彼女の想い-6
目覚めると星の綺麗な夜だった。
覚醒した意識が真っ先に捉えたのは、鼓膜を激しく叩く銃の激発する音。
そして水っぽい何かの炸裂する音。
ぼんやりと目覚めきっていない思考で考える。
銃声はキニアスだろう、あの優男は確かに銃を持っていたはずだ。
炸裂は……なんだろうか?
まあなんにせよ、とてもうるさいの一言で片が付く。
是非ともよそでやって欲しい目覚ましだな。
この場合はイヴニングコールか。
「…………ん」
このまま二度寝に……。
いやちょっと待て! もろに戦闘中の音だよな。
慌てて起き上がると周りに生い茂っていた木の枝が顔を掠めた。
「わぶっ」
払いのけてあたりを見ると森のすぐ近くだった。
「よう寝坊助、さっさと逃げるぞ」
キニアスが見た目散弾銃をぶっ放しながら言う。
「はぁ?」
「まだ寝ぼけてんのか。その顔、火で洗うか?」
キニアスの手の平に火球がぼわっと燃え盛った。
水を創れないからってそれはない。
そんなもので顔を洗う(焼く)と余裕で死ねる自信がある。
まあ回復魔法があるから俺はどうとでもなるが。
「いややや、起きてますよ」
「だったらいい。レイズが押さえてる間にずらかるぞ。ついてこい」
キニアスは自分の肩の高さに火球を浮かせると、それで足元を照らしながら森の中へと走って行ってしまった。
ついて行こうと立ち上がれば後ろからヒィィンという音が聞こえる。
後ろを振り返ってみると、レイズが白い精霊のようなものを従えて舞っていた。
戦っていたというよう舞っているというほうがしっくりとくる。
あたり一帯を埋め尽くすほどの敵に囲まれながらも、軽やかなステップで危なげなく妖精のようにひらりひらり躱し続け、尾を引くように追従する白い光が燐光を散らす。
華麗でありながら確実な回避行動だ。
俺は間違いなくその姿に見惚れていた。
まるで戦っていることを感じさせず、独り敵を翻弄し続け、力を失ったように一人、また一人と敵が地に膝をついてゆく。
白い燐光を振り撒きながら舞うその姿は戦乙女のように凛々しく優美だった。
「アキトー! 置いて行くぞ、さっさと来い!」
はっと気づいて森の方を向けば、ぼんやりとした明かりしか見えなかった。
キニアスって狙撃兵のような感じなのに足が速いんだな。
「はーい、すぐ行きます!」
俺も火の玉を数個創りだして、明かり代わりにして森に駆け入った。
やはり靴があるだけで格段に走りやすい。
森の中なんてひ弱な人間の足じゃあっという間に穴だらけの血だらけになるだろう。
「あの、今どういう状況ですか?」
「お前のおかげでこの戦線の敵は三割が撤退。そこにうちのリーダーが殴り込んで、生き残りはさっきいた連中だけってな」
「俺なにもしてませんけど」
「ヨトゥンヘイムで騒ぎ起こしたろ? それで収拾のために敵が引いて戦線が崩壊したんだよ」
……なるほど。
俺がやらされたおかしなこともちゃんと意味があったのか。
先にこういうことをしたらこうなるからって言ってほしかったなぁ。
「それと……」
キニアスがおもむろに不審な表情で話しかけてくる。
「頭の上のってマンドラゴラ……か?」
「はいそうですよ、面倒だから説明はしませんけど」
本当に面倒だ、あの一連のことを話すのは。
それに、どうもこの世界ではマンドラゴラはナス科じゃなくて魔物らしいし。
こんなものを頭に乗せているだけで変な目を向けられるのは仕方ないが、約束でもあるため下ろせない。
しばらくは我慢だな。




