彼女の想い-5 〉〉 第一層アスガルドのどこか
騒ぎを起こしつつ脱走して、城壁を壊して逃げろ。
最初に言われたこんな内容のことだが、危ないお兄さんたちと戦って、見渡す限りの城壁を跡形もなく吹き飛ばす。
そんな感じで達成したが、少々やりすぎな気がしてならない。
……ま、いいか。
やれと言われたからやりました。
こんな感じで責任は押し付けて逃げることができる。
「……?」
それよりも俺は一体どこに飛ばされているのだろうか。
目に映る景色は流れ、霞み、体に当たる風は切り裂くような強さ。
それほどの速度で飛んでいるような感覚だ。
なによりもこの飛んでいるとしたら、この速度ではどこに落ちようが死ぬよ……。
「嫌だよ」
集中するんだ。
きっとどこかに落ちても大丈夫な場所あるはずだ……あるよね?
飛び降り自殺を防ぐために広げられるエアクッションのようなものとか……俺の常識で考えちゃダメか。
この世界にそんなものがありそうにない。
しかしなぁ、速すぎるな。
日頃からゲームで鍛えているからそれなりに反射神経はいい(と思う)し、ある程度動きの速いものでも見える。
考えろ、考えるんだ、どこかに落ちても(突っ込んでも)安全な場所があるはずだ。
山脈に当たれば、瞬間ミンチ。
平地に当たれば、瞬間ミンチ。
森林に当たれば、瞬間ミンチ。
ならば海は?
これもダメだ、この速度なら水面でもコンクリートにぶち当たるのと同じだ。
それに万が一綺麗に落ちたとしても溺死してしまう自信がある。
可能性があるではない、してしまう自信がある。
俺……泳げるけど泳ぎは苦手です。
「どうするよ?」
ぐるっと周囲を見渡すと、進む先に戦火が見えてきた。
高くまで立ち上る黒い煙と地上で瞬く砲火。
そんな中に不自然な光があった。
規則性がある。
……あれ、モールス信号?
-・-・ --- -- ・
--- ・・・- ・ ・-・
・・・・ ・ ・-・ ・
なぜだろうか、知っている。
学んだ覚えはないのに自然と頭の中で分かる形に翻訳されていく。
C O M E
O V E R
H E R E
こっちに来い、か。
どうやって方向を変えればいいんだ?
このまま飛んでいくと斜め上を通り過ぎて戦火の中にダイブすることになるのだが。
……これだけ速度があるんだ、後は翼があれば滑空できるじゃないか。
そうと決まれば確保するべきは翼。
今使える魔法の中で翼にできそうなものと言えば水しかない。
すぐに水魔法をイメージ、形は腕から延びる膜のように、魚の背びれのように。
戦闘機の動きをイメージしてピッチとヨーで動けることを確かめる。
動きはできた、後はあの光に向かって飛ぶだけ。
一つ思う、どうやって俺を受け止めるつもりだろうか?
だんだんと光の正体が見えてきた。
手の平に炎を出したり消したりしているキニアスだ。
そしてその手前側、キニアスに指図している白髪の後ろ姿はレイズだろう。
「ってぶつかる!?」
呑気に思っている場合じゃない。
こっちに気づいていないレイズ、もう方向を変えるには間に合わない俺。
しかもこの速度。
ぶつかればただじゃすまないことは確実だ。
目を閉じる一瞬前、レイズがはっと振り返って、そしてとても柔らかい何かに思い切りぶつかった。
単語登録やユーザー辞書、学習情報その他もろもろ消えてしまったので誤変換多発中……。




