フェニックスの少女-23
さらに数日たった(であろう)ある日。
「ああもう! 退屈!」
そんな叫びと共に勢いよくフェネが立ち上がった。
気付けばそこらじゅうに恐怖を感じさせる赤い燐光がひらひら。
フェネが大股で前を横切り、乱暴な歩きにワンピースが翻る。
赤い燐光もあってか身体のラインが透けて見えるし、ワンピの下も見えるが。
「あの? フェネさん?」
すたすたとドアまで歩いて行くと、片手に赤い燐光を纏わせて殴りつけた。
普通の音じゃない。
戦車の砲撃のような音だ。
鼓膜が冗談抜きに破れそうで耳鳴りがするほどの。
そして何かがぐちゃりと潰れるような音もした。
俺はその音を両方とも知っているような気がする。
……って待てよ。
そういう音がしたってことは、殴り飛ばされたやけに頑丈なドアに挟まれて一人死んだってことか。
それに魔法は使えないはずなのに、なんで使えたんだ。
というか止めないと。
「フェネ!」
なにやら不穏な音を聞きながら地下から出ると、そこはもうフェネの独擅場。
地獄だ。
振り下ろされる大振りの剣を真正面から殴って折る。
折れた切先は怖いお兄さんに突き刺さってさらなる被害を生み出す。
さらに詠唱されて飛来した魔法を蹴って跳ね返す。
ひらりとワンピの下が見えるとかなんとかより、魔法を蹴り返すほうに目を奪われる。
そして極めつけは撃ち出される銃弾に当たっても掠り傷。
おかしいな、あれって女の子だよね?
不死鳥だけど。
「お、おぉいっ! あんたの召喚獣なんだろ!? 止めてくれ、降参だ!」
近寄ってきた強面のお兄さんが泣きついてきた。
腰辺りに抱き付くように崩れ落ち、見上げてくる顔は怖い。
だってただでさえ怖い顔が泣き顔という成分でさらにあかんことになってるんだもの。
それにそんなことを言われてもねえ……。
ちょっと前に言う事聞かないなんて言われたばかりだし。
……いや、監督責任だよな。
さすがに放置すると後が怖い。
「あの、降参したら俺の言うことを聞いてくれますか?」
先にこっちを押さえてからじゃないとな。
目の前の殴殺魔はなんとかできてもこっちが問題だ。
「聞く聞く、何でも聞く! だからさっさとどめでぐれよー!」
「本当に何でも?」
「ああ!! 聞くって言ってるだろ! だから頼む、早く止めてくれぇぇ!」
言質いただきましたー。
泣きながら額を床に擦り付けられちゃあ仕方がない。
「フェネ! そのへんでやめなさい!」
そう言った瞬間、
「燃やし尽くせ、深淵の業火」
フェネは容赦のない魔法を放った。
囲んでいた怖いお兄さんが三人も炎に包まれ、火達磨になってジタバタ暴れる間もなく真っ白な灰になってさらさらと崩れた。
「こら、フェネ!」
なおも攻撃の手を緩めない。
こいつ、本当に言う事聞く気がねえな。
こうなれば俺もちょっとばかり危ない手段を使わせてもらおう。
最初のときと同じように触手で……。
と、思ったのだが石の床。
近くに観葉植物などもなく種も持っていない。
「あの、すみません、植物の種ありませんか」
「マンドラゴラの種ならあるぞ」
う、ん……?
マンドラゴラ。
俺が知る限りは人みたいに動き回って、埋まっているものを引き抜くと悲鳴を上げてそれを聞いた人は死ぬという、例に例のごとくありきたりな伝説のあるアレのことだろうか。
そ、そんなもん。
べ、べべべつに怖い訳ないしね。
「麻薬の原料だが……何をする気だ?」
あぁ、麻薬の……それはそれで不味いが、俺の知っているマンドラゴラではないようなので安心だ。
でも麻薬の……これはこれで不味いような気はするが、他に手段がないため早く止めないと。
こうして考えているうちにもさらに血祭りに上げられている犠牲者が増えているのだから。
「えぇい! どうにでもなれ!」
魔法をイメージ……したのに強引に力だけを吸い出された。
鮮やかな緑の燐光が帯のように現れ、種を包み込むように集う。
なんだか気色悪いので反射的に投げてしまったが、種が床に落ちると同時に爆発が起こった。
爆発といっても熱膨張ではなく、根っこが爆発的に溢れ、伸び、空間を支配していく。
瞬く間に部屋全体がジャングルの奥地に放置された家の中のようになってしまう。
そして種が落ちたはずのところには毒々しいほどに色鮮やかな巨大な蕾が生えていた。
……デジャブだ、何かよからぬ”モノ”が出てきそうな気がする。
いやいや、きっと映画の見すぎだ、そんな変な”モノ”が出て来ることはないはずだ。
「……マンドラゴラってどんな植物なんですか」
不気味なほどに静かになった部屋で、怖いお兄さんたちが耳を塞ぎながら答えてくれた。
「テメッそんなことも知らねえのか!? 叫び聞いたら死ぬぞ!!」
あー……そういうところは合ってるのね。
眺めていると巨大な蕾が開いて中から小さな人の形をしたものが姿を現した。
それは女の子の形をしていて、手のひらに乗るほどの大きさで、腰回りににスカートのように花弁がついていて……。




