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アナザーライン-遥か異界で-  作者: 伏桜 アルト
a dream of beginning [始まりの夢]
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記憶遡行-3

 背中にドライアイスを押しつけられたかのように、急に頭の奥がすぅっと冷えていった。

 いくらなんでもこれはおかしい。

 明晰夢って言ってもこれははっきりとしすぎだ。

 それに頭が冷えてようやく気付いた、妙な違和感のようなものがある。

 意識を鎮めてみれば、ちくちくと刺すような緊張感に似た感じが。


 ぐるりと部屋を見渡す。

 見慣れたはずの俺の部屋……じゃない。

 何かが違う。

 どこが違う、何が違う。

 考えていれば部屋の隅からべちょりと何かが落ちる音が響いた。


「なん――っ!?」


 振り返れば机の上にどろどろでねばねばの黒い液体、溶けたアスファルトのようなそれがしたたり落ちている。

 本能が逃げろと叫ぶ。

 ソレは俺が触れていい存在じゃないと。

 ソレは俺という立場を狙っていると。

 ソレは俺を殺そうとしていると。


 気付いた瞬間か。

 足下のがさっという音に目を向ければ、寝ていたはずの(ソレ)が動き始めていた。

 腐ったような黒い眼光にまがまがしい赤い光。

 突き出された腕を躱し、躊躇いなく窓ガラスを突き破って部屋の外に飛び出た。

 速い、タッチの差でまぐれで回避できたようなものだ。


「くそっ、なんだってんだよ」


 ここは現実なんかじゃない。

 それは分かっているけど、だけどそれを証明できそうにない。

 現実じゃない、仮想空間でもない、夢かと思っていたけどそれも違う、あの魔法で創った精神世界とも感じが違う。

 だけど俺はこれが現実じゃないと感じていて分かっている……証明できるか?

 今ここにあるすべてが偽物だって。


「…………来るか」


 ひゅうっと風が吹き抜けて、寮の敷地にある木々をざーざーと揺らす。

 その風は優しい桃色をしていた。

 そして、俺の部屋が弾け飛んで中からソレが出てきた。

 異質な存在、黒く染まりながらどろどろした何かを纏うソレ。

 あっという間に人と呼べない何かに変貌したソレが――


「冗談じゃ――ねぇっ!!」


 飛びかかってくる。

 思考の奥深くが怖がっている。

 あれは本当に危ない物だとシグナルを発している。

 で、どうしろと。

 逃げられる様子じゃない。

 かといって戦えば殺されそう。


「や、やってやらぁ……」


 怖い、逃げたい。

 逃げられない、殺される。

 やるならまずは距離をとろう。

 すぐに身を翻し、足を前に送り出すと同時に地面から突き出した真っ黒な手に掴まれた。

 動けなくなった俺に異質なソレが迫ってくる。


「来るな……来るな! 来るなぁぁぁ!!」


 ソレの黒くどろどろとした腕が振り上げられると同時に、声が響いた。

 聞き慣れた機械音声だ。


『優先順位再設定・機密保護を最優先』

『一時的に記憶領域を開放・戦闘用演算補助開始』


 黒い腕が振り下ろされる。

 この黒いボディに赤いコアとくれば、災害級の魔物だろうか。最高クラスの魔法使いが束になって挑んで全滅したとかいう……なんかネットニュースで見たけど、北極圏に出現して魔法国の部隊を全滅させたとかいう……。

 俺が勝てる理由がどこにあるか。戦闘のプロフェッショナルが束になって負けたのなら、ド素人の俺が一人でどうなる?


『被検体No.――――・CODEラクカラーチャ解放』

『被検体No.――――・CODEルージュマッドドガー解放』


 ま、やってみなくちゃ分からない。

 ――だって、あの時だってやってみたら意外にいけちゃったんだから。


「どけぇ!」


 足裏に爆発を込めて蹴り上げる。

 サッカーボールのようにいい音を立てて吹っ飛んだソレを注視しながら、起き上がって構える。


『稠密防壁部分解除――魔法ライブラリへのアクセス権を一時解放』

『個人データ認識――使用可能魔法系統ロード』

『周辺状況認識――適正な魔法をフィルタ・ソート』


 頭の中に次々とぼんやりとしたイメージが浮かび上がる。

 数年前の俺……ずいぶんとやらかしていた頃の記憶、どこかで見た魔法の形。


『ブレインチップ・オーバークロック』

『戦闘用魔法演算領域解放』


 ぐっと手を握りしめれば、拳の隙間から炎が漏れ出す。

 赤熱した足下から柔らかい熱風が吹き上げる。

 ソレに視線を向ければ視界に情報が展開される。


「来いよホロウ、絶滅危惧種レッドリストの魔物だろうが容赦しねえから」


 両手に魔法を用意、同時にソレが四つん這いでゴキブリのような気色悪さを併せ持って迫ってくる。


「蒼焔樹」


 詠唱と共に右手の炎が青く、熱く、そして静かになって大地に落ちる。そこから凄まじい勢いで焔の根が溢れ出し、ソレを目掛けて根を伸ばす。


「蒼焔雨」


 続けて詠唱すると左手の炎が同じようになり、空に向かって一瞬で彼方まで飛んでいく。

 たったこれだけでごっそり魔力を持って行かれた。視界がかすむ、力が思ったように入らない、動けない間に、予想外の光景が目の前に広がる。

 蒼い根がソレに絡みつき、空に向かって大樹が伸びたかと思えば、破壊されて蒼い破片の雨が降る。そしてソレに目掛けて降り注ぐ蒼い炎はソレに蹴り飛ばされて俺に襲いかかる。


「マジっすかぁ……」


 逃げようと思えば足がもつれて倒れ、次々と蹴り飛ばされる炎が俺に迫る。

 ……どうしようもねえよ、おい。


「は、ははっ……」


 なんだよ、嫌なことまで全部思い出して自滅かよ。

 くそっ……考え無しに消費魔力が多いならやれるとか思ったのがダメだったのか。最初の一手で自分から敗北をとったようなもんだな、こりゃ。

 終わった、全部終わった。そう思って顔を上げれば、空中で別の黒いモノに絡め取られてじたばたと暴れるソレがいた。


「……はい?」


 黒いモノを辿っていけば屋根の上にベインの召喚獣らしきアレの姿が。


「アテリ……ア、ル?」


 器用なことに降り注ぐ炎の雨をも絡め取って食べ、抵抗虚しく飲み込まれていくホロウの姿もある。

 …………今分かる範囲で言えば、あの化け物は一匹で国が崩壊するクラスのものであり、アテリアルはそれを片手間に喰らってしまうほどのモンスターということか。


注意・ドライアイスは商品名です。濫りに使用しないように。

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