彼女の想い-26
よくやったよアキト。
白き乙女の隊長格を相手に、それも二人も相手にして武装が何もないのによくもった。
あの水無月隊のシンとソラの姉妹に。
レイズはゆるりと立ち上がって、槍の穂先がアキトに叩きつけられる寸前で割って入る。
ここからは自分の出番だ、と。
例え心臓を貫かれ破壊されようが、頭を破砕されようが、果ては身体のすべてを跡形もなく消し飛ばされようが死にはしない。
自分という存在そのもの、そこに存在するために万物に割り当てられた"枠"を消されない限り、何度でも再生する。
そういう呪いが掛けられている。
だから、今度は自分の番だと。
「やらせない」
槍を受け止め、掴んで引き寄せて腕を捻りあげる。
「痛っ……って、え、ちょ、なんで死んだはずじゃ」
「オレがそう簡単に死ぬと思うなよ」
傷は完全に塞がれ、破壊された組織も元通り。
流れ出た血液も魔法によって補充済みだ。
「なんでこんなことをした? ソラ、シン」
「だって……レイズがこの世界を壊す為に異界の神を呼び込んだって……」
「誰がそんなことを言った?」
「鈴那に言われたの。だって大将のことを一番信頼している鈴那がそんな嘘を言うわけがないし……それに、大将は前にこういうことを……」
やったことがあるから、と。
「…………、」
気まずくなったレイズは黙るが、すぐに口を開く。
「通信ログを出せ。どうせ直に言われたんじゃないだろ」
二本の槍を持った少女、ソラが地面に槍を突き刺すと、胸の高さに手を上げて青いディスプレイを表示させて渡してきた。
表示されている内容は通信のログ。
確認してみれば確かに送信者の名前は如月鈴那となっている。
内容を聞いてみても、その通り。
しかし専用のプログラムを用いた認識で確認すると、可聴域外、高周波域にあるはずの証明データがない。
まんまと偽の情報を信じ込まされたわけだ。
秘匿通信網だからセキュリティも万全だろうと思い込んでいたが故に。
レイズがそれを教えると、二人ともうつむいた。
「オレ以外とこいつ以外に被害が出ていないなら別にいい。落ち込むな」
「でも、その……ごめん」
「構わない。それよりこれからアカモートを制圧しようと思うんだけど、お前も来るか?」
「城攻めね、仲間に死ねというの?」
「どういう意味でだ」
「アカモートの守備隊って大将の仲間が居たはずでしょ」
「あぁそれ。騎士団長に話しつけてあるから偶然任務で遠出しているってことで全員いない」
「……相変わらず手回しが早いことで」
「まあまあそういうところはどうでもいいじゃないか」
「どうでもいいって……」
少女二人は呆れた表情になった。
すべての魔法が使える為、いつでも声を届けることもできてしまうレイズは、いつの間にか誰かに何かを伝えていることがある。
二人の呆れた表情はこれから面白いことになるかもと、そう予感させる何かが混じっている。
「にしても人数揃えないとな」
「水無月はもうあたしらしか残ってないよ」
「ほかは?」
「それぞれの隊長とぉ……月姫かな。生き残りはこれだけ、離反した連中は知らない」
「うわっ、それは結構きついな。それと睦月のとこはちゃっかりアスガルドに逃げてるし、閏月は隊長が氷漬けで隊員は魔界に逃げてるぞ」
「っ、あいつらっ!」
「まあ怒るな怒るな。残りを集めておいてくれ、オレはちょっと市街地を片付けてから行くから」
「りょーかい大将。シン、行くよ!」
ソラは槍を引き抜くと、激しい戦闘の音が響き渡る市街に向けて走り出す。
「じゃ、いて、きます」
シンも一礼してソラの後に続いて走り出す。
二人を見送ったレイズは、自分の血でべったり汚れた手で気にせずにアキトに触れる。
内出血を魔法で癒すと、軽い麻酔をかけて背負う。
髪に染み込んだ血がアキトにべっとりと付いてしまうが、ここは我慢してもらおうと、背負って歩き始めた。




