ハルピュイアの少女-9
ユグドラシルの中に向かっていく。
洞から中に入ると思っていた以上に明るかった。
上は穴でも開いて……あぁ、青い空が見えるじゃん。
いや……空? じゃない、あの青い空は水か。
「あれ? 空って海じゃないよな。海は下だよな」
「気にするな、ここはいろいろおかしい」
おかしい、そう言われて確かにおかしい。
なんで俺の背より高いキノコがわんさか生えて、いるんだろうか。
木の中に木が生えているけどその根っこがすでにおかしいレベルでデカい。
地面からタンポポの綿毛みたいな直径一メートルの何かがにょきっと生えているし……ここの生態系はさぞかしカオスで盛大ななのだろう。
あぁ、理解することをやめよう。
そこにある現実というものをそのまま受け入れないと、突っ込みすぎたら疲れるだけだ。
「あそうだお前、ちょっと」
指差す先にはいつかどこかで殺されかけたフェンリスという化け物が……。
狼が……。
「あれを仕留めろ」
「無理っす!!」
「無理って言う前にやってみろ」
「いや死ぬか――」
背中を押されてフェンリスの前に踊りでる。
殺るか殺られるかの二択。
「グルゥゥゥゥ………」
実力的に無理だ。
動物ってさ……結構警戒心強いらしいから無闇に襲ってきたりしないんだよ。
……こっちから仕掛けない限りは。
飛びかかってきたフェンリスに火傷覚悟で火炎弾をぶつけ、全く効いていない。
そのまま地面に押し倒されて、首を狙って鋭い牙が――
「ダメだな」
――食い込むこともなく、フェンリスが吹っ飛んで首が落ちた。
今、何が起きた。
見上げれば青白い刃を伸ばす、赤い柄を持ったウィリスがいる。
魔法だろう。
「なに固まってんだよ、さっさと行くぞ」
「あ、あぁ」
しばらく進むとまたもフェンリスが姿を見せたが、その瞬間に首が落ちて、心臓の鼓動に合わせて血が噴き出した。
「え?」
「なに固まってんだ、さっさと行くぞ」
いや、なんで首が落ちる?
その後も遭遇する度に敵の首がすとんと落ちて。
俺たちが歩いた場所は赤色と魔物の死体が転がるデスロードになっていた。
「げっ、やなやつ」
そしてまた襲ってきた魔物。
キラートマトの頭がべちゃっと。
落ちて弾けてトマトの匂いと赤色が飛び散る。
こいつに関してだけは飛び散るのが血じゃなくてトマトなんだよ。
だけどコレを見ていると……トマトが嫌いになりそうだ。
「気持ち悪い……」
「吐くなよ。吐いたら臭いでけっこーヤバいのが寄ってくるから」
と、言われた後。六匹のトマトを氷塊を叩き付けすり潰してリバースした。
頭はいい、首から下はアカン。
「吐くなっつったろこのバカ!」
「すまん!!」
バシッと叩かれたがそんなことよりも、あちこちから聞こえる不穏な足音が気になる。
というか、なんだろうか、映画とかでよくあるドシン、ドシンって響くような……。
「…………マジか」
「…………恐竜?」
そびえ立つ気を押し退けて姿を見せたのはまさかのティラノサウルスのような恐竜。
「や、やれるか」
「…………」
「なんで黙る?」
「ガス欠寸前なんだよなぁ」
「……さいですか」
「ま、仕方ない」
何が?
と、思った時には俺の足を引っかけて。
「グッドラック」
走り去って行きやがる。
なにがグッドラックだよ、思い切りデッドエンドまっしぐらだ。
あとで一発氷の砲弾を叩き込んでやろうか。
で、まずはこの恐竜をどうするか。
恐怖も度を過ぎるとパニック通り越して冷静になるんだよなぁ……。
氷の砲弾で頭を吹き飛ばせるか。
打撃で終わって反撃くらいそうだ。
高温で焼くか。
それをすると広いようでもここは閉鎖空間だし、発火点超えて大火事にでもなったらどうしようもない。
でも、確実性を狙うなら頭、脳を破壊してしまえばいい。
なら。
「灼けろ」
片手を向けて照準補正。
軽い抵抗を感じたが、プチッと破るような手応えで魔法が発動する。
体内を直接加熱、水素結合を破壊、タンパク質を変性させ――
倒れて苦しむ恐竜をさらに加熱。
断末魔の叫びを上げた巨体が倒れて湯気が上がる。
「案外、やれるな」
近づいてくる足音を睨み付けると気配の動きが止まった。
デカいやつが倒れると周りの小さいのは怖がって近づいてこないらしい。




