ハルピュイアの少女-4
空中でいきなり放され、勢いだけで落ちながらヒューンと。
木の枝を集めて作られた巣に叩き付けられた。
突き出た枝が服を貫通してあちこちに刺さり、擦り傷だらけで……普通に瀕死だぞこれ。
魔法で一気に傷を塞ぎながら、あふれ出た汗を拭う。
不味い、ここからどうすればいい、頭の中は結構な速度で解決策を練るために回っていた。
何もしなければ、何も出来なければ、このまま変なところでデッドエンドだ。
いやもしかしたら何かしても終わりか……?
なんにしてもこんなところで死んだら誰にも気付いて貰えない、たぶん分かる死体が残らないだろうから永遠の行方不明だな。
「やべぇなぁこれは」
ブワァッと風が吹いて、ハルピュイアが飛び去って行く。
たぶん次の犠牲者を狙いに行ったんだろう。
逃げるなら今のうちなんだが、回りがどこもかしこも地雷だらけなのに一歩を踏み出すことなんてしたくない。
とは言え動かなければ確実に喰われる。
これはデジャブか?
それとも強制イベントなのか?
踏んだらスケさんが来そうな予感どころではなく、動いたら確実に踏む方向でイベントが進みそう。
いや絶対進む。
だってスケルトンは……絶対踏むなよ、俺!
絶対にだ!
押すな押すなで押せっていう振りじゃないからこれは!
動いて地獄を見るか、このまま喰われるのを待つか、俺は逃げる!
慎重に足の踏み場を探し、バランスを崩しても手をつける場所を確保しながら素の縁まで移動する。
下を見ると霞んで地上が見えやしない。
飛び降りるなんてのは超能力持った人がやること……俺の役に立たない魔法は知らない子。
回れ右してバキッ☆
足元みりゃ枝の下に白い欠片。
「あっ……」
それありなのか。
いやありだ。
トラップなんていうのは完全に不意打ちで……。
まあいい、踏んだものは仕方ない。
踏んで足を上げたらドカンッの古いタイプじゃない、これは踏んだ瞬間に地獄が始まるやつだ。
目の前で地獄の準備が瞬く間に……枝の隙間から骨が次々と浮かび上がって組み合わさってスケルトンが溢れ始める。
だけど今回はそれで終わりじゃない、スケルトンが組み合わさって更に大きく……なりすぎだろ、ありゃ。
『スケルトン合同体』……危険度S。複数のスケルトンが合わさり巨大なスケルトンになったもの。倒すためにはすべての頭を破壊する必要あり。なお頭は一定時間で修復される
解析を使って見ればそんなもん。
そんな、もん。
「冗談じゃねえよ!」
頭蓋骨がぱっと見で三十以上、しかもやけに頑丈そうな肋骨……骨の鎧? の中にまでびっしり。
あんなの壊しようがねえよ!
しかも普通のスケルトンまでたっくさんいるし、ついでに解析かけるか、こっちはどうだ?
『スケルトン』……危険度E。死んだ生き物の骨に霊魂が宿り、動き始めたもの。基本的に身体を構成する骨の半分を砕けば消滅する
なんで同じ骨なのにここまでランクの差があるんだろうね!?
まあ、どっちも俺にしてみれば超危険な存在に変わりは無い。
半包囲、しかし後ろは飛び降りて死ぬしかないから完全包囲か。
距離を取ろうと迫ってくるスケルトンから逃げるように、巣の縁に沿って下がると、コツンと別の何かを蹴った。
この感じ、骨じゃない、でも。
「これ以上の厄介ごとは嫌だぞ……」
視線を向けるとラグビーボールくらいの大きさの卵だった。
ダチョウには敵わないが、それでもなかなかにでかい卵だな。
しかも……なんというか……こんなところにあるんだ、あれ以外ありえない。
一応解析。
『ハルピュイアの卵』……生で良し、焼いて良し、完全栄養食品。魔力を通せば・・・
なに最後の意味深な一文は!?
というかね、あんな生き物の卵なんて食べたくないのよ!
よし! まず魔力は絶対に与えないぞ。
絶対このパターンはよからぬことが起こる。
そして現在俺は絶賛、命の危機!
どうするよこれぇぇぇええ!!
慌てているうちにもスケルトンが近寄ってくる。
今回は幸い? だろうか、武器を持っているやつがいない。
いやいや武器なんてなくてもこの数が武器だろう。
囲まれて、近場の一体が殴りかかってくる。
魔法で吹き飛ばすか、ダメだ巣が壊れるかも知れない。
自ら死を選ぶなんてバカはしたくない、俺は生きて帰る!
「やってやる」
スケルトンの拳に受け止めるのではなく、殴る。
バキッ! ボキッ! バラバラバラと。
長い間、こんな場所で野晒しなんだ。
いくら頑丈な骨でも脆くなるさ。
雨風に晒されて溶けて崩れて。
やれると分かって、こっちから仕掛けた。
体当たりで打ち崩して拳を振るってスケルトンを砕く。
行け――
「ごぁっ!?」
――る訳なかった。
調子に乗って回りを見てなかった、キングに軽く投げ飛ばされた。
固い、あいつだけやけに……新鮮な骨とでもいうか、かなり固い。
「っ……ってちょっと待――」
そして、体勢を立て直す前にキングが骨の拳を振り上げ、岩くらい余裕で砕きそうな拳を振り下ろした。
俺に、ではなく。
俺の足元に、だ。
それの意味するところは、即ち、巣の崩壊。
つまりつかめそうなものが何もない自由落下への片道切符と地面への激突。
未来は見えた、俺は死ぬな。
「うっそぉぉぉぉぉーーー!!」
永遠にも感じられる数秒で大樹の枝が、つかめ――
「がふぁっ!?」
――めずに思い切りぶち当たり、木が見えて鋭い枝葉に体中を切り裂かれて地面に激突した。
いま……嫌な音が、なんでグシャッて感じの……あぁ、脇腹にふってぇ枝が。
「く、そ……なんで、だよ」
内臓が溢れ出すような、俺の中身が、命が流れ出て……。
嫌だ、死にたくない。
振ってくる骨の雨に混じって、固く白いものが背中に落ちて血が溢れた。
はやく、治癒を、傷を塞がないと。
薄れ行く意識で、俺は使える中で最大の生属性の魔法を思い浮かべた。




