彼女の想い-34
ゴヅッ! と固いもので頭を叩かれ、その激痛で飛び起きた。
「いったぁぁぁぁ……」
血が出てないだろうな。
人間の頭皮というのは皿の角で叩いただけでも血が出るほど弱いんだぞ。
それにしても痛い……痛い?
あの高さから落ちて生きてる?
「生きてる!? 俺生きてる!!」
「うるさい」
もう一度ゴツンと固いもので叩かれた。
「なにすんだ!」
見ればそれは金槌だった。
しかもなぜか柄が短いアンバランスなハンマー。
「お前なあ、結構ギリギリだったんだぞ? そこんところを理解しているか? しかしまあそこのアホもアドレスのない空間をどうやって上書きしたんだか……まったく」
酷く呆れた表情ではぁとため息をつく。
レイズはベインにやられたのか倒れている。
あれを倒しただって?
ベインあんた……どんだけ強いんだ?
「ほら起きろアホ」
肩をサッカーボールを蹴るような感じで蹴ると、レイズが動いた。
「……っつぅ、ベイン、なんでミョルニルを持ってやがる」
「そんなことはどうでもいい」
レイズが頭からだらだらと血を流しながら起き上がり、ベインはミョルニル? とやらを打ち鳴らす。
「お前のせいで計画が狂っただろうが、どうしてくれる」
「別にいいだろ、各個撃破すれば」
「よく……ない!」
思い切りミョルニル? を地面に叩きつける。
それと同時に空間全体に白いヒビが走り抜け、砕け散った。
周りにはさっきまでと変わらない路地の光景が広がっている。
ただ違うのは、あのじいさんとお姉さんがいないくらいか。
周りを見ているとゴツンと音がした。
見ればベインがミョルニル? でレイズの脳天を叩いたようだ。
すごい涙目、ありゃひでぇ……。
「俺はこのままセントラの機神どもを破壊しに行く。本来ならセントラの機神、ブルグントの現神、ラバナディアが呼び出した神……対比的に古神と呼んでるやつをぶつけて勝手に消えてもらう予定だったんだがな。誰かさんのせいで古神が全滅、不必要な手間をかけること――」
「もういい、もういい。愚痴は後で聞くし埋め合わせもなんかしてやるから」
「言ったな」
とてつもなく不機嫌そうな顔をしつつも叩きつけるのをやめ、レイズの顔にしまったという後悔が滲み出た。
「なあ、ベイン」
「なんだ?」
「ちょっとばかしサービスするから、一ついいか?」
レイズがベインの肩に手を回して、引っ張っていくと内緒話を始めた。
俺にほとんど聞こえない距離。
いったい何を話しているんだろう。
というか、あの状態はガラの悪い姐さんが、ヤンキーの兄ちゃんに絡んでいるように見えてしまうからあら不思議。
「―――――――てなことをだな」
「――――それじゃ―――――だろ」
「そこを―――――――頼む、――から」
「――――なら――――でどうだ?」
レイズが顔色を変えて、
「い、いいよそれくらい、やってやる」
そう言い、腕を離してベインが俺の方に向かってくる。
「悪いな、アキト。レイズのことを恨まないでやってほしい」
何を言っているんだこの人は?
なんて思った瞬間には、地面に組み伏せられて動けなくなっていた。
「なにしやが――!」
光が爆ぜた。
レイズがブレードを片手にあの子に向かって行く。
「やめろっ、放せ、放せベイン!」
「すまん」
しっかりと押さえつけられ、どれほど暴れても抜け出せない。
魔法を使おうとすると、形になる前に霧散する。
「やめろ……」
なにもできない?
ふざけるな、俺はあの子を守るために。
「やめろ! やめてくれ!」
レイズのブレードがあの子に振り下ろされる。
人の体なんて簡単に切り裂けると言っていたブレードが。
反射的に目を瞑ってしまった。
……なんで、こうなる?
結局、俺は、俺には何もできないのか……誰も、守れやしないのかよ!
ザグジュッ!
聞きたくない、嫌な音が響いた。
肉を斬り、骨を断ち、残った肉を引き千切る、水っぽい音。
聞いたことがある、人を叩き切るときの音。
ベチャリ……
血が滴る音がよく聞こえた。
「くっ……うぅ」
苦悶の声が。
目を開き、顔を上げてみれば、レイズの右腕ごとブレードが斬り飛ばされ……千切り飛ばされていた。
何が起きた?
「どう……し、て」
レイズは信じられないと言った表情で、俺の後ろ側を見ている。
無理矢理に首を回してみれば、なにかを投げた格好の、
「リナさん?」
「如月隊で教わったよ。恩を仇で返すなって。でもね、アキトには怪我を治してもらった、その子には――――だからね、それくらいの恩返しくらい、ね」
肝心なところが聞こえなかった。
そして、レイズを恐れずに腕を伸ばし、光が集まってハルベルトを形作る。
「そう、か」
「だから、これが――」
「黙れ。どうやって貫徹したかは知らないが」
レイズが左腕を向ける。
ぷつり、と、糸が切れた人形のようにリナさんが倒れた。
「ここで終わりだ」
そしてレイズは、残った左腕に再度ブレードを伸ばし……振り下ろした。
青いあの子が……。
「あ、ぁ……ぁ、うああああああああああああああああああああっ!!」
視界が引き伸ばされるように歪んで、暗くなっていく。
転がったあの子の顔。
広がっていく血の池。
ものの認識が溶けていく、何が何だか見分けがつかなくなって――
「時間切れだ、ついでにそいつも放り込んでおけ」
どさりとリナさんが俺の上に落とされた。
なんで…………どうして?
なんなんだよ…………この、虚しさ。
なんで、俺は……!
引き伸ばされた視界がだんだんと闇に落ちていく。
何も見えなくなる。
『アワード、救われぬ者を獲得しました』




