のモンスターに、BP+五〇〇だってよ。
フェリリ、BP上がってるか?」
「上がってるナノ」
「きみたち、武器店にくるのは、初めてかい?」
店員らしき、
髪の毛のうすい、中年のおじさんが、
話しかけてくる。
「はい。そうデスよ」
「そうか、冒険者証をみせてくれるかい?」
「あ、はい、わかりました。
この剣、買っちゃおうかなー」
俺は冒険者証をみせた。
「ちょっと、調べるからね」
おじさんは、なにやら、器具でチェックしている。
「すまないねぇ……」
おじさんは、にこやかにいう。
ん?
「君のクラスだと、この剣は、装備できないみたいだよ」
「えっ……
装備できないっていっても、
BPが、上がってるじゃないですか」
……どういうこと、だぜ?
「装備っていうのはね、クラス配給団体の指定。
つまり、許可がないと、売れないんだよ……」
おじさんは、もうしわけ、なさそうに頭をさげ、
頭頂部をさわりながら言う。
「それはなぜですか……?」
「失敗する可能性が、あるからだよ。技がね」
「技が失敗する?」
「なに、難しい話じゃない。
武器によって、射程が違うだろう……?
一メートル五〇センチの、武器を想定して、
設定されている技の発動――。
それを、一メートルの武器を装備して、おこなったら、
どうなるかなんて、めに見えているだろう?
技の発動はする、が、武器のリーチがたりず、当たらない、ということになる」
「それは、そうですけど……」
「それに、いがいと、
どんな部分で失敗するか、わからないものだよ?
技のモーションは、毎回、ほぼ同じに設定されてるしね。
鍔が大きくてひっかかる。
剣が、おもったより湾曲してる。
ふりかぶったら、装備などにあたる。
技の威力や性能で、劣化が酷い。
剣が片刃で、みね打ちになって、技によっては、効果が出なかった。
なんてのも、あるそうだよ。
この制度は、そういうことで起きるクレームから、
身を守るためでも、あるんだ」おじさんは悲しげにいう。
「でも、それは、
購入に失敗した、冒険者のせいであって。
武器のせいだなんて、ひどい話じゃないですか?」
「たぶん、君はすこし、勘違いをしているよ。
クレームが来るのは、うちのような武器店じゃない。
クラス配給団体の方だよ」
おじさんは、口に、にぎりこぶしをあて。
咳ばらいをしていう。
「クラス配給団体の方へ、クレームがいく?」
「考えてみてごらん。
技を、さんざん失敗して、
パーティの足を引っぱっている、
お荷物な冒険者がいる。
その冒険者に対して、武器が悪いなんて、
理解のある見方をしてくれるかな?」
うーん。
そういうものかもしれない。
学校のテストで、点数の悪い生徒がいたとして、
この生徒は、風邪をひいていたのだろうとか。
腹痛だったのかも、しれないとか。
解答欄を、ずらして書いてしまったのかなとか。
真っ先に、そういう前提で、考える人は少ないだろうな。
「冒険者が『今回は武器が悪かった』なんていっても、
たいていの、場合は、いいわけにしか、聞こえないだろう。
けっきょく、その冒険者が悪い。
もしくは、そう――クラスが悪い、ということになる」
「……悲しいことですね……」
「人っていうのは、悪者を作りたい生き物なのかもね。
でも、足をひっぱられた冒険者だって、大変な目にあったんだ。
だから、文句のひとつも、言いたくなるのは、
自然な感情なのかもしれない。
そして、クレームが発生するわけだが。
クラス配給団体というものは、
クレームというものを、ものすごく、怖がるものなんだよ」
「クレームが嫌なのは、分かりますけれど、
装備を固定させてしまうほど、なんですか……?」
横をみる。
テッシちゃんが、長イスで、フェリリを抱きしめたまま、
こくりこくりと、こうべをたれている。
眠いのかな。
パーティで初の買い物なのに、
退屈させてすまん……
おじさんはなおも話す。
「クレームが来て評判が下がると、クラス志望者が減るからね。
クラス志望者が減るということは、
クラス配給会社の魔源徴収量もへり。
配給団体の、母体を維持できなくなる。
死活問題になるんだよね」
「生活基盤が崩れる。それは一大事ですね……」
「それに、クレームをしてくるだけ、マシかもしれないよ?」
「……どういうことですか……?」
「クレームが来ても、謝罪したり。
お詫びの品をおくったりして、対応すれば、
それなりに、納得してもらえるかも、しれないからね。
それよりも、文句を言わない冒険者の方が、
ある意味では、怖いものなのかも、しれないよ。
口には出さないけれど、内心、よくは、おもってないだろう……
そして、ちょっとした、半プライベートの、つどいの場で言うんだ、
『あのクラスを使ったら、こんなことがあった』と、
すると、そのクラスの評判は、少しずつ、悪くなっていく。
冒険者が、リーダー的な立場になくても、
意見のひとつとして、提案することもあるだろう。
そして、その冒険者には、明確な悪意も悪気もない。
『自分が酷い目にあった』とすら、言わないだろう。
ただ、迷惑をかけられたことは、伏せつつも、
そのクラスとは、べつの、違うクラスに一票を投じる。
冒険は、がんらい、危険なものだ。
誰だって、危険はできるだけ避けたい。
それらの行為は、冒険者という名前からは、
かけ離れた、こころざし、なのかもしれない。
しかし、それは、誰にも責められない。
場合によっては、この問題とは関係ない、
たんに、安定性のないクラスな、だけなのかもしれない。
いずれにしろ、クラスの人気は低下する。
人気の低下したクラスは、
パーティーには、だんだん、呼ばれなくなっていき。
王道からは外れ、亜流となっていく。
定評はうしなわれ、いつしか、日陰者的なクラスとなっていく。
そんなクラスには、新規冒険者も、ならないだろう。
パーティに、あまり呼ばれないクラス。
そんな、リスキーなクラスを選ぼうはずがない。
古参冒険者が、サブクラスとして、選ぶだろうか……?
いやいや……冒険者同士の、事情を知っている、古参冒険者。
なおのこと、そんなクラスを、あえて選ぼうはずがない。
サブという、あまり問われない、枠であろうとも、躊躇されるであろう」
おじさんは、顔に影をつくり、暗い顔でいう。
「そして、クラス配給団体は、かんがえた。
どうすれば、この問題を解決できるかを、
そして、この問題をあるていど、
解決する方法を、みちびきだした」
おじさんは、にぎりコブシを、つくっている。
「そんな方法が、あるんですか……?」
サッパリ、わからないな。
「その過程の副産物として、生まれたのが、
レアクラスとかって、言われてるものなんだよ」




