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アナザーライン-遥か異界で-  作者: 伏桜 アルト
dreaming of dream [夢を見る夢]
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 彼女の想い-11

 アキトが走り去り、その後ろ姿が見えなくなると同時に嫌な気配が集まり始めた。


「……厄介だよなぁ」


 この世界では生き物が死ぬとなんであっても放っておけば、基本的に動き回る死体として見境なく襲ってくるようになる。

 原因はよく分かっていないが、噛まれたりしても感染するようなことはないのでなんらかのウイルスということではない。

 レイズとしては正直なところ、倒せば武装も含めてすべて灰になってしまうので倒したところで疲れるだけというモノだから相手をしたくない。

 それでも襲い掛かってくるものだから、しかも魔法まで使って。

 倒す以外に道はない。


「……、」


 静かに息を吐いて、胸の前で拳を打ち合わせてファイティングポーズをとる。

 レイズの戦闘方法は基本的に広域掃射魔法でまとめて消し飛ばすか、魔法剣か拳による接近戦だ。

 凄まじい腐敗臭が漂い、あたり一面を不自然なほどに多い魔物に囲まれているが、表情には一欠けらの焦りもない。

 腐敗した剣士の亡骸が襲い掛かってくる。

 腰を落として振るわれる斬撃を躱すと、カウンターに鎧の中心めがけて掌底を叩き込む。

 分厚い鎧が体の芯まで響くを音を発しながら砕け、すでに停止した心臓ごと撃ち抜いた。

 よろけて体勢が崩れたところにさらに連撃を行う。

 手を引くとすぅっと手刀の形を作り、その延長線上に作り出した光の刃を首に食い込ませる。

 水分を多量に含んだ生ごみを焼くような音と臭いが散らされ、その首が落ちるよりも先に灰に変わっていく。

 武器も鎧も、その亡骸を構成したすべてが灰に。

 その者が死んだときに持っていた物、身に纏っていた物は極稀にそのまま残るが基本は灰になってしまう。


「疲れるだけでなんの得もない……えぇい!」


 背後から斬りかかってものを下から斬り上げる。

 分厚い装甲をものともせずに、アーク溶断のような激しい閃光を散らして両断されて灰となって風に流れていく。

 食い掛かってきた腐った狼を蹴って、部分的にまだ肉が残っている骨格スケルトンの頭を殴って砕く。


「ちまちまやるのは面倒だ――降り注ぐ光(ルクス・プルヴィア)


 レベル20前後の強力な光属性の魔法。

 詠唱と同時に空の彼方で何かが煌めいた、その瞬間に真っ白な光の槍が降ってきた。

 狂いなくレイズに近いものから串刺しにしていき、数十体ほどが灰塵と化した時には魔物が逃げ始めている。

 だがレイズは一体も逃がす気はなかった。

 なにより、ここから先に進ませたくないから。


焦熱地獄(イグニ・インフェルノ)!  うん、やっぱこれって文法的にはおかしいな」


 魔法の基本は属性の定義と役目の定義、そこにオプションとして効果範囲や威力などの付け加えがある。

 いま詠唱されたのはレベル30前後、禁術指定される魔法だ。

 昏い大地に不気味な赤い光が浮かび、亀裂が広がるように徐々に暗黒を浸食していくと火の手が上がり始めた。

 魔法自体は発動しても、その効果が発揮されるまでは少しの間がある。

 レイズはさらに続けて詠唱した。


滅びゆく世界(デカデンス・アケロン)


 レベル30前後、これもまた禁術指定だ。

 腐食の概念を時属性の加速で著しく局所的に進めていく魔法。

 これは先ほどの魔法の外側に展開する。

 これで逃げたならばすでに腐りかけの魔物たちは瞬く間に塵に、逃げなければ焼かれて灰になる。


「あ……ちょっと火力が強すぎたかな」


 落ち葉を赤に染め、生えていた木々を伝って空に向かう巨大な火柱。

 このままでは酸欠か焼け死ぬかだ。

 だというのにレイズの顔に焦燥の色はない。


「はぁ……ここまでやるとあいつらがうるさいなぁ」


 魔法はレベル30を超えるとぽつぽつと禁術指定のものが現れ始める。

 別に誰がどう定めたとかではなく、いままでの戦争で使われて甚大な被害を残した故に使わないようにしようと言われているだけだ。

 だから”使ってはいけない”と決められていることではないが、事実上は使ってはいけないことになっている。

 無闇に使えばそのうちに『神の裁き(ジャッジメント)』という勢力に狙われる可能性がある。

 連中は混沌と化した戦場にふらりと出現したかと思えば、戦闘の鎮静化を名目にその場のすべての勢力に対して攻撃を行い、禁術指定の魔法を使った者を積極的に殺しに来る。

 ただしレイズはこれを何度も単独で撃退しているが。


「とか言えばアキトが使ったのも……大丈夫かな?」


 アキトがヴィーグリーズで使った氷の結界のようなもの。

 氷の迷宮……アキトはブリザードボムと呼んでいたが、レベルは50くらいだろうか。

 あそこまでいくと空間そのものを凍結させて一時的な砦を作り出すものと変わりがない、そしてそれも禁術指定である。

 大抵禁術指定にされるのは使用後に長期に亘って何かしらの影響を残すものだ。

 雑草すら生えないほどに大地を汚す毒、地形を変動させるほどの爆破など様々だが。

 レイズはとりあえず考えることをやめて、魔法を放ったエリアへと集中する。

 自分の魔法で干渉したものならば直接見なくてもその状態が分かるレイズ。

 干渉範囲内を隅々まで確認しても動く敵の姿は残っていない。


「しゅーりょー……でいいか。アキトには悪いが先に飛ぼう」


 空属性の魔法を詠唱し、銀色の燐光が舞う。

 レイズの体が包まれると一際強く光って、その姿は消えていた。



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