記憶遡行-2
ちょっと待てよ。
どこかで、どこかで見たことがあるぞあの後ろ姿。
どこだ? 俺はかなり前と言わずに見ている。
ああ……そうだ。
管理人……寮長のお姉さんの後ろ姿、それに黒い翼をつけて錫杖を持たせてみよう。
……………………。
あら不思議、もろにあの堕天使にそっくり。
……上下ダボダボのジャージ着せてみたら本人じゃないか。
まさかな……いや、そんなまさかね!?
ないよねそんなこと!?
いやでもほら、世の中には他人の空似という言葉がある。
三人は似ている人がいるとかいうじゃないか。
…………。
現実的に考えよう。
あそこは異世界、もしかしたらIFの平行世界かもしれない。
だったら似ている人がいたとしてもなんら不思議じゃない、おかしくない、セーフセーフ。
あぁ、なんだろう、否定するほどに肯定しているような気がする……。
そうこうしているうちにまた世界が切り替わった。
今度はガンッ! ガンッ! と部屋のドアを蹴る音が響く。
「おーい、開けろ引き籠もりー」
その言葉に嘲る色はない。
その声はあの子のものだ。
大人たちは必ず「出て来い!!」だの「いつまで閉じこもっているつもりだ!!」だのと言ってきたが、無視しているといなくなる。
だがあの子だけは違った。
「開けないなら開けるぞー」
ガチャッと音がして物理的な鍵が解錠される。
続けてピピッと電子音が鳴って電子ロックまでも解除される。
そう、無視しているとあの子は持ち前の技術で開けてくるのだ。
あの時から思っていたけど、これって犯罪では?
あの子は俺の部屋に、心に土足で踏み入ってきた。
とても強引だったが、不思議とそれは嫌じゃなかった。
片手にゴミ袋を抱え、顔にタオルか何かを巻き付けて、部屋を勝手に掃除し始める。
大抵の場合は、自分から見るときちんと何が何処にあってこれは整頓されている。
だが他人からみると散らかっているしゴミだらけ、なので手当り次第に掃除されてよく置いておいた物の配置が分からなくなる。
そんなことが多発するだろう。
だけどあの子は違った。
俺の目から見ても明らかにゴミと言えるものだけをゴミ袋に放り込み、片づけなきゃと思って放置していたところだけを片付けて、最後に部屋を強制換気してから出ていく。
まるで俺の思考を読み取っているかのような行動だ。
ちなみに最後の強制換気はいつものこと、もうお決まりになっている。
そういえばあの子の部屋はどこだろうか。
ついて行ってみようか。
部屋を出たあの子の後をつける。
追体験……夢だというのに細部まではっきりと見える廊下を進み、二階へと上がっていく。
そのままついて行くと、ある部屋に入った。
「207? ……俺の部屋の真上だったのか」
何の気なしにドアに手を掛けたが動かなかった。
当然か、鍵がかかっているんだもの。
排水溝に水が流れていくように光景が変わった。
これは……いつだったか。
確か薬を一瓶、一気飲みして、それで意識が落ちて……で、それで起きてから吐いた時のやつだ。
見下ろしている過去の自分が起き上がり、床を這って吐くのを我慢しながらトイレに向かっていく。
「……なんつうか、思えば包丁で首切ったほうが……って、ん?」
今、確かに起き上がってトイレに入っていったはずだ。
だというのになぜここに目を瞑ったままの自分が寝ている?
あれ?
なんでだ?
…………ちょっと待てよ
これは俺の記憶の追体験だよな
なら、なんで俺の知らないはずのことまで体験できる?




