フェニックスの少女-22
「……………………」
「…………なによ」
「いえ、なんでもありません」
さて、現状を確認しよう。
人は何もしないと時間の感覚が狂うという。
朝起きて、固いパンとチーズの欠片がドアの隙間から入れられるのでフェネと分けて食す。
そしてなにせずにぐーたらして昼になると水と固いパンとチーズが入れられるのでフェネと分けて食す。
そして……夜になると……ので分けて食す。
そういうのを何度繰り返しただろうか。
もう何日目なのか分からなくなってきた。
働かなくてもぐーたらしていても朝昼晩とパンとチーズと水は食える。
ただし、麦がダメなのか製粉技術がダメなのか、はたまたただ単に質が悪いのかは分からないが苦いパン。
明らかに乾燥しすぎで古い固いチーズ。
水は雨水を溜めて煮沸したのか不味い。
「…………」
「……なによ」
「いえ、なんでもありませんよ」
ああ、なんだろう。
ぼんやりと思い出してきた。
毎日毎日「万年引き籠もり出てこーい」と、部屋のドアを叩く女の子がいたような……。
いや、気のせいだろう。
こんなダメ人間を気に掛けるやつなんかいないはずだ。
しかしなぁ、ここは石造りで布団もない。
家賃は払わなくていいが、テレビもなければエアコンもない。
そしてなによりもパソコンがない。
「…………」
「……なによ」
「いえ、とくに」
そろそろ床に寝たふりしてフェネのワンピースの中をチラチラ見るのも飽きてきた。
どうも穿いてないようだ。
つるつるだ。
……これでも健全な引き籠もり男子学生ですよ。
自己処理できない状況下で女の子と二人きりですよ。
しかもかなり可愛い。
考えても見てほしい。
すぐ近くで穿いてない女の子が無防備にも体育座りで惜しげもなくさらしているのだ。
ノーパンでつるつるだ。
恐らく紳士的な誰しもがこんな状況下におかれたなら興奮するだろう。
しかしながらマイサンは黙ったままである。
ピクリとも動かないのだ。
明鏡止水だ、鳴鏡響水(こんな言葉ないけど)みたいに荒れ狂ったりしないのだ。
不思議だと思うか?
いや、思うでしょうね。
なんで溜めこんだ男子が襲わないのかと。
……襲えないからね!
性的な興奮よりも殺されるかもという恐怖が勝っているのだよ。
「…………」
「……なによ」
「そろそろ脱出しませんか?」
「…………」
「…………」
俺一人では到底脱出は無理なので、とりあえずお姫様のご機嫌取りに勤しむとしよう。
見るだけでオサワリ禁止。
生殺し。
下手すればこの助けの来ない閉鎖空間で殴殺……は、されないか。
されない?
襲っても抵抗できない?
いや、後が怖いから手出しはしないけども。
-1-
あれから何日か経った。
排泄物は部屋の隅のツボの中に。
凍結乾燥して臭いは抑えてあるが、うちのお姫様のそういうことが目の前で……げふんげふん。
仕切るものがないから仕方ないんですよね。
「どーやって脱走するか……」
こんなところにいつまでもいられない。
この数日俺が何もしなかったかと言えば答えはノーだ。
粗大ごみをドアに投げつけてみたり、折れた剣で床を掘ろうとして失敗したり……。
何とかして鉄格子の窓に取りついて、無理やり抜けようとしたが抜けられる訳もなく。
本当に魔法が使えないのかと、気絶しない範囲で最大の魔法をイメージすれば形にならずに終わる。
こう、なんというかゲームとかでプロセスメモリエディターで数値を弄るとパッと状態が変わるような、そんな感じで発動寸前からパッと消えてしまう。
どうやって脱出するか……。
うーん……。
病気か死んだふりか。
これはダメだろう。
こんな食べ物を出す時点で生きていればいいけど死んだらそれまでのような様子だし。
某映画のように飯の時間になって看守が近寄ったところを捕まえて、というのも無理か。
俺にそんな技術があればそもそも捕まっていないのだから。
「うーん……」
部屋の隅でふるふると震えながら体育座りに顔を埋めているフェネを見ながら方法を考える。
するとふとゲスな方法が浮かんだ。
俺も仲間に入れてくださいよ兄貴、掃除でもパシリでもなんでもやりますぜ、それにいい女の子もいますぜ。
というような感じで取り入ると俺が殺されるだろうからやめよう。
ダメだな。
殺されないけど終わった後で別の方向から殺されそうな気がする。
我が辞書にプライドというものはないが、さすがにああいうお兄さん方と関係を持ったら後はずるずると引きずり込まれていくだけだ。
「あぁ……ほんとにどうしよ」
案が浮かばない。
この引き籠もりでニート野郎にはいざというときに役に立つ知識はあっても、実行するだけの技術が一切ない。




