彼女の想い-16 〉〉 中継界
眠りから覚めるような感覚。
ふと気付けば何もない場所にふわりと降り立っていた。
真っ白だ。
前を見ても後ろを見ても、上も下も。
一切の凹凸がない、まるでシリコンウェハーのように真っ平ら。
立っているだけなのに、きちんと水平な地面を認識できなくて視界がぐらつくような感じがする。
「ベイン? ……おい、どこだよ……ベイン!!」
叫んでも返事どころか木霊すらない。
もしかして……いや、もしかしなくてもこれは、転移ミスで俺だけ変なところにおいてけぼりということだろうか?
まさかここが次元の狭間とかいう場所なのだろうか?
運の値が恐ろしく低い俺ではそれがありえてしまう。
ちょっとどころじゃなくてマジで困るよこれ。
「だれかぁーーーーーー!!」
…………………………………………。
マジで誰もいないかよ。
突っ立っていてもどうしようもない。
というかどうにかなって欲しい。
イベントフラグすらなさそうな空間でボッチはつらいぞ?
結構前に仮想空間でヘマして隔離空間で一週間とかやったことがあるけど、これって終わりがなさそうじゃん?
歩き出して気付いた。
魔導書がなくなっている。
転移ミスで送られなかったのか、それとも消えたのか……俺もその可能性があったと……怖っ。
そのまましばらく歩いていると、いきなり声が響いた。
『侵入者を確認・排除』
その声と同時にどこからともなく『騎士』が現れた。
こいつも真っ白だ。
見た目は中世の騎士様だが、兜から翼のような装飾が膝裏あたりまで垂れ下がっている。
白すぎて清潔感とか白騎士みたいなカッコよさよりも、気味悪い、怖いといったものを感じる。
「なんだ、あんた」
返事は抜剣という形で来た。
間合いの長いロングソード、見るからに突き刺す、叩き斬るといったものではなく刃があって斬るためのもの。
そして腕を身体の前で構えると、白い光が集まって全身を覆い隠すほどの大盾が出現する。
「や、やる気かよ……?」
戦って勝てる気がしない。
騎士が剣を振り上げて下ろすと、白一色の世界が変わる。
どこまでも突き抜けるような蒼空。
若草が生える新緑の大地。
剣の切先が俺に向けられる。
やるしかないよな?
腕を突き出して、威嚇のために火の玉を発生させる。
動いたら撃つ。
思った途端に騎士が向かってきたので撃った。
反射的に目を瞑ってしまったが、恐る恐る開けてみると騎士の斜め後ろに切り裂かれたであろう火の玉が落ちていた。
……。
…………。
は、あはは……やばい、やばいよこれ。
火を斬ったというか、魔法斬りやがった。
「あ、アクアグラディウス!」
ベインが使っていた魔法だ。
鉄の檻を簡単に斬れたんだ、騎士の鎧程度ならやれる。
身体の中に弱い電流が流れるような感覚が走り、それが指先に集まって水の刃が顕現する。
これ、魔力の流れだろうか?
刃が飛ぶ。
騎士が角度をつけて盾を構える。
弾かれる。
……どうしようもないな、勝てないな。
思った瞬間、騎士が斬り込んできた。
身体を落とし、斜め下からの切り上げ。
脇腹のあたりから騎士の剣が入ってきて、そのまま何の抵抗もなく心臓を通過するコースで肩までスパッと……。
これ……死んだかな?
「根幹を成すもの!」
目の前が真っ黒に染まる。
騎士が闇に呑まれて消えていく。
「おい、なに死んだような顔してんだお前は」
「はい? いや、だっていま斬られ……てない?」
「空間魔法を使えば触れて斬らないということもできる」
「……?」
「いくぞ。……はぁ、まったくレイズめ、なんで俺まで中継界通行禁止にするかな」
「いーさ?」
「中継界、簡単に言えば世界と世界をつなぐ門の一つだな」
「へぇ……」
「ちなみにお前の場合はここを通らなければいけないところ、特殊な魔法で素っ飛ばして飛ばされたから色々と不備があるんだ」
「不備? なんかあの堕天使もそれっぽいこと言ってたけど」
「あいつのゲートは直通だからな。正規基準のデータを不正な経路で流せるが、お前の場合は破損データ的な扱いだったんじゃないのか」
破損ねぇ……俺はダメージ受け過ぎていろんな意味で壊れてんだろうな。




