ハルピュイアの少女-6
「ウィリス! このあとどうすんだよ!!」
「下に仲間が居る、そいつらに受け止めてもらう」
受け止めてもらうっていったいどうやって?
バカみたいに大きなエアクッションでも使って……って、そんなものじゃもう一回空に投げ出されてどこに行くか分かったもんじゃない。
ああクソ、飛行用の魔法が使えたら良かったのに。
ない物をねだっても近づいてくる地面……じゃない、バカみたいに大きなユグドラシルの枝はだんだんと近くなる。
ありゃあ大型車が余裕ですれ違えるくらいの幅がある。
なんで自重で折れないのか不思議なくらいにデカい。
そしてそんな枝の上で紫色の光がチカチカと明滅する。
紫は……なんの魔法だ?
「さ、来るぞ」
「……何が?」
疑問に思った瞬間、真下から強い風が吹き上げてきた。
あれは風属性か。
俺の下方向の加速度は一気に相殺されて、それでも勢いは大して衰えず死を覚悟するほどの速度で枝に叩き付けられた。
太いだけあって少しも衝撃を吸収しちゃくれない。
「ごふっ……」
やばい、これ肋骨が……。
もう嫌だ、二度あることは三度あるとはいえもし次があったら死ぬぞこれ。
なんて思ったら顔の真横に卵が落ちて枝にめり込む。
よかった、三度目の死は無かった……。
「がっ、ゴボッ」
あ、ダメだこれ、着地の瞬間のあの感覚、知ってる。
体の中が潰れ……破裂して……。
口の中が血の味で満たされる。
あれ? 歯が、なんかぽとって口から赤い塊が落ちた。
「あ……あぁぇ、やば……」
治癒だ、すぐに、意識が沈む前に。
痺れていく思考を無理矢理動かして、最高の回復魔法を使った。
爆発的に広がる緑色の光が傷を瞬く間に癒やしていく。
「どんだけ無駄遣いしてんだよ、お前」
光が収まるなりウィリスにそんなことを言われた。
俺死にかけたよねえ?
仲間に受け止めてもらう?
俺は地面に激突したぞおい?
まずは心配するところじゃないのかねぇ。
「無駄遣いって……」
「明らかにオーバーヒールだろ。その程度の怪我ならレベル20ありゃ十分だ」
「へぇ……」
あんな瀕死の大怪我もレベル20で癒やせるのか。
だが俺はそうは思わない。
だったらレベル三桁クラスの魔法はどういうものになってしまう?
多分、今の魔法はレベル80くらいだったと思う。
とりあえず強ければいいってイメージしたから正確なレベルは俺でも分からない。
そもそも魔法のレベルと威力がどれくらいの関係なのかすら分からないんだよ。
下手したら死者蘇生とか出来そうな……。
「つーかウィリス、俺死にかけたんだけど」
「後ろー……」
「はっ?」
なんだ?
振り向けばコツコツと音を出しながら震えている例の卵が。
魔力を通せば……
あの意味深な説明ってそういうこと?
いやいやまさかね、その方向で二度目三度目はいらんのだよ。
アルのときみたく亜種が生まれなくて良いの、いやアルは生まれたってことじゃないだろうけど。
でもまあ、危険な変種とか生まれたりしないよね?
運がない俺ならガチャでほぼ出ないような激レアの確立を引き当てる可能性は高い。
と言うかたぶんそれの確定になるはずだ。
「これ、やばい?」
無言で周りの全員が頷いて俺から……あの卵から離れて行く。
ならばそういうことだ。
引き当てたんだ。
よし! 変な物が出てきたらすぐに吹き飛ばそう。
なんですぐにやらないかって?
ちょっとの好奇心と恐怖ですね。
攻撃の瞬間に卵がバリンッといってやられてしまうと言う可能性を引き当てる……ということが考えられる。
とか言ってしまうと何をしてもダメな未来しかないのだが。
「ちょい、おい、ウィリス」
「お前がやったことだお前がなんとかしろ。なぁに大丈夫だ、ここの生態系ならヤバいのしか居ないから……ほら、ちょっとくらい増えても変わんね」
なんて言って全員が逃げていく。
そして俺だけが残され見える範囲に誰も居なくなって数秒。
「おっ」
ピシィッ! と。
卵の殻に亀裂が走った。




