彼女の想い-31
何気ない、そういってはおかしいかもしれないが、どこも同じように破壊された路地のはずなのにここだけは違う。
何かが引っ掛かる。何か異質なものを感じる。
青い色の女の子の靴が片方転がっていて、路地の入口を境に何かがぷっつりと切り替わってしまっているような。
嫌な予感が全身を這いずり上がる。
まるで大量のゴキブリやムカデが体に這うような悪寒が感じられる。
サイズの小さなその青い靴は、瓦礫の間を走り抜けて、焼けた鉄の上でも走ったのかぼろぼろだ。
それでもここにおいて行かれて時間が経っていないことを感じさせる。
俺は路地の奥を眺めた。
そこだけが妙に暗い。
「…………っ」
一歩踏み込んだだけで、旧式の地雷でも踏んだかのような足から体、体から頭へと、得体のしれないものを踏んでしまったときのような感覚が絡みついてくる。
「なんで……だよ」
もう片方の靴が転がっていた。
もう一歩。
見たくない現実が近づいてくる。
さらに進む。
呼吸と鼓動が早く激しくなる。
暗い路地に入る。
壁についさっきついたほどに新しい傷跡があった。
「レイズ……ざけんじゃねえぞ!!」
ただ怒りだけに任せ、身体の中から溢れてくるそれを、すべてをレイズへ向けて殺す気で放った。
そして、俺の殺意がレイズに届くよりも先に、後ろから太陽の如く輝く光と、魂まで凍てつかせるような冷気の塊がレイズに飛ぶ。
しかしそのすべてがレイズに傷をつけることはなかった。
見えない壁のようなものに掻き消された。
「ふぅっ……最速で消し飛ばして戻ってきてみれば、そういうことか」
俺は無駄と分かりながらもすぐ次を放てるように両手にそれを顕現させる。
レイズを攻撃する理由はただ一つだ。
この一つだけで俺は他人を殺すことができる。
レイズが今まさに青い髪のあの子を殺そうとしていたから。
ただそれだけで、俺は…………大切な人を守るためなら俺は……。
「オレに手を出すことの意味、それがどれほど愚かなことか……お前たちは忘れているようだな」
ゆっくりとその白い悪魔の腕が上げられる。
そこから放たれる何かと、血のように紅い瞳の貫く眼差し。
「ひぃぃっっっ!」
怖い以外の何物でもない。
これを殺気と呼ばずして何を殺気と呼ぶ。
足が震え、膝が笑い、体の芯が恐怖を感じ、その場にへたり込んでしまう。
「フレイアと……そっちは何て呼べばいい? オーディンか、オティヌスか、ヴォータンか、アルフォズルか……」
レイズが音もなくゆっくりと近づいてくる。
あの子は虚ろな瞳でこちらを見つめて……。
くそっ……このままやられるかよ。
恐怖を無理やりに殺して立ち上がる。
ははっ、膝が震えてらあ、これは殺されるな。
「まあどれでも構わんか……。さて――」
じいさんが後ずさりながらも青白い炎を放つ。
しかしそれは右手で払われる。
「作業的な戦いは――」
お姉さんが俺の腕にギュッとしがみつき、震えながら岩の塊のようなものを撃ち込んだ。
それは左手で叩き壊され、落とされた。
破片がチリンチリンと金属音を響かせながら飛び散った。
「退屈なんでな――」
リナさんが路地の外まで下がった。
あぁいい判断だよ。
あなたは確実に殺られるだろうから逃げてくれて正解だ。
「世界、壊してみようか」
純粋な笑顔、場違いな空気を纏ってそう言った直後、本当に何の冗談で も なく 壊れ
-1-
原初の世界。
何もない真っ黒な世界。
光がないはずなのに存在を認識できる。
空気がないはずなのに呼吸ができる。
空間が無いはずなのに存在できる。
「さあ、始めようか」
何もない『地面』だった場所に突っ伏しているアキトを余所目に虐殺が始められた。
「そーら、逃げろ、逃げろー」
レイズは光弾を乱射しながら神を追い込む。
すでに魔法も魔術も破壊された上、神としての力も消されたモノは瞬く間に肉塊へと変えられていった。
ここはレイズの創りだした空間。
レイズがここにおける絶対のルールだ。
「さて、次は」
このまま殺してしまうには惜しい。
「起きろ、アキト」




