彼女の想い-27
「ぅ……ぁ、あ……」
うまく声が出せない。
喉が焼け付くようにひりひりして痛い。
首も寝違えたときより痛い……こんなのうつ伏せで数日連続して仮想に潜っていた時以来だ。
あぁ、喉だ首だ言う前に身体全体が悲鳴を上げているな。
いまどういう状態なのだろう?
感覚に意識を向けて、周りの状況を探ろうとした。
思うように力が入らない。
規則的に揺れていて、人肌の温もりを感じる。
鼻から流れ込んでくるのは鉄の、血の臭い。
皮膚で感じるのはべたべたした感触。
まさか俺って瀕死かな?
目を開けているけど、黒い死体袋に詰め込まれて搬送中だから視界が真っ黒なのか。
……いや、いやいやいや、それはないよ……ね?
ないよねぇ?
ないと願いたいよ!?
足を動かそうとしても動かない、下の方から力を入れてみたがダメだ。
手も……いや、手は動くな。
いざ動かしてみると思うように動かせなかったが、なにかこう、ふにふにとした柔らかいものを……。
なんだろうこれ。
もう一回ふにふに……した瞬間にドサッと落とされた。
痛い、そう思うと同時に優しい緑色の光が真っ黒な視界を照らした。
身体に力が戻ってくる。
ゆっくりと目を開けてみると、真っ白い太陽と血濡れの白い美少女が見えた。
これは、まあ、ね。
最速で土下座フォーム以外の選択肢が見えない。
「すみませんでしたぁぁぁぁ!!」
「いや別にいいけど……」
と、何でも無いように言いながら空の彼方に太陽を撃った。
放物線を描いて倒壊したビルの向こう側に消えたそれは、空を真昼のように明るく照らして大地を揺らす。
……い、いったいどこが消し飛んだ、絶対これは核並みの威力があるだろ。
「それにまあ、あの二人相手によくやれたな」
言いながら次の太陽を創りだす。
無詠唱ですかい……まあ俺もだけどさ。
「二人って、あの槍を持ってた?」
「そうそう。あれでも上から数えたほうが早いクラスの強さだからな」
よくもまあこの脇役的な俺が死ななかったな。
奇跡だぞ。
「……あの、それでその太陽は」
「長距離砲撃」
くるっと俺の方に振り向きながらもう一発撃つ。
血に濡れたこの美少女は、白の中にある怖い赤色でさらに妙な雰囲気を纏ってドキッとさせてくれる。
「ま、だいたい四十キロかな。沖合の艦隊が鬱陶しいから片っ端から沈めてる」
「はいぃ?」
言っている意味が少し分からない。
まるで夏の夜に蚊が鬱陶しいとでも言うかのように、艦隊が鬱陶しいと言う。
寄ってくる雑魚が鬱陶しいならまだ分からないこともない。
恐らくこの美少女には艦隊クラスですらも鬱陶しいと言える程度の雑魚でしかないと言うことか。
俺とは次元が違うな……。
「まあそう言う訳で……一応伏せとけ!」
レイズが叫んだ瞬間、遥か上空で光が爆ぜた。
降ってくるのは黒い点。
あれ、爆弾の雨だ。
「ちょっ、え、なんっ!?」
「クラスター爆弾だ!」
手に持った太陽を落とし、蹴って真上に飛ばす。
ほんの数秒後、超新星を思わせるほどの白い大爆発が空を消し飛ばした。
一撃で鈍色の空から雲や煙がなくなる。
「すげぇ……」
起こったことの規模の大きさに呆然としている間にも、レイズは数発どこかに撃つ。
とてもじゃないがあんな魔法は使えそうにない。
たぶんイメージして、そして発動しようとしたらその時点で気絶するだろう。
そもそも使えたとしてもこんなものは戦略核兵器並みだろう。
絶対に使わない、使いたくない。
「アキト、お前はこの魔法を使うなよ。後々大変なことになるから」
「あ、あぁ。使おうとは思わないし、たぶん使えない」
「そうだろうな、今は。でもそのうち嫌でも大規模な魔法を使わなければならない時がくる」
「例えばどんなときに?」
「戦争とか、か。行こう、位置が割れたからここにいたら砲撃される」
レイズが腕を一振りすると、道に転がる瓦礫や兵器の残骸が動いて歩きやすい道ができる。
あの子は逃げ切れたのだろうか……心配だな。




