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アナザーライン-遥か異界で-  作者: 伏桜 アルト
dreaming of dream [夢を見る夢]
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フェニックスの少女-15

「…………思いっきりイザヴェルじゃないですか」


 龍が尾を上げ、そこから囲まれた場所の外に出ると、すぐ近くに石柱が見えた。

 空は相変わらずの色でなんだか不安な気分にさせてくれる。


「きょろきょろするな、客が来た」

「客?」

「あそこだ、ちょっと丘になってるところ」


 指を差された方向を見ると、百メートルほど離れたところにおかしな集団がいた。

 こちらに向かって歩いて来ていて、服装は暗色系で統一され、中二病じみた思考がなくてもはっきりと分かるほどのオーラのようなものを纏っている。


「あの、キニアスさん。あれはどちらさまでせうか」

「さんはいらない、それに口調がおかしくなってるぞ」

「あ、はい。すみません」

「……あれはチャーチっていう戦闘狂の集まり、と僕は聞いている」


 客、と言っていたが。

 あんなのが本当に客なのだろうか。

 雰囲気としてはいますぐにでも殺し合いを始めそうなそれ系の人たちのような感じだけど。


「ほら、やるぞ構えろ」


 キニアスは至極面倒くさそうに言うと、銃を構えてバースト射撃。

 いきなりだ、警告も何もなくぶっ放した。

 放たれた弾丸。

 最初のものが火花を散らして弾け飛び、最後のものが一人の頭を弾き飛ばした。

 赤い霧が飛び散る。


「なっ!?」

「連中は敵だ。お前はこっち側を頼む、僕は反対側をやるから」


 言うだけ言うとキニアスは龍の身体に沿って反対側へと走って行く。


「はぁ……なんだかなぁー」


 前方に視線を戻すと、仲間がやられたというに一切動じずに向かってくる不気味な集団。

 距離が縮まったからなのか恐怖なのか、肉食動物に相対したかのような震えがある。

 視線を落とせば震える手。

 ほんの数日前までは引き籠もりで、部屋に籠りっきりで仮想現実ネトゲで遊んでいたはずなのに。

 パソコンが恋人です、と言えるような堕落した生活でぐーたらしてたはずなのに。

 あの訳の分からないおかしな爆発さえなければこんなところには来なかったんだろうな。


「はぁぁ……」


 いや、もういい。

 帰れないのならばどうにもならないことをあーだこーだ言っても仕方がない。

 今は目前の脅威に対処しなければ。

 と、顔を上げた瞬間に固い何かが当たって空が見えた。


「あれ……?」


 じわじわと痛みが感じられてきた。

 殴られたんだ。


「殺せ殺せ殺せぇぁぁああああっ!」


 叫びを上げながらさらに殴りかかってきた。

 それを一歩引いて躱すと相手は体勢を崩してそのまま倒れてしまう。

 起き上ってきたやつ、後ろから続くやつらの顔を見ればすぐにどういう状態なのかは察しが付いた。

 ネットで見たことしかないが、これは薬を使っているやつらの顔だ。

 妙に皺があり垂れた皮膚、瞳孔の開き切った虚ろな瞳、服から漂ってくる刺激臭。

 肌の露出しているところを見ればカサブタのように注射の後が連なっている。

 間違いないだろう。


『一応言っておくが、そいつらは常習者だから』


 ある程度の考えが纏まってきたところで、唐突にレイズの声が頭の中に直接響いてくる。

 今更そんなことを言われても遅い。

 それに、どうやって話しかけてきたんだろうか。

 いや、今はそんなことはどうでもいい、目の前のやつらをなんとかしないと。


「あぁーーやぁあああああああっ!」


 何を言いたいのかは分からないし理解する気もない。

 殴りかかってきたやつからバックステップで距離を取りつつ、相手の胸元に爆発をイメージ。

 身体がバラバラにならない程度に抑えて吹き飛ばし、気絶させる。


「次は…………っ」


 一人に時間をかけ過ぎたか、いや、でもそんなに経ってないはず。

 それでも囲まれかけているこの状況。

 ドラッグの常習犯ともなればなにをしてくるか分からない。

 範囲攻撃だとやりすぎてしまうだろう。

 ならば……触手。

 あれなら拘束する程度だろう。

 先日の触手たちの惨劇を思い出しながら、魔法をイメージする。

 燃え盛る植物の蔓がやつらを捕らえる。

 イメージすると赤と緑の燐光が溢れ、足元の草に降り注いで急速に成長させていく。

 色は見るからに不気味だ。

 それで引いたのは、俺だけではなかった。

 やつらも足を止めた。


「これからどうなる……?」


 見ていたのはほんの数秒、もしかしたらコンマ何秒かだったかもしれない。

 成長した草が花も咲かせず種を散らす。

 ふわりと宙を舞った種が大地に落ちると、地面に亀裂が入って割れた。

 そしてそこから焼けた鉄のように真っ赤な触手が幾本も姿を現す。

 予想以上に危なそうなものを出してしまったな……大丈夫か、俺に制御できるのか。


「うやぎゃああああっ」


 思っていると意思があるかのように、勝手に動き始めた触手が一人を締め上げる。


「げ、げいき、迎撃、し、しろっ!」


 一人がそう叫んだ。


燃え盛る剣よ(イグニ・グラディウス)


 一斉に詠唱が行われ、その瞬間に術者たちの手首から先が燃え上がった。

 肉と血が焼ける、鼻をつく臭いが溢れ出る。

 剣の先端から蛇のように這い出た炎が術者たちの腕を侵食して炭化させていく。

 何かで見たような……不動明王の……剣か?


「ぐっ、ぎぎっ、がぁぁっ!」


 自分たちの腕を焼きながらも灼熱の触手を叩き斬っていく。

 俺の触手たちが瞬く間に切り刻まれるが、それでも近づいてしまえば他の触手に絡め取られ、ジュゥゥゥと。


「やめろ! やりすぎだ触手ども!」


 命令したが、意に反して触手は締め付けを強めていく。

 ボギリッ、グチャリッ、ボタボタと落ちた何かが灰に変わる。

 ゲームでいくら殺しに慣れているとはいえ、ごく普通の引き籠もり。

 ごく普通の一般人。

 現実リアルでこういうことは……ものすごいストレスだ。

 人としてやってはいけない禁忌を犯してしまったときのような、そんな罪悪感というか……。


「ひっ、ひぃぁぁあ」


 運良く残っていた一人が逃走を始める。


『逃がすな、殲滅しろ』

「…………」


 逃げる背に向かって、手を向けて照準。

 火炎弾を一発だけ撃って命中させ、敵は前のめりに倒れてそれきり動かなくなった。

 だがかなり弱めにしたはずだから、死んではないだろう。


『次、南側から来る』

「…………」

『さっさと行け。それと躊躇うな、躊躇ったら死ぬのは自分だけじゃない、仲間まで危険にさらす』

「……っ」


 指示に従って、生体磁石で大まかな方角に見当をつけて行くと、すでにキニアスが一人でセミオート射撃をしていた。

 しかし撃っている方向には何もない平原が続くだけだ。

 スコープで見ている訳でもないし……目視できる距離の向こう側にいるのか?


「見えてるんですか」

「見えてる。お前、目が悪いのか」


 悪いのかと言われたら悪いとしか答えられない。

 引き籠もり中は常にネトゲかパソコンの前に張り付くかのどちらかだったから。

 たしか、最後に自分で測ってみた時はコンマ以下だったはずだ。


『キニアスはスコープなし、勘だけでキロメートルクラスの狙撃をこなすから』

「すごいですね……」


 勘、って言ってもいままでの経験が無意識下で蓄積、処理されて最適な行動を無意識に行っているだけだ。

 無意識……エス……記憶の……記憶?


『まあ、一つすごいことがある。そいつ、ハンドガンでカウンタースナイプしてっていう武勇伝があって』


 思考が遮られた。


「ハンドガンって飛んでも五十メートルくら」

『細かいことは気にするな』


 言葉を遮って言われる。

 言わせたくないみたいだ。


「分かりました」


 それきり会話が途切れる。

 静かになった場にセミオートの銃声だけが響く。

 時折りマガジンを落とす音とリロードの音。

 俺はキニアスが撃っている方向を見続けていたが、全然どこを狙って撃っているのか、そもそも当たっているのかすら分からなかった。

 そのまま数分が経った頃。


「終わりだ」


 キニアスがそう言って、銃を肩に担いだ。

 銃身がかなり熱せられているようだが、大丈夫なのだろうか。


「はぁ、つまらん。撃ち返しがこないと訓練射撃と同じだね」

「それが人を殺していう事ですか」

「ああそうだね。僕としては、やつらは人と言うよりも狂った戦闘機械のようなものだから」


 それは殺しを専業にする者にとっては正しい理解だろう。

 人を傷つけて、表面的にはどうも思っていないつもりでも、誰だって心の奥底に見えない傷を増やしていくんだ。

 それを受け付けないようにするには別のものを、別のことをしていると言い聞かせるのが一番だから。


「ですけど」

「いいか、躊躇ったら僕たちが死ぬんだぞ」

「だからって殺さなくても……」


 いくら敵があんな状態だからって、殺してしまうのには抵抗があった。

 もう何人も殺めてしまっているけど、それでも殺すのには抵抗があった。

 別に殺さなくても死なな程度にダメージを与えて気絶させてしまえば、それで取り押さえてしまえばすむことじゃないのか。

 今までに溜まっていた変なストレスが、キニアスの言葉と態度で爆発寸前になる。


『やめろ新入り(ニュービー)ども。

 喧嘩するなら次元の狭間に蹴り落としてやるからそこでやって来い』


 ベインの低い声が響いた。

 見た目も然ることながら声も怖い。

 二人してぶるりと震えあがり、爆発寸前だった変な感情も一瞬でクールダウンして引っ込んでしまった。

 この程度で……所詮はその程度の感情だということ。


『おいベイン、落としてもいいけど回収は自分でやってくれよ』

『レイズさんよー、あそこからのサルベージは非常に面倒で大変なんだ。俺がやる訳ないだろ』

『そりゃそうか、でも二ヴルヘイムあたりには落としそうだな』

『やらねーよ。ここから下まで何千キロあると思ってる? それにあそこは環境が酷すぎるし。

 ま、ヨトゥンヘイムには連れていくがな』

『あ、そうだったそうだった。罪状は何にする? 痴漢か? 強姦未遂か?』


 な、なんだろう、不穏な単語や内容がダダ漏れなんですが。


『主にお前がやられたことばかりだろ』

『まあまあ』

『はぁ……こっちで適当にしとくから』


 そこで声が途切れると、龍の身体が持ち上がってベインが歩いて来る。

 黒髪に青い瞳の怖いお兄さん。


「まあそういう訳なのだよ、アキト君。気絶と拉致に移動ばかりで悪いな」


 明智君のようなノリで言わないでほしい。

 そして回避する間もなく、頭を鷲掴みにされて、俺の意識はまたも沈んでいった。



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