ハルピュイアの少女-1 >> ユグドラシルのどこか
目が覚めると、夜空が広がっていた。
肌寒い風が下から吹き上げる。
上は真っ暗な夜空、下も真っ黒な……下、が……ない?
別に落ちているわけじゃない。
崖から顔だけ突き出して下を見ているような……つまるところ落ちる寸前というやつだ。
しかしなんだろうかこの感触、寝ている地面らしきものを触れば木のような感じ。
もしかしなくてもここって高い木の上ってんじゃ……。
朝起きたら降りられないとかそういうことはないと思いたい。
再び風が吹き上げて、顔を引っ込めて起き上がれば明かりがあった。
太い枝を組んで中に細い枝を入れた結構いい感じの焚き火だ。
パチパチと音を立てながら燃える焚き火の中には、見たことのない植物が色々と放り込まれている。
しかしなぜ焚き火がある?
俺には焚き火を熾した記憶はない。
というか……そもそも記憶が。俺はいったい今まで何していた?
「ふむ……」
あぐらかいて座り込んで。
思い出そうにもピンポイントに記憶が抜けている。
最後に覚えていることと言えば、そうだ、ベインが指を鳴らして……。
それで、それでどうなった?
それから何があって俺はここに居る?
思い出そうとすればするほど記憶が遠ざかっていくように感じられる。
再び寝転がれば体のあちこちからズキズキ響く痛みが出る。
これは地面に直に寝ていたのが原因の痛さじゃないぞ。
これはそう、殴ったり蹴ったり叩き落とされたりしたときの痛さだ。
思えば引き籠もり生活でネット漬けの時にも何度かあったな。
痛みまで忠実に再現しますとかなんとかで、終わった後にズキズキ響く痛みが現実でもつきまとうとか。
幻痛とかシャレにならんて。
寝て地面に背中が当たっていたい、ならば起きようかと動けば。
「ん?」
服を引っ張られる感触に視線を落とせば、女の子がすやすやと眠っていた。
彼女の傍らには見覚えのあるハルベルトが無造作に置かれている。
「リナ、さん?」
俺はこの女の子を知っている。
知っているけど、どこでどうやって、なにがあって知り合ったのかが分からない。
まったく思い出せない。
ベインが指を鳴らすよりも前に知り合ったと言うわけじゃない。
だったらすっぽり記憶が抜け落ちてる間に出会って……ということなんだろうけど。
うーん……。
リナさんよりもハルベルトの方があとちょっともう少しで思い出せそうだけど引っかかって出てこないって感じなんだよな。
どこで見た、どこで。
仮想空間で俺が振り回してた訳じゃない、そもそもあんなモノは博物館とかの歴史資料に……。
いやでも俺がそんな退屈な場所に行く訳ないし、引きこもりが人混みに飛び込める訳がない。
考えに考えて、考える内に忘れて。
「あれ、なに思い出そうとしてたんだっけな?」
なんていう間抜けだけどよくあることになる始末。
バカか俺は。
「つーか、誰か居ないのか」
焚き火がある以上は誰かが用意してくれたということだ。
さっとあたりを見渡しても誰も居ない……というか見えない。
真っ暗だ。
そこそこ離れたところに別の焚き火がある。
影からして何人か座ってるな。
「行ってみるか」
足元が真っ暗で怖いけど。
たぶんあいつらが焚き火を熾してくれたんだろう。
なんでこんな離れたところに置いたのかは知らないけど。
でも焚き火がなければ少し肌寒いから体調を崩していたかも知れない。
一応、お礼でも言いに行くか。




