ハルピュイアの少女-3
緩い風が髪を揺らして、暖かい日の光にこのまま眠っていたくなる。
人はどんなに大きくなっても、惰眠を貪り続けるニートの素質を……。
…………。
なんで揺りかごみたいに揺れている?
なんで妙な無重力感がある?
目を開けば地上が霞んで見える。というか下に雲と鳥が見える。
まだ寝ぼけてるとか言うわけじゃなくて、なんか俺の体をガッチリホールドしてるデカい鉤爪がある。
「あの、これ放してくれません?」
言ったところで放してくれるわけもなく、適当に暴れてみるけどびくともしないどころがギュッと内臓を吐き出しそうなくらいに強く掴まれた。
あれだ、握り潰す系のモザイクに……なんてなりたくない。
「やめでっうぐっ」
吐きそうになるが我慢だ、吐いたらダメだ。
そんなことをしていると今度は緩められて落とされるかも知れないという恐怖が。
「放さないでぇ……」
こんな下から見れば空の彼方というような高さで放り出されたらそりゃあもう、ほら、スプラッタ確定じゃねえか……。
見上げてみれば、俺の体をガッシリと掴んでいる鉤爪の主が単なる鳥ではないち分かる。
胸の辺りから上が人間、下と腕は鳥の体。
そう、もろに魔物だよ!
いくら上半身が裸の女、おっぱい見えてもムフフじゃないよ怖いのよ!
「なんでこうなった……」
ちょっと状況を整理してみようか。
昨日は焚き火の近くでリナさんと一緒に寝たはずだ。ピンク色の展開はおろかお触りもチラ見えすらもなかった。
そして目を覚ますと鳥のような魔物に掴まれて行先不明のフライト中。
整理するまでもなく訳の分からん状況だな、うん。
離陸前に掴まれた時点で起きない俺もアレだけど、ウィリスとかリナさんとか他にもラグナロクの人らいたじゃん。
魔物が来たら起こしてくれたらいいのに何でこんなことになってんのだろうか。
「…………。」
暇だよ。
やることじゃなくて、やれることがない。
……解析でもしようか。分からないことがあったら即検索、暇があったらネットサーフィン。
これ現代っ子の修正不可能な習性。
『ハルピュイア』……ユグドラシル及びその麓の大樹に生息する。危険度S。その翼で大空を飛び回り、地上の獲物を狙い、生け捕りにして巣まで持ち帰り啄ばむ
絶望的の一言で片付けていいですかこれ?
「お、鳥がこっちに――」
ブオウッと小型飛行機のような……違った、鳥じゃなかった怪物だった。
つまり魔物にアブダクトされた俺は暴れて逃げることも出来ず巣に持ち帰られて血みどろの惨劇に放り込まれるのか。
ってか”地上の”獲物を狙うんだろ? 俺、地上にはいなかったよね? あれ間違いなく木の上だったよね?
……もういいよ。とりあえず逃げる方法を考えよう。
ここで暴れる、運がよければ放して貰えて落ちてスプラッタ、却下。
巣に着いてからファイア!! 巣が崩れて転落以下略か俺が焼け死ぬ可能性あり、却下。
巣ごと氷漬けにする、俺が凍え死ぬ可能性あり、却下。
触手を……そんなもんで押さえつけられるか? って種がないんだった、却下。
最後は壁抜けならぬ床抜け、これも却下。
床抜け=飛び降り=死亡、だからな。もしかしたらあのグリフォン的なのに喰われるという別の展開に繋がるかも知れないけど……結果は俺の死に変わりねえもん!
助かる方法? なんもねーよ。
いや待て、鳥だ、鳥だぞこいつ? 三歩進んで忘れてくれる鳥頭なら巣に着いて三歩歩いてからのダッシュで……。
巣が見えてきた。高い木のてっぺんにそのまんま鳥の巣を大きくしたバカデカイ巣がある。
ダッシュはそのまま墜落か、ダメだ。
何かいい方法はないだろうか……目をこらせば巣に白いものが見える。
「卵か? たくさんあるな」
人質ならぬ卵質にでもして……違う! 頭蓋骨!
人の頭の骨だ、散らばる白い枝のようなのも人の骨だ。
ハルピュイアが高度を上げて、進路を調整する。
やばい、このままだと喰われる以外の未来が見えない。
まずいまずいまずいっ! 冷や汗を流しつつ脳をフル回転させて解決策を練る。
このままじゃ変なところでジ・エンドだ。こんなところで死んだら間抜けにもほどがある。
普通なら気配に気付いて起きて戦うようなパターンだろ。まあ捕まった俺にそんなこという資格はないんだろうけど。
主人公なら主人公補正とか……んなもんねえわ、あったらこんな異界送りとかされてないだろうし。
あぁどうしようどうしようこれ!
爆撃前みたいにアプローチコース入ってるし、俺は巣に叩き付けられる運命か。こうやって犠牲者を瀕死にして雛鳥の狩りの練習に使うんだなクソッ!




