彼女の想い-32
「起きろアキト」
乱暴な声が耳を叩き、肩を蹴られた。
「ん……んぁ? あれ?」
う、動けない?
「起きたかな?」
目、動いているよね。
なんでこんな真っ暗な場所にいるだろうか。
「おい、聞いてんのか? それとも目ぇ開けたまままだ寝てんのかこら」
レイズの手が頭の上に翳される。そしてそこに太陽――
それを見た俺は瞬間で飛び起きた。
「起きてます! バッチリ起きてます!」
「ならよし」
太陽が霧散して、死の恐怖が消える。
「言いたいことを言え。オレはこういうタイプの面倒事は嫌だからな、手っ取り早く、要求は力尽くでだ」
「力尽く?」
「いいから、さっさとお前の言い分を言え。オレも暇な訳じゃない」
面倒な話し合いは一切抜きでやりましょうってか。
いいぜ、俺としては理論武装なんかないからな、いつかのように負ける自信がある。
勝てないならより勝てる可能性が……ないな。
力ならあっちの方が遥かに上だ。
まあいいか、やるだけやってやる。
「何であの子を殺そうとした」
「やっぱそれか。そうさなぁ……お前は自分の一部だからと言って、悪性腫瘍を放置するか? しないだろ」
「あの子が何したってんだ……なんでそうまでするんだよ!」
「なに、単純に操られて問題を起こしただけだ。そんな不良品は要らない、処分するだけだ」
処分だって? こいつは……こいつもあの堕天使と同じで、人の命をなんとも思ってないのか。
「アキト、お前の言いたいことはよく分かるよ。オレも同じことを何度も経験しているから」
「だったらなんで同じことをするんだ!」
「色々と理由があるんだよ……力があってもどうにもできない理由が」
なんでそんな悲しそうな表情で言うんだよ。
まるでやりたくないのにやろうとしているみたいじゃないか。
「お前まで嫌な思いをする必要はないんだ……だから、さっさと交渉始めようか」
白い光がレイズの周りに揺蕩う。
轟音が炸裂した、空気を乱暴に押し退ける轟音が。
そして視界を焼き尽くす閃光が迸る。
アーク溶接……の?
「頼むから、おとなしく負けてくれ」
すっと腰を落としてレイズは構える。
「なんだよそれは」
「アーク放電を魔法でちょいと弄ったもんだ。人間の体なら簡単に斬れるぞ」
そう言って、軽く腕を振るうと閃光も動き、ブォォンと音が響く。
白く細い五本の指から放射されるブレードは凄まじい光を散らしている。
「条件は簡単、勝った方が全部持っていく。それだけ」
「あんた、俺に勝たせる気がねえだろ」
「もちろん……だから、ガチの殺し合いをしようか!」
突然水平に振るわれた右腕。
身体を刈り取るかのような動きでブレードが迫り、咄嗟に伏せて躱した。
起き上がればレイズは離れたところにいて、左手にもブレードを創りだして何やら別の魔法まで詠唱しているようだ。
どうする。
どうすれば勝てる。
すべての面において俺は劣るぞ。
あぁ、そう言えばキニアスが言っていたな。
『リーダーは相手の魔法を視る、壊す、盗む、なんでもありだからだ』
そんなことを。
つまり魔法による攻撃防御は意味が無い。
だからと言って力勝負に持ち込むことはできない。
まず近づけないからな。
それに、戦い慣れしたか細い少女とヒキニート。
素の力で殴り合っても負けそうだな。
何を選んでも最終的に行き着くところは敗北だ。
無駄と分かってもやらなくちゃいけない時が、逃げちゃ為な時がある。
全力でやろう……殺すつもりで。
あの子かレイズか、だったら俺は、殺すよ。
「じゃあな、アキト」
「さようなら、レイズ」
炎や水、電撃が飛んでくる。
俺は目の前に氷の壁を展開しつつ、レイズの真上にプレス機……バハムートを召喚した。
真っ黒な空に紫色の魔方陣が広がり、どうにもパッとしない見た目のバハムートが落ちる。
潰れてくれ。
「はっ?」
レイズが気の抜けた声を出した。
水っぽい、肉が潰れるような、裂けるような音がした。
赤色が飛び散った。




